ミーへ

 猫

 清められた瞳

 鴉と同等に愛されたもの

 背後に首をねじ向けた、記憶の中のあの晴れ姿


 名前のない猫などいない

 しるべなき

 流離い人の行進の

 足跡のひとつにすら

 名前はある


 ボタンをかけ違えた愛のように

 猫の苦手なものはない

 執着は罪だと

 日だまりの境界線から

 ささやき続ける

 その手には遠未来の花束


 猫

 清められた瞳

 ポリタンクの陰で嘲られたもの

 奥処からまかり出る、うじゃじゃけたあの晴れ姿


 猫の視線には輪郭がない

 色彩だけがある

 蒼古たる

 朽ち果てた大聖堂のような

 その瞳


 なじみの手すりのひとつほどにも

 他人の指を愛さない

 九つの魂は

 きっと尾の先にこごっていて

 非情の淵を渡っている

 その手には遠未来の花束


 猫

 おまえは

 触れられない氷のように

 境界の向こう側で溶け去っていく

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