ヘラクレナ夫妻と黒ローブ (二)

賊が何を企んでいるかも知れずに、ヘラクレナ夫妻はまた同じ詠唱を施した。

異次元へ飛ばされる黒ローブ。

流れる異次元の情景の中で、彼女は大剣に付属しているレバーを引く。

吹き出す蒸気に、炎に荒れ狂う灼熱の長刃。

全てを焼き尽くすような炎が刃を纏い、今にも吹き出しそうだ。

黒ローブは大剣を上段に構える。

出口が見え、黒ローブを吸い込んだ。

暴れ狂う火炎、刃がそれを必死に抑えようとしている。

甲高い空に放り出され、下には先程とは比べ物にならない量の三又の氷槍。

わかってたよ

と、黒ローブは呟き、

そして、そして…

「ハッハハ!! 喰らえェよ !! 愚図がああああ! 」

その膨れに膨れた灼熱の炎を、振り下ろした。

まるで赤色の火砕流。

炸裂する巨大な火炎は大量の槍など物ともせずに焼き尽くし、下にいるアイソーポスを飲み込もうとしていた。

「くそっ! 賊がああ!火ノ守護者カクヅチヨ、我ニ炎の盾をーー

アイソーポスは身を守ろうと神聖魔術の呪文を唱えようとするが、間に合わず、巨大な炎の火柱に飲み込まれてしまった。

ヘラクレナ夫妻が使う神聖魔術は、神に丁寧に祈りを捧げて発動するためか、本来の魔術よりもほんの少しばかり発動が遅い。

それが命取りだったのだ。

黒ローブの女は無事に着地すると、アイソーポスに近づき、

「おーい、大丈夫かァ? 生きてっかァ? 」

とアイソーポスの頰をペシペシと叩いて、生死を確認していた。

アイソーポスの方と言えば黒焦げでとても生きているとは思えない。

「おーい、ヤベェな…死なれるとこっちが困るんだァ。 おーい、起きーー

黒ローブの女が言いかけた瞬間、氷槍が彼女を貫いたーー

「危ねェ、危ねェ…」

かのように見えたがギリギリ大剣を地面に突き刺して、盾代わりに防御していた。

アストリッドの顔が絶望に染まる。

「そういえば、オメェの存在を忘れてたなァ 」

黒ローブの女は大剣を構え、彼女に近づこうと走り出した。

「いやよ…いやよ…誰か!!誰か助けてええええ!!! 」

後ろに逃げようとするアストリッド。

しかし、後ろに逃げられる訳もなく、後ろを向くと白仮面を被った黒ローブの姿が。

「安心しろよォ 」

黒ローブの女は大剣を振り被り、

「峰打ちだからよォ」

と言って、刃の無い方で右から左へと薙ぎ払う。

「ガハッ! 」

アストリッドはジュー!と言う肉が焼ける音をさせながら、体全体を打たれ、左に吹き飛ばさると、芝生の上を転げ回り、気絶した。

黒ローブの女は大剣を地面に突き刺しては、一段落ついたと言いたげに一息吐くと、

「さて… 」

彼女は周りを見回して言った。

「こいつら、どうやって運へばいいんダァ? 」

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