アンデルセン=ヘラクレナ(五)

俺はあの小さい黒ローブに言われた通り、小屋の外に白い仮面を被り黒いローブを着ている少女を退避させた。

黒いローブのフードの隙間から紋白蝶のような白い髪が覗かせ、仮面の上からもわかるほどに彼女はぐったりとしていた。

俺は自分にはまだできることがあるのではないか、と小屋の中に入ろうとした。

あの子のことも気になるが、それよりも戦況の方が大事だ。

小屋の中を覗くと、

「?! 」

俺はその戦況に発狂しかけた。

そこはまさに地獄絵図だった。



「民兵は前線を構築、弓兵用意!! 」

僕の周りを360度囲んでいるのは、民兵と呼ばれている剣と盾を持ったスケルトンの兵士たちであり、その後ろにいる弓矢を持ったスケルトンの兵士が弓兵だ。

僕は向かってくる敵をかわしつつ、一匹一匹ずつ確実に処理していく。

圧倒的の数の不利。

まあ、それでも僕にとっては丁度いいハンデかなと、思ったのだ。

雑魚が束になったところで雑魚は雑魚。 こんなことはよくあることだし、はっきり言ってそのハンデは僕にとってそんなに大したことじゃない。しかし、

「くっ!」

スケルトンの攻撃が僕の右脇腹をかすりそうだった。

次に、またスケルトンが飛びかかるように襲ってきて、僕は自分の持つダガーを構えそのスケルトンに動きを合わせるように迎え撃ち、相手の肋骨あたりを狙った。

その瞬間の出来事だ。

そのまた後ろからきたスケルトンが前のスケルトンの肋骨の間と間を縫うように、白い骨剣を振り下ろしているではないか。

「なんだって?! 」

思わず叫ぶと、嘲笑うようなクスクス声が聞こえてきた。

僕は無視しつつ下に滑るように回避したあと、どうやら僕の後ろから来ていたスケルトンが一匹追ってきていたようで、そのまま激突する。

危なかったと、安堵するがそんな時間さえ与えてくれないように、また四方八方からスケルトンがやってくる。

連続的にやってくるスケルトンは僕に考える隙さえ与えないように、襲いかかり僕の体力を徐々に削っていく。

「弓兵! 撃ていっ!! 」

降りかかる無数の骨矢。

左腕にはめていた腕輪が光る。

「我が盾は邪悪を灼く炎なり」

そうすると僕を守るように赤い円型の壁が作られ、矢が刺されていくのと同時に、

ピキっ!! バリっ!!

骨矢を突き刺さっている剣と盾を持った兵士たちが、囲むように、僕の作った壁を破ろうとその剣を振り下ろしていた。

僕の盾にヒビが割れていく。

やばい、そう悟った僕は咄嗟に上に飛んだ。

目の前の少女と目が合う。

顔から汗をたらしながらも平然とした顔をしている少女は、ニヤリと笑うと一言呟く。

「やれ」と。

僕はまずいと右腕左腕をクロスにしてガードする。

何故なら・・・ 白骨の巨兵が、そのあまりに大きすぎる拳でもって、僕の身体全体をぶち抜いたからである。

「ぐっ!!! 」

身体全体に衝撃が伝わる。

流石に僕も左腕は折れたかもしれない。

僕は小屋の扉の前にまで吹き飛ばされる。

眼前の少女は嘲笑うように、

「これなら、我も余裕で剣闘士の見世物ぐらいにはなりそうなのだあ」

と言って四つん這いになっているスケルトンの上に足を組みながら座った。

このように、だ。

この人外だからこそできる、予測不可能な芸当、そして、アンデルセン=ヘラクレナという希代の指揮官による骨兵士たちの統制によって、普通、束になっても僕には勝てない骨の兵士たちが数倍にも強化されていた。

骨兵士たちの姿はもはや芸術といってもいい。計算されつくされた動きと連携は、群衆を集団へと進化させる。

あまりにも絶望的な状況。

今、人に勝機はないかと聞かれたら僕はきっとこう答える。

そうでもないと。

僕は眼前にいる嘲笑っている少女を睨みつつ、立ち上がりダガーを構えて言うことには、

「やせ我慢は良くないよ、お嬢さん」

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