ドスの効いた声

「おい…」

さっきほどの甘えん坊の少女からは出てこないようなドスの効いた声が、後ろから聞こえてきた。

俺はゆっくりと後ろを振り返る。

お兄さんと同じ格好をしている少女はぐったりと操縦席に寝そべっていた。あんなにも出ていた涙はもう止まっている。

ゆっくりと、彼女の中にある何かを目覚めせてしまったかのように、黒髪の少女は立ち上がる。

少女は両腕をだらーんと前に下げており、それがまた不気味さを醸し出す。

俺は操縦しているお兄さんに助けを求めるように見ても、お兄さんは手のひらを顔に当ててこちらを見てくれない。

「誰だ…」

長髪の少女はドスの効いた声で言った後に、両手で自分の小袖に手を掛けて、

「シャルルを泣かせたやつはあ!!」

少女は怒号して自らの小袖をひっぺがすと、

包帯に巻かれた胸の膨らみ。

鍛え抜かれた腹筋。

上半身と二の腕にびっしりと刻まれた、青い雷雲の中をもろともせずに飛翔する黒いドラゴンの上半身。

黒いドラゴンの下半身はどうやら少女の下半身まで続いているようだった。

俺は目の前にいる獰猛な少女を、まるで二本足で立つ大熊ような恐怖を感じており、自分の脳が正常に機能しておらず、俺の足がすくんでいることすら気づかなかった。

俺のその一瞬の隙が、文字通り自らの首を絞めるとは思わなかっただろうに。

「てめえか?!! シャルルは泣かせた奴はよぉ!!!」

目の前いる上半身がはだけている少女はドシドシという音を立てながら俺に近づいては、右手を使って俺の首を掴んで軽く持ち上げ、俺は首を絞められる。

俺は今のこの状況に驚いていることは、彼女が俺と同じかそれ以下の背をしているのもかかわらず軽く俺を持ち上げたからだ。

こんな芸当が出来るのは彼女のその強靭な肉体を見ればわかる。

またか! また…俺はこんな目に。

俺は自らの天命を憎む。

俺はただ純粋に異世界ライフを楽しみたいだけなのに、俺にはどうして『死』という言葉がいつまでも背後に付き纏っているのか。

俺は首を絞められながら嘆き苦しむ。

「てめえ、見ねえ顔だなァ? 新入りか? 」

俺は少女にそう質問されて彼女の顔を見るが何も言い返せない。

当たり前だ。首を絞められてるのだから。

少女の顔は真剣な瞳で俺を見ているにもかかわらず、口は薄く笑っている。

くそっこいつ舐めやがって。

今、俺には力がある。

こんな奴俺の銃でぶっ殺してやる。

殺意が湧いてくるが、俺は自らの右腕に腕輪がないことに気づく。

やばい、為す術がない。

あたりを見渡すが手がかりになるものはどこにもない。

「まあ、お前が新入りかどうかはどうでもいい。」

くそ、どうすれば…どうすればいい!!

考えても考えても焦りばかりが募っていく。

やばい、息が切れそう。

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