お土産

陽毬

第1話

事の始まりは上司からの命令だった。

曰く、「フレンズは元が動物だが身体的には人間と違いがない。そこで、希望者の中である程度学んだ後にテストに合格したフレンズから順に、ジャパリパークのスタッフの、飼育員として働くことを、上が許可したんだが、ついに我々の接客業にも来るらしい。」

「らしいですよね。私のところもその話ばっかりですよ。」

「やはり噂というものは漏れないと思っていても伝わるものなんだな。

話を戻すと、フレンズに飼育員をやらせるのに比べて、接客だと口煩い客への対応が複雑になるし、何が起こるか分かったもんじゃないから、こちらからは願い下げだと言ったんだが、モノは試しと上に押し切られてな。」

「部長は押しに弱いですからね。・・それで、わざわざ話すというは、私のところに?」

「察しが早くて助かる。そうだ、宮沢のところだ。」

「・・・、一応聞きますけど、私に拒否権は?」

「ない。不安だろうが、昇給はするし、何より人手が増えることで手を打ってくれ。よろしく頼むぞ。」と。


なんて貧乏くじを引くのだろう。ただでさえ重労働で、休日は割と盛況してるお土産ショップの店員として働き、体が疲れているというのに。フレンズが働くということは、扱いをしくじれば…。今度は心まで狙ってくるとは。

いや、もしかしたらめっちゃ有能で、めっちゃ信頼出来るかもしれない。まだ心がすり減ると決まった訳じゃない。うん。


その重い足取りで仕事場へ行くと、今日の仕入れ分と、自分が抜けた分の穴埋めをしていつもより息を切らしている同僚と、その同僚達をチラチラ見つつ周囲を歩き回っている白黒のフレンズがいた。先に同僚に「ありがとう。」と労いの言葉とペットボトル飲料を渡し、1度深呼吸をしてからそのフレンズに声を掛けた。

「あなたがここで働きたいフレンズさん?」

「!は、はい。あ、あの、私はアードウルフです。その、よろしくお願いします!」

彼女の第一印象は気弱・あがり症気味と、私のささやかな願望を打ち壊すには十分だった。とは言え、そんなことを悟られる訳にはいかず、平静を装って言葉を続けた。

「そっか、なら良かった。私は宮沢晴海で、あそこで疲れてるのが私の同僚。だから、あなたの先輩達ってことになるのかな。これからよろしくね。」

「はい。頑張ります!」


と簡単な挨拶が終わって、同僚達の息も整ったところで定期ミーティングを始めた。やはり3人とも噂では聞こえていたが、自分達のところが選ばれるとは思っていなかったようで、アードウルフを紹介した時は少し戸惑っていたが、切り替えは素早く、笑顔で迎えていた。アードウルフの方はというと、まだ緊張が抜けておらず、若干しどろもどろになりながら自己紹介をしており、これはやはり骨が折れるなと感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お土産 陽毬 @himarin76573

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ