黒い龍
「ああ… お前新入りか? 」
操縦席に座っているお兄さんが座ったまま振り返ってこちらを見た。
お兄さんの瞳は俺と同じ黒色で、短い髪の色も黒だった。
少女と同じ、柔道着のような灰色の服装をしているが、左側の小袖ははだけており、左半身から隆々たる黒龍の刺青が現れていた。
お兄さんの左半身にある黒い龍は、お兄さんの顔を食べるかのように刻まれており、黒龍の翼はお兄さんの左肩から左二の腕にまで刻まれているようで、黒龍は尻尾を見せてはいない。
たぶんそれは左ふくらはぎまで龍の刺青が続いているからだ。
刻まれた黒龍の姿はまるで天へ登るかのように、お兄さんの左半身に刻まれているのだ。
お兄さんが俺の顔を見ていた。
心臓が硬直するような感覚が俺を襲う。
俺は咄嗟に言い訳をした。
「お兄さん! これはその…何かの不慮の事故でしてわざと泣かせたわけじゃないんです!!」
俺は焦りすぎて、汗を握っているようだった。
「そんなのわかってんだよ」
彼女のお兄さんは怒るでもなく悲しむでもなくただ淡々と言った。
俺は怪訝に思う。
あんなにもあの二人はラブラブだったのだから自分の妹が泣いたら憤慨してぶん殴ってくるばかりだと考えていた。
もしかして、彼女がいきなり泣く怪奇現象って頻繁に起こるのか。
彼女のお兄さんはうわんうわん泣いている妹を一瞥してから、俺を見て言ったことは、
「もう一度聞く…お前、新入りか? 」
「はい、そうです! 」
俺は全身を強張らせながら返事をした。
「そうか、新入りか…」
彼女のお兄さんはなにかを含んだ言い方をすると、下を向いて何やら面倒くさそうにブツブツ小言を言った後に、俺に指を指して言うのだ。
「んじゃあ新入り。 早くこの部屋から出た方がいいぞ、今すぐに」
俺は唖然とした。目の前には泣いた少女がいて、しかも泣かせた本人が何もせずに退却するのは俺の倫理観に反するし、なによりもリータさんの居場所が知りたい。
「あの…でも、俺」
「ごちゃごちゃうるせえな!! 早く出ろって言ってんだよ!面倒なことになる前に早く!」
お兄さんは必死の形相で俺に怒鳴りつけた。
俺はお兄さんに怒鳴りつけられて嫌な予感がした。お兄さんの形相はまるで俺が危険だと言わんばかりものだったからだ。
「ええと、わかりました」
俺は振り返って恐る恐る歩き、鉄扉のそばまで近づこうとしたその時だった。
「おい…」
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