第6話

 大山さんと会わなくなって二か月が経った。


今僕は彼女のアパートの中にいる。無理に押し入ったのではない。彼女が招き入れてくれたのだ。あれから僕が警察のご厄介にならなかったところを見ると警察には相談していないらしい。さて、どうにも単純接触の原理で好意を持ってもらうのはできないようだったので別の方法を取ることにした。とにかく彼女を褒めるのだ。人間は褒められて悪い気はしない。巷では全肯定してくれるキャラクターのなりすましなどが流行っているのだから、生身の人間に褒めてもらえたらさぞ嬉しいだろう。


「優衣さん、愛しているよ。そのままのあなたが素敵だよ。生きている価値があるよ。かわいいよ、美人だよ。誰にも好かれていない優衣さんだけど僕だけはずっと好きでいるよ」


「もっと……もっと言って……」


 僕は優衣さんに甘言を垂れ流し続ける。元来彼女は気丈な人間であるし、外見も性格も人並み以上であったからわざわざ僕なんかの誉め言葉を摂取しなければならないなんてことはないのだが、どういうわけか彼女は大学で壮絶ないじめに遭っているらしい。大学生にもなっていじめとは幼稚な人間もいたものである。


どうやらそれは彼女の所属するサークル内で行われているらしく、大山さんあたりが暗躍しているようだ。もしかしたらあの日のことは優衣さんが仕込んだことです、裏切られたんですよなどと大山さんにメールをして証拠として上着に盗聴器がついていることを告げたのも原因の一つかもしれない。


それ以外にも彼女についての不穏な噂が流れているようで、流したのが僕にしても彼女が悪く評価され憔悴していく様を見ると悲しい気持ちになる。


それにしても嘘をつくのは僕の信条に反するのだが第一義である優衣さんとの誓いを守るための行為であるからそれもまた必要悪だ。必要悪と賛辞が実って数日前から優衣さんは別れると言っていたことを撤回してくれた。


「ごめんなさい、私なんかが恋人でごめんなさい」


 別れを切り出した時とまるで意味は違うが優衣さんはまたごめんなさいを繰り返している。


「そんな悲しいことを言うなよ。僕は優衣さんのことを愛しているよ。僕の恋人でいてくれてありがとう。僕たちは運命と宿命によって結ばれていて、その関係は永遠だよ」


 この誓いを忘れないように、今日も彼女に言い聞かせる。

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運命で宿命で永遠の愛 白情かな @stardust04

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