秋の巡礼、または名づけられた秋

 いまは秋

 隣家の庭に金木犀が花開く時

 袖の隙間からつめたさがもぐり込む時

 指の関節がパキパキと意固地になる時

 くるおしいほどに秋、めくるめく秋


 秋休みはなぜないか

 と 子どもの頃に放った非難にいま応えるならば

 自然が示す全休符に抗うためだ

 と 口はばったく代弁するだろう

 神の微笑みが黄葉になって顕れる

 子どもは首をかしげている、子どもの顔に冬が訪れる


 この国に秋はない

 ヨーロッパには秋がある

 この国に秋はない

 カシオペア座には秋がある

 この国に秋はない

 秋がある、秋がある、狂い咲きした秋がある


 紅葉を打楽器に喩えたフランスの詩人が

 アジアの片隅を眺める時

 いまは秋

 召命を受けた老婦人が

 車椅子をそっと離れる時

 いまは秋


 たなごころが

 季節の疲労をいたわっている

 祭りの終わった盛り場を儚んでいる

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