五、悪魔に問われたる竜の物語

 俺の知る話もその『アルツェフィア史記』の記述とほぼ変わりない。ああ、もちろん噂は色々聞いてるさ。だから〝ほぼ〟って言ったんだ。

 俺は聖戦当時、天界で留守番をしてた。まぁ普通、見た目年齢9歳の少年に戦はさせられねーしな。

 ああ、留守番してた一ヶ月間、特に変わった事は無かったぜ。強いて言うなら…ウラノスが毎日、俺の御機嫌伺いに来てたことくらいかな~。まぁ、会わなかったけど。

 なんでかって?そんなの決まってるだろ。シャルティアの奴がうるせーからだよ。だいたい、あいつが帰って来た時に妙な噂でも立っててみろ……想像するだけでもおそろしい。

 シャルティアをウラノスが殺そうが、誰が殺そうがかまわねーけど、俺はあの悪夢を終わらせてくれたそいつに今も感謝してるさ。

 もうシャルティアに剣で刺されたり…熱湯をかけられたり…嫌な神の接待をさせられたり…暗い部屋に閉じ込められたりすることは無いんだ。

 シャルティアから解放されてる今の日々がたとえ束の間の安息日だったとしてもかまわない。

 宇宙暦3000年7月7日。俺は神生じんせいで一番美しい空を見たんだ。珍しく、良い思い出の日さ。


 あんたのことだ、どうせ他の神からも色々聞いてきたんだろ。面白い話はあったか?宮雲雀扇弥の指輪……ああ、知ってるさ。見ての通り、俺の指に嵌ってるのは婚約指輪だ。だけど、あの女の指に嵌ってた指輪は結婚指輪だった。シャルティアがあの女にやったんだ。

 なぜその事を知ってるか聞かないんだな。まぁまぁ…シャルティアの事で気を使わないでくれ。

 シャルティアが死んで三日後、墓参りしに琥珀池に行ったら…そこにあの女、居たんだ。ずっと泣いてて、不思議だった。だから…しばらく後ろで黙って見てた。そしたらあの女、弱々しく振り向いて…ふらふらこっちに近づいて来たんだ。そんで、笑って言った。

「あなたが葛城竜殿下?なら、あなたが持ってるのは婚約指輪ね。私は聖人シャルティア卿に結婚指輪を貰ったわ。でも、もう…いらないの。あの方は死んでしまったもの。創造主だし、良い物件だと思ったけど…今はどうやらあなたの方が将来有望ね。私は巫女。神と結婚することを禁じられてはないわ。だからね…。あなたが、欲しいの…」

 俺はこの件でますます女型おんなが苦手になっちまったけど、そのかわりに指輪の真実は知れたぜ。

 よく、自慢気に見せてくれたからな。あの女が死ぬまでの50年間、ずっと…。

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