挿話 白仮面の一味その後…
「ああ、行っちゃった」
リータさんは少年が逃げた方向を見てげんなりした様子でした。
「ほら、あんたが怖いこと言うから逃げちゃったじゃないどうすんの? 追いかける? 」
ローマさんは脇腹に手を付けています。
「いや、いいよ、きっとまた会えるさ、彼が禁書(パンドラ)の影響を受けてない限り、この国は住みにくいだろうから」
リータがそれをあたかも悟ったかのようにいうのは私たちも同じ境遇にいるからでしょう。
あの人が受けてないと考えた理由は二つ。
一つは笑顔でなかっこと。
この街にいる平民は全員笑顔になるようにされています。
しかし貴族階級は笑顔にはされていません。
故に貴族と言う可能性も浮上してきますが、それは考えるまでもなくあの服とこの街で誰も家来を付けてない貴族なんてありえないことからその可能性はすぐさま排除されます。
二つはこの状況をきちんと把握していること。
貴族も遠方の平民もこの光景を見ても誰も不自然だとは思いません。当たり前の一つの情景としてその目に写るようです。
なぜ禁書(パンドラ)の持ち主がこんな狂った設定したかは不明ですが、よほど酔狂な理由なんでしょう、同情なんて出来ません。
ちなみに、禁書(パンドラ)とはこの世界には存在する魔導書の中で禁忌とされる二つの魔導書のことです。
それを手にしたものはこの世界を容易く屠ることができ、あわよくば神にすら届くとされています。
「でも革命軍の奴らに盗られたりしたどうする? この状況をきちんと把握できる平民なんて大物よ 」
この国はまだ反逆の意志が残っています。
それが革命軍と私たちのような盗賊団。
革命軍は禁書(パンドラ)がある前からあったもので、それで影響を受けていません。
革命軍は基本的に手段を選ばず、邪魔な奴は誰であろうと排除します。
それが明確に革命するのに危険性があるかもわからずに排除します。
疑わしきは罰せよというものです。
「もしかしたら、彼が革命軍の一員なのかもしれないね」
「ふん、それはないわね、それだったらわたし達に斬りかかって返り討ちにされてる」
そんな革命軍は白仮面の一味と標的が被ることは多々あり、その場合、いつも返り討ちにしているため、革命軍から恨みを買っているのです。
「まあ、いずれにしてもこう言うものは必要以上に追い込むと宝は逃げちゃうから。 放っておいた方がいいんだよ」
壁に背中を預けながら座り、そのあとローマさんも同じように座った。 私はリータさんの隣に三角座りに座った。
「ふん、 盗賊の言う言葉じゃないわね」
「それはそうさ、僕たち盗賊もどきだもん」
「あとさ、あんた、ローマってどうにかなんないの? この名前だいぶ酷いわよ、ネーミングセンスの悪さとしてはカルロスとはれるわね」
「僕もカルロスも酷い言われようだな…」
少し残念な様子だったのはカルロスさんと二人で一生懸命考えたからでしょう。
カルロスさんはこの白仮面の一味の整備士を
しています。
性格は面倒見が良くて、優しい人であり、いつも周りの喧嘩を両成敗してくれる頼もしい人です(アルタ視点)。
ちなみに偽名は
リータ→リーク
ローマ→ローゼ
アルタ→アルファ
キャルル→シャルル
という名前を一文字変えたものです。
「そういえば、キャルルはまだ来ないの? 」
ローマさんがうんざりした様子で言ったのはキャルルさんが食料調達から遅いからでしょう。
帰りが遅くても心配しないのはキャルルさんがそう簡単にに殺されない強い人だということを知っているからです。
「確かに遅いね、もうそろそろ来てもおかしくないのに」
リータさんは暗く、奥も見えない路地裏の先を見ながら、心配していました。
リータさんは心配性とよく言われるが、それはいつも最悪の可能性を予期しているからで、そのおかげで私たちは今こうして生きているわけです。
リータさんが言ったあとリータさんを見つめていたローマさんが急に吹き、笑い始めた。
「なんだい? 急に、気味が悪い」
リータさんは目を細めた。
「ああ、ダメ、やっぱりだめだわ。だって、やっぱりその黒いやつ似合わないだもん。 というか変。 もう少しいい装飾出来なかったの? 」
ローマさんは腹を押さえながら崩れ落ち、高笑いをしている。
リータさんはそれに対してムッとした顔をする。
「仕方ないじゃないか、僕は君みたいに長い髪を持ってるわけじゃないんだから」
ローマさんは急に笑いをやめ、ほんの少し眉間にしわを寄せると、ビクッとしたリータさんは私の方をチラッと気まずそうな顔をしながらほんの少し見たあと、話を続けた。
何を言いたいかはすぐわかりました。
「というか君、さっきから文句しか言ってないじゃないか? そんなに言うなら自分でやってみたらどうだい? 」
「別に、言うのは勝手でしょ? 」
ローマさんは素気無く言います。
「ほーら、そうやって無責任なこと言うっ!それで引っ掻き回されるこっちの身にもなってくれ」
私は薄々嫌な予感がしていました。
「そんなこと言うなら『リーク』だっていつもいつも自分勝手じゃない。 後先考えずにすぐ行動に移そうとする。 軽率なのよ、あんたはっ!!」
ちなみにこの二人が喧嘩することは珍しいことではなく、ほぼ毎日行われていることです。
本来、この喧嘩を止めるのはアロマさんだったり、カルロスさんなのですが今日はその役がいません。
「ふんっ!! さっきだって『ローゼ』が余計なこと言わなければなんとかなってたのに」
「はああっ?!私のせいだって言いたいの?!」
両方、睨み合い、紫色の雷がバチバチと細かく鳴っています
これはまずいですと思った私は私もカルロスさんやアロマさんみたいに止められるようにしないいけませんと、勇気をふり絞ってしいました。
「あのう、 こんなところで喧嘩はーー」
「「『アルファ』は黙っててっ!!」」
リークさわとローゼさんの怒号が炸裂し、「は、はい」と私は撃沈。つい、縮こまってしまいました。
「はあ、テメェら、また喧嘩してんのかァ…」
私に救世主が現れました。
その救世主の髪の色は明るい黒色をしていて、サメのような鋭い眼を持ち、右腕は肌色ではなく、銀色をした鉄の腕をしています。
性別は女性。体は少し筋肉質で、男勝りな性格をしています。
身長は私以上ローゼさん未満です。
「ええと、その口調はカールかな? おかえり」
リークさんは肩の荷を降ろしたようで、安心していた。
「遅いわよ、何してたの? 」
鼻っから心配してないローゼさんは腰に手を付けて、無愛想な言い方をする。
「ああ? ああ、色々あったんだよォ」
カールさんは肩に背負っている大きな袋を地面に降ろした。
カールさんは食材の調達をしてもらっていたので、袋の中身はパンや肉や野菜といったものがぎっしり詰まっている。
「色々って? そういえばさっきまではキャルルだったよね、なんでカールになってんの? 」
ちなみにシャルルさんは一つの体に二つ魂が入っているらしくて、なんでも体質だそうです。
「シャルルだ」
「え、キャルルじゃないの? 」
「シャルルだ」
「いや、そうことじゃなくて偽名でーー
「シャルルだ」
「…」
どうやら偽名が気に入らないようで「キャルル」とは譲りませんでした。
リークさんはもう、なんかもう目をウルウルとさせ泣きそうでした。
「はあ…もういいよ、わかったよ、シャルルね、シャルルっ!! それで、なんで変わってんの?」
リークさんはもうやけくそでした。
「ああ、 シャルルに触って来た野郎がいたからァよ、半殺しにしておいた」
「ちゃんと周りは確認したんだろうね? あまり人に見られるのは良くないよ」
「知らねェよ、まあ、路地裏で会ったからァ問題ねェだろ」
「適当だね…」
この通りカールさんは肝が座ってるため、基本的心配というものをしません。
「それよりも、テメェらの方はどうだったんだァ? 」
「うん、こっちも問題ないよ」
私たちは今回の標的であるヘラクレナ家の情報収集をしていました。
ヘラクレナ家の邸宅の偵察とーー
「同業者(革命軍)もいたから取っちめて情報を吐き出させたよ 」
こういうことをしてるから革命軍から目をつけられてるわけです。
「その情報は正しいんだろうなァ?」
「わからない、でもクルワからの情報もあるから問題と思う」
クルワさんはこの白仮面の一味の諜報員。 革命軍の中でスパイとして活動してもらっています。
「そういえばクルワから聞いた話なんだけどさ、ヘラクレナ家の執事って五体満足揃ってないらしいんだよ」
「敗走兵だとかそういう奴らを集めてるとかじゃないの? 」
「いいや、これが違うだよね。実はこんな話があってねーーー
リークさんは私たちにその内容を洗いざらい話しました。
私は背筋が凍りつき、そこから中から熱くドロドロしたものが込み上げてきて背筋の氷を溶かし、その勢いで拳を握りました。
カールさんは馬鹿ばしいと大笑いしていました。
ローゼさんは呆れていて、ため息をついていました。
「「「狂ってる」」」
三人の声が重なった(私は「ます」つけました)。この国はやはりおかしいと思い、この国は変わらなくてならない改めて思いました。
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