メイラス=シールド(二)

「アンデルセンには幼少の頃からずっと兵法のことしか教えなかったのだ。優れた将に育てるために。

毎日毎日、兵法の勉強をしろ、お前は私らの希望だと言っていたのだ」

メイラスは葉巻の煙の中何も喋らず、じっとしのぶようにアイソーポスの目だけを静寂を宿したかのような銀の瞳で見つめ、聞いていた。

「そんな我が子が私の書斎に入ってまで、本を読みたいという趣味を持ったのだ。

嬉しいあまりにその時は怒ってアンデルセンを書斎から追い出したが、私は書斎で良かったと呟きながら泣いていたのだ。

そんな我が子の唯一の趣味を、誰がやめろなどと言えるだろうか。 いやない、そんな権利を私は持っていないのだ」

アイソーポスの紅い瞳は涙で潤んでいた。自らの子に、本来であれば自分が奮闘しなければいけなかったことを我が娘に押し付けたことを嘆くように、その話を重々しく話すのだ。

「アンデルセンは昔から優柔不断なところがあったのだ。 それはいかなる戦場、場面で重々しい決断を迫られる将において、あってはならないのだ」

アイソーポスはしばらくの間を置いた。

話したくないようだ。

まるで自ら罪を懺悔するかのように。

「だから私は…常に何かを選ばせるようにした。 最初おもちゃや食べ物だったのだ。それが段々動物や人間になってしまったのだ。使用人のどっちを選ぶか決めさせて、決めなかった方を崖から突き落としたことだってあるのだ。しかし、それは戦場に迷わせないためなのだ。戦場では将が自身の兵を囮にすることなんぞたくさんあるのだから」

メイラスは微動だにもせずそれを一心に聞いていた。彼女の心内は外見から想像なぞ出来なかった。

「これも全てあの子立派な将にするためなのだ」

とアイソーポスが言った途端だった。

メイラスは彼女の目の前にあった机にメイラスが持っていたレイピアを突き刺した。

仰天して抱き合うヘラクレナ夫妻に、メイラスは苛立ちを露わにする。

「あなた方の身勝手な夢を、子供に押し付けないでください。全てあの子ためというセリフはただ言い訳にしか過ぎない。あなたの逃げ道でしかない。私の目の前で二度とそのセリフを吐かないでください」

ゴキブリを見るような目で夫妻をにらめつけたメイラスはイライラさせながら扉から出て行った。

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