七、死神に借りたる聖人の物語

 その『アルツェフィアしき』のきじゅつにほぼまちがいございません。ただ、わたくしはしっています。わたくしをころしたのがだれか。そのもののなは、みやひばりせんやです。すくいにまいったわたくしをかのじょはうしろからさしたのです。ああ…わすれはいたしません。このうらぎりを…。


 わたくしがせんやにゆびわをわたしたとおっしゃるのですか?まさか。そんなことがあるとおおもいですか?わたくしにはかつらぎりゅうというあがきみがいるのですから…。そんなことをするはずがございません。わたくしがあいしているのはあがきみだけです。そのあがきみにさえ、まだけっこんゆびわをわたせてはいないというのに……。

 そもそもわたくしに、ゆびわがほしいとおっしゃったのはせんやです。みこはかみとならばけっこんできるからと、かのじょはわたくしにけっこんをせまりました。

 きっとわたくしをさしたりゆうも、わたくしがけっこんをことわったからにちがいございません。ええ。あなたのおっしゃるとおり、これはそうぞうです。

 わたくしがしっているじじつなど、ほんのささいなことだけなのです。

 それは、みやひばりせんやがわたくしをころしたことと、めいかいのやみへとしずんだわたくしのあとをおうものはひとはしらも、ひとりもいなかったということです。

 だれよりもうつくしく、けだかく、やさしい……あの、あがきみでさえも。






宇宙暦5000年1月1日出版

著者:莫奇

発行神:Simanikai

発行所:魄式会社シスカ書店

印刷所:シスカ印刷

製本所:シスカ製本

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シャルト聖戦記 水心 白夜 @kqrxxx

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