六、死神に借りたる巫女の物語
その『アルツェフィア史記』の記述に間違いはございません。
私は創造主である聖人シャルティア卿にこの命を救われました。聖人シャルティア卿は私が殺したようなものです。私が璃王国軍になど捕まらなければあのような事にはならなかったのに……。悔しくて、自分が情けなくてなりません。
私を人質に神々を天へ帰らしめんと璃王国の者たちが話し合っていた時、氷鬼国軍が璃王国軍の陣地に攻めてまいったのです。そこへ私を救うために聖人シャルティア卿がいらっしゃって……聖人シャルティア卿は何者かに後ろから刺され、亡くなられたのです。
はい。左様でございます。月が暗雲に隠れ、地上は真っ暗闇でしたから、誰が刺したかなどはわかりませんでした。
ただ、聖人シャルティア卿は
「私にかまわずお逃げなさい」
とだけ仰いました。
私は巫女です。神の言葉に逆らうことなどできません。ですから、聖人シャルティア卿の言葉に従い、ただ無我夢中で逃げました。
後は…皆様ご存知の通り、霖狼国にて78歳まで生き、この生涯を終えました。
指輪でございますか?ええ。たしかに…聖人シャルティア卿は私に指輪をくださいました。ですが、私は人間の女でございます。そのような者が創造主…それも聖人から指輪を受け取るわけにはまいりません。それに、聖人シャルティア卿には非の打ち所がない神代貴族の葛城竜殿下がいらっしゃいます。ですから、指輪のことは丁重にお断りして、聖人シャルティア卿にお返ししました。
このような姿になろうとも、私は聖人シャルティア卿の御慈悲をけして忘れたりはいたしません。
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