第3章 少年は己を知らず

9ページ ヘラクレナ家

はあ…これから俺、どうしたらいいんだろう。

俺は三角座りをしながらうなだれていた。

あのあと、上鍛冶は街中を走り回り、気がついたら日は暮れて、疲れて大理石(白いからだけど、本当は何でできているかわからない)で出来た塀を背に三角座りというわけだ。

俺は途方に暮れていた。

理由は明白。 衣食住を全て無くし、胃の中は昼下がりに食べたワイバーンの肉だけで、お腹と背中がくっつくとはこのことかと俺は痛感していた。

落第生からホームレスにジョブチェンジした俺は順調に堕ちていることが自覚でき、さらにため息を吐く。

まあ、これ以上きっと堕ちることはないだろ。 うん、ていうことは逆に俺、無くすものないから最強じゃんっ!と俺は自虐気味に開き直りつつもさらにため息を吐く。

こういう困難な時にすぐに開き直るのは俺の良いところであり悪いところなのかもしれない。

すると、金刺繍が施された白い馬車が目の前を通り過ぎ、この宮廷の門の前で止まった。

ほら、よくある貴族のアレだろ。 立髪ロールをした貴婦人が執事に出迎えられて「ごきげんよう」とかいうんだろ? ああ、貴族ってのはいいよなと俺は自分が貧相なせいか完全に偏見の目でその貴族を見ていた。

左手のない髭の生えた執事に出迎えられ、馬車から降りたのは一人の水色の髪をした少女だ。

髪型は立髪ロールではなく、赤いリボンを付けた短髪ではっきりとしたお目々をしていて、明るい印象を持ち、高そうな白と水色のワンピースを着ていた。

少女は執事とこちらを指差しながら何かを話していた。

俺を貧相だと笑ってんのか? まあ、 仕方ねえか、事実だしと思い、顔を伏せた。

こういうとき癖なのか、俺は自然と視線を逸らしてしまう。

「やあ、こんばんはなのだー 」

時が少し空いたあとその少女が膝に手を添えて話しかけてきた。

奇妙な喋り方をする少女だと思い、それが俺をよりイライラさせる。

「なに? 」

俺は、もうガルルと言ってしまいそうなくらい狼のように相手を睨んだが、相手は一切表情を変えず自信に満ち溢れた顔でこちらを見る。

「見てのところ衣食住に欠けているようだねー ? 」

胸を張って足を大きく広げて自信満々な表情をしている。

「だから? なに? 」

頼むから嘲笑いに着たなら帰ってくれと鋭い目で少女を睨み続けていく。

少女はそれでも怯んでおらず、俺の睨みをなんとも思わず逆に俺のことを嘲笑うかのようだった。

「キコウっ!うちで働いてみないかねー? 」

少女は俺を人指しをさして言う。

「はい? 」

俺は目をキョトンとさせ、少女の目を再度見る。

今よく聞こえなかった、幻聴だろうか?

「だから、 執事だよー、 ちょうど執事が足りなかったんだねー」

「え、いいんですか? 」

俺は先程の睨みが嘘のように目をキラキラとさせて少女を見た。

いや、だって…まともな職がこんなに早く手に入るとは思わないだろう?

「ああ、もちろん」

と笑顔で言う。

「え、それじゃあ…」

ちょっと待て。

俺はそう思い口を噤む。

いい加減俺も気づけ、こういうのに付け込まれてだいたいロクなことになってないだろ。

こんな風にうーんと唸りながら疑心暗鬼になった俺に少女は一言。

「ちなみに、食事は三食昼寝付き。ベッドルーム一つ貸切で大浴場使用可だがどうかねー? 」

「ぜひともやらせてくださいっ!! 」

即答だった。

やはり目先の欲には勝てなかった。

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