忌み名
「遅いぞなのだー!カミカジ! どこで何をやってたのだー! 」
アンデル嬢が馬車の中から俺を叱りつけた。
「す、すみません! ちょっとした野暮用があったので…」
俺は一礼する。
「野暮用とはなんだ? 」
俺は少し間を空けてから、
「今は…お答えすることが出来ませんので、お屋敷に戻ってからでよろしいでしょうか? 」
するとアンデル嬢は「ふーん」と呟いてから、
「今、言うのはダメなのかねー? 」
お嬢のあの顔は人を疑う時の顔だ。
「はい」
俺は信じてほしくてお嬢の顔を真っ直ぐと見る。
「ここで述べることではないと思います」
アンデル嬢はしばらく俺の顔を凝視したあと、嘆息をしてから、
「わかったのだー、屋敷に帰ってから話すのだー 」
俺は屋敷に戻ると、そのことをすぐに伝えた。最初はアンデル嬢は信じてくれなかったが、その噂をしていた二人の特徴を言うと、表情が変わった。
「うーん、もしキコウの言っていることが正しいということになるとー 」
すると、彼女は二枚の手配書を出した。しかしながら、顔写真はない。
なにかの文面ばかりが続いている。
「それは『
「何ですか? それ? 」
「忌み名、なのだー 」
「忌み名というのは我々が国家反逆者や人に害を及ぼすものにつける名のことなのだー、まあ、名前がわからないから手取り早く自分たちでつけたというのが正解だねー 」
なるほど、いわゆる通り名、もしくはコードネームのようなものだろうか。
それにしても、
「随分と小馬鹿にしてますね、この名前、しかも虫って…」
俺はこの世界の字が読めないので、口頭でしか伝わらないが、それでもこの手配書のようなものの名前があまりにもかっこ悪すぎると思ってしまった。
「逆に、キコウ? 国家反逆罪の人間にどうして敬意を送る必要があるのだー?こんな風に嘲笑った方がふさわしいのだー ! 」
かわいそうに…国家反逆なんてしなきゃ良いのに。
「それで、もう片方は? 」
もう片方の指名手配書のようなものを指さす。
「もう片方は『一匹の
もう片方は、多分白い髪をした女の子の方だ。
白蟻って酷い名前だな。
「どうされますか? 」
「そうだなー 出来る限りの応援頼むのだー 」
と言ったあと、何かを閃いたようにニヤリと笑った。しかし、その笑みは子供がいたずらを仕掛ける時のあのなんとも言えない可愛さを含んだお茶目な笑いではない。
これは多分狂気の類かもしれない。
「この際だ、使えるものは使っておくのだー」
そう呟いた顔に俺は少しばかりの戦慄を抱いた。
そんな風に俺が固まっていると、
「カミカジ、今日はよく頑張ってくれたのだー 」
「はい、ありがとうございます」
やることをすべて終わらせた俺はベッドの上で疼くまる。
疲れた。今日は色んなことがあったなー。
寝る前に風呂に入らなきゃあれ? でもなんでだろ。眠くてベッドから起きられない。
疲れたのだろうか。
それもそうだ。
荷物運びに諜報活動(仮)もしたんだ。それゃ俺だって疲れ…る、さ…ーーー
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