11ページ ジュルド=アーマメント

早朝、

「カミカジ、朝だぞーっ! 」

「フゴッ」

アンデルセンにベットの上でドロップキックをくらい、目を覚ます。

「ご飯、作るのだーっ! 」

とアンデル嬢はそう言って、勢いよく部屋を飛び出していった。

俺、死ぬかもしれん。

俺は自嘲気味に笑った。




アンデルセンお嬢様に飯を食わせたあと、「買い物に行くのだーっ!! 」

などという言い始め、そして今、

「はあ…」

俺はため息をついていた。

「ほらー!! 頑張れっ!! カミカジ! フレーフレーカミカジ! ーー」

鬱陶しい。

今の状況を説明すると馬車に乗っているアンデル嬢がこちらに有難き声援を送っていただいている(全然、嬉しねえ、むしろうぜえ)。

それを後ろからニ段にも及ぶプレゼント箱を持ち抱えている俺を含めた、笑顔の護衛二人が、その馬車を追いかけているという状況である。うわあ、何これ? 明日のジョー?

「あと二軒は回るのだー! 頑張るのだー! 」

アンデル嬢から希望にも絶望にも思わせる台詞が飛んできた。しかもあと一軒じゃなくて『二軒』っていうのが俺のメンタルを削り取る。

「おい、カミカジ!あと二軒だとよ! 頑張るぞ! 」

護衛の奴らに関してはノリノリで「いい汗かいてるぜ」的なフレッシュで今絶賛青春真っ盛りみたいな顔をしてるし。

ここの住人の顔はもうなんだか慣れてしまった。

まだ少し嫌悪の感情は残ってはいるものの、かろうじては我慢できる。慣れてはいけないものだとはわかっているのだが、俺の唯一の長所としては環境にすぐ慣れてしまうというところなので、なんだかんだ言って慣れてしまうのだ。

そう思ったあと、持ち上げているプレゼント箱を見て思う。

そういえば俺、よくこんなに持てるな。

実はの話。

さっきからうざい、鬱陶しい嬉しくねえなどの暴言を吐いておきながら俺は一言も疲れたという言葉を吐いていない。

それは意外にも自分が疲れていないことに起因する。

案外、辛くないのだ。この重労働。

変な話だ。

俺は異世界に来るまでは受験シーズンで毎日、運動しているような時間は無かったはずだ。それとも俺はスポーツ校にでも入ろうとしていたのだろうか。

そう思っていた時、突如として馬車が足を止め、自分たちもそれと調子を合わせて止まった。 急に止まったので、びっくりした俺は、ふと「どうしたんですか? 」と聞こうとした。

「おらああああああっ! そこどけえええええええええっ! 」

その瞬間である。

突如として男の声が聞こえてきた。プレゼント箱の傍から覗いてみると黒い軍服のような服を着た青年がこちらにノーブレーキで突っ込んで来そうだった。

「え、ちょっ え? 」

俺はとっさに避けようとしたが、少しばかり遅かったらしく、俺が避けた時にはもう…

「チッ! 」

黒い軍服の青年は舌打ちすると、

「おい、お前っ!! 」

アンデル嬢をお前呼ばわりにするということは相当な身分だということはわかった。

「どうしたのだ? 」

「馬車借りるぞっ! 」

黒い軍服の青年は馬車の屋根をトランポリン代わりに飛ぶとギリギリのところで片手で屋根を掴んでよじ登る。「はあ、危なかった…」と黒い軍服が言った後に白い軍服を着たツインテールの女の子が屋根を飛びながら追いかけてきていた。「やべっ」と言って男はどこかの屋根へと飛んでいった。

「なんだ、あれは」

俺は呟いた後にまた白い軍服が来たらしく、

「おい、そこの貴様」

「?! 」

びっくりした。 気配を感じなかった。

「ジュルド=アーマメント王子を見なかったか? 」

そう言った主の性別が女であることは俺にもわかったのは彼女がそれなりの胸を持っていたからだ。しかしながら、髪型といえば女ぽっさなど微塵もなく、短髪 ーー いや、短髪と言っても女の子の、あのおかっぱみたいな髪型ではなく、男の人みたいにバッサリと切られていた。背も高いしスタイルも良かった。

「あっちですよ」

たぶんあの黒い軍服のことだろうと、指をさしたあと、「感謝する」と言われた。そのあと男っぽい白い軍服は何か呪文と言うよりは暗号のようなものを呟くと風で出来たような板が現れ、それを踏み越えながら屋根の先へと進んでいった。

「なんだ、あれは」

俺は目の前に起こった不可思議な情景を全く把握しきれていなかった。

「お前、あの方を知らないのか? 」

そう言ったあとさっきまでいい汗かいていた護衛が俺にそう言ってきた。

「? 」

俺はなんのことかわからなかったので首を傾けてみる。

「なに! てっことはお前さん英雄王伝説も知らないな? 」

とても大袈裟に護衛は驚いてみせた。

「はい、わかりません」

「まじか、知らねえのか… 」

なんか残念そうだ。それほどに有名だったのだろうか。

「あのう…良かったら、教えくれませんか」

気になったので聞いてみたと言うのもあるし、この国の常識なら知っておいて損は無いと思う。

「いいぜっ! 教えてやるよ」




ジュルド=アーマメント、生まれしより剣豪なり。

齢5歳にして兵隊長に打ち勝ち、齢六歳にして騎士団長を超え、齢七歳にして兄も及ばず、齢八歳にして敵なし。

「とまあ、こんな感じだな 」

「凄えな…」

自然と感嘆の言葉が出た。

因みに、今は先程アンデル嬢がおっしゃっていた二件目の店に到着。

待っている間、手持ち無沙汰ということで王子の話をしていた。

「9歳からはどうなったんですか? 」

「9歳からはもっと凄いぞっ! 」

「? 」

「なんと、家出したんだっ! 」

「はい? 」

一国の王子がまさかの家出。 この国の王子とやらは相当な無鉄砲ものらしい。

「なんで家出なんかしたんですか? 」

「ええと、確か親子ゲンカだな。 ジュルド王子はその才能がゆえに、昔から問題児だと聞いていてな! 騎士へのいたずらや勝手に王城を抜け出すなど悪行を続けていたジュルド王子への堪忍袋が切れた国王様は『貴様はしばらく王城の出入りを禁止にする! もし入って欲しくば、ドラゴン一匹を打ち取ってみせよ! と言ってジュルド王子を追い出したんだ」

「まあ、それはそうなりますね」

そりゃあ王様だし平民や家来に対する態度は厳しいものだから必然的に自分の子にも厳しいなるはずだ。

「王様は気性の荒い王子だってさすがに怖気ずき、すぐに城に戻ってちゃんと謝ると思ったんだが、王子は違った」

「どうしたんですか? 」

「逆だ、戻らなかったんだ。十二歳までずーっとな」

ほう、なるほど。

つまり、父親に家から出てけって言ったら、息子が逆ギレして帰らなくなったってことかな。

「そのまま三年の間、ドラゴンを追い続け、その果てにはドラゴンを討ち取ってみせたんだ、すげえだろ? 」

「まあ、そうですね 」

そう言った瞬間、白い蝶のような、フードを被った女の子が路地裏に入っていくのが見えた。

「ん? カミカジどこへ行くんだ? 」

「あ、すぐに戻りますと言っておいてください」

俺は手を振って、その男と離れた。

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