2ページ 気まぐれ天使の異世界転移

ここは10階建てのマンション。その窓のないエレベーターの中にいる。そのエレベーターの中で俺は一番ボタンが押しやすい場所に立っていた。

異世界に行く条件に合った10階建てのマンションをネットで必死に探し、やっとのことで見つけ出すことが出来た。

これから俺が試すのはネットで書かれていたエレベーターを使って異世界に行く方法である。

信憑性は薄いが賭けてみる価値はあると思った。

「ええと、まず何をするんだっけ?」

そう呟くと俺はパーカーのポケットからスマホを取り出し、その方法が書いてあるサイトでやり方を確認し次の操作を行った。

まずエレベーターに乗ったまま、眺める景色もなく茶色いドアが開閉するのをただ見ながら、4階、2階、6階、2階、10階の順に移動し、次に10階に着いたらそのまま5階を押す。

確かここで若い女の人が入ってくるだよな。

そして、エレベーターが5階に着き、扉が開いた後に入ってきたのはーー


金髪碧眼の小柄な少女だった。


その白いワンピースを着た少女の、サラサラしてそうな髪は、ふくらはぎまで伸びていた。また、露出している肌はまるで赤ん坊のようなすべすべとした肌をしており、どことなく甘い香りがしている。ヨーロッパにいそうなとてもかわいらしい女の子だった。

予想よりも『若い女の人』が若かったせいで自分の方法が正しいのか少し気になったが、慌てるほどではなかった。

この方法ではこの少女と話してはいけないらしい。

それはこの少女が人間じゃないからと書いてあった。別に人間でなくたってこちらに有害だとは限らないと思うのだが。

まあ、触らぬ神に祟りなしとも言うしとにかく話しかけなければ人畜無害なのだろう。別にそこまで気にすることでもない。この子がロリっ娘だろうが人外娘だろうが俺には関係ないことだ。

上鍛治は次の項目に書いてある『1階を押す』を実行しようとした。

「あなたが異世界訪問者ですか? 」

と不意に鈴が鳴ったような可愛らしい声が聞こえた。

おいおい、そっちが話しかけるのは反則だろ

。さあて、どうしたものか?これは応答した方がいいのか?まあ、いいや。無視してればいいだろ。

俺は無視してスマホを見ている間にも「あのう、もしもーし。聞こえてますか?あれ?おかしいですね。これ日本語ですよね」と少女の声が聞こえてくる。

さすがに俺も鬱陶しく思っていると少女は決定的な言葉を言った。

「困りましたね〜答えてくれないと間違えて送ってしまうかもしれないので、確認を取らないと送ることが出来ないのですけどーー

「はい」

俺は彼女が言い終わる前に振り向き即答した。

そして、「あ…」とそこから自分が犯してしまった過ちに気付いた。

言ってしまった。

俺はここで死ぬのか。短い人生だったな。さすがに相手が人外娘だからって今時人間食うとかそんなベタな展開はありえないだろうが、タブーに触れたのだ、ただではすまんだろと考え、上鍛冶は覚悟を決めた。

「はい、そうですか。それではその機械に書いてある次の項目を行なってください。ボタンを押したら異世界についての説明を行います」

と笑顔で返してきた。

意外と安易な解答がただ返ってきただけで、何もして来なかった。

それを聞いた俺は余計な心配させやがってと吐き捨てるようなため息をすると少女の指示の通り、一階のボタンを押した。

「それでは。これから異世界への案内について説明させていただきます」

と言い、少女は軽くお辞儀をした。

「なあ、その前に一つ質問いいか? 」

俺は怪訝な表情をしながら問いかける。

「どうぞ」

と丁寧に笑顔で返して来た。

「あんた何者? とりあえずこの項目に人間じゃないってあるから。お前人外なんだろ?」

「ふふ、よくぞ聞いてくれました! 私は天上に住み!神に仕え!数多の能力を使うもの! そう私は天使なのです!」

とガニ股になり両手を腰につけた自称天使はさっきよりも大きな声でそう話した。

こうしたオーバーな紹介に俺が思った初版の感想はこうだ。

なんだ? こいつ。

俺は自分がした適当な質問に対して全力でオーバーでめんどくさくうざい紹介をされても俺は無反応を貫いた。

だって、そんなに興味ないし、ふと思って質問しただけだし。

「へー天使? 名前は?」

天使の顔を見ずに方法が書いてあったサイトにある概要欄を見ていた。

「名前? ええと私の名前は天使さんと呼んでください!」

「へーわかった。んじゃ説明お願いします」

俺にとって彼女が天使かどうかなんて正直どうでも良い。問題は異世界に行けるどうかなのであまり言及はしない。

「あのう…」

すると天使さんは物足りない様子で話しかけてきた。

「ん? 何?」

「驚くとか無いんですか? ほら、私天使ですよ! あなたたち人間が憧れている聖人君子のあの天使ですよ!もっと反応が欲しいですね!」

「いや、興味無い」

俺は即答しながらも妙な違和感に襲われた。

聖人君子? なんか違うなと。

確かに天使は人間の上位的存在だが、それでもなんか引っかかった。

巧言令色。

天使とはもっと謙虚なイメージがする。

「あ、そうですか…」

と天使は気力が抜けたような顔でそう言い、

「はあ、なんでしたっけ?説明でしたっけ? 」

とさっきのやる気はとうに消え失せ、もうなんか訛り口調の不良みたいになっているが俺はあまり気にしない。

「ええ、あなたはこれからパラレルワールドの一つに行っていただきます」

口調が元に戻っているが気にしないものとする。

「パラレルワールド? 」

俺は怪訝に思う。

異世界とパラレルワールドはどうにも結びつかない。しかもそれを宗教上の存在が口にしていると思うとこのなんとも言えない違和感はなくならない。

「そうなんですよ、異世界とはパラレルワールドの一種なんですよ。 例えばあなたたちが夢見るファンタジー系の世界だってこの世界との関係性が遠いというだけであれも世界というなの一つの可能性を秘めている。 それに今科学では5次元空間というものもーーー

「あのさ…」

「はい、なんでしょう? 」

「うんちくとかそういうのいいから早く進めてくんね? 」

俺が無表情のまま天使さんの話を終わらせたのは俺の精神状態が元からたわいもない話を聞けるほど余裕があるわけでなくむしろ逆だからだ。さっきも言ったはずだが、異世界に行ければなんでもいい俺にとってうんちくなんてどうでもいい。ていうかさっきのどう考えたって異世界転生に必要な内容一つもなかっただろうが。

「は、はい、わかりました」

天使さんは顔を強張らせ、もう怒りを爆発寸前だがなんとか手前で耐えていた。

その表情を見ても俺はわー怒ってるなー天使さんも怒るんだー笑という単純な感想しか湧いてこない。

「あのさ、パラレルワールドっていくつもあるんだよな? だったら異世界転移する世界ってランダムとかになんの? 」

「まあ、そうですね、ランダムですかね」

天使はまだ顔を強張らせていた。

それに対して、俺はええ、まじか、ランダムか。まあ、この世界からいなくなれるならなんでもいいやと思い、天使さんを無視。

すると、まるで天使さんは俺の思ったことを察したかのように、

「まあ、安心してください。あなたの行く世界はもう決まってるんで」

「?」

どういうことだ。その発言は?

さっきランダムと言ったはずなのに、あなたの行く世界はもう決まってるんでと言われた。

意味不明である。

まあ、他の世界に行けるだし何でもいいや。俺は今廃人だ。そんなことをいちいち考える気力はこれっぽちもない。

「あとはパラレルワールドなので、あなたと同じような人間がいるかもしれませんね」

「へー、俺になんか悪影響とかあるのか?」

「悪影響ですか? そうですね〜特にありませんね、他に質問はありますか?」

と天使は少し考えてからそう言い、次の質問をした。

「いや、ない」

「これで説明を終了します」

少女はそう言いまた軽くお辞儀をした。

「うん」

俺は天使の丁寧なお辞儀を無視した。

そんな説明が終わると同時にエレベーターが一階に着き、そのまま上がっていく。

そして、この部屋が徐々に白く染められているのがわかった。

ああ、これで異世界に行くんだな、この世界ともお別れだなあとこれから他の世界に行くことを実感していた。これから異世界に行ったらどんな生活が待ってるだろうとりあえず美少女と冒険がしたいな。

あ、あとチート能力で無双したいーーん? ちょっと待てよ。

不意に思い残したことが頭をよぎる。

「あれ?」

「何ですか、まだ質問でも?」

「ああ、あのバシップとか異世界特典とかないの? 」

異世界転生といったらチート能力だろう。これが無くては始まらない。

「え?」

「へ?」

両者はそう言い、顔を見合わせる。

「え、欲しいですか?」

「え? あ、うん欲しいよ」

俺は言って反応する。すると天使さんは

「え〜どうしましょう、さっきの反応が気に入らなかったんであげたくないですね。せめて、土下座しながら『先ほどの無礼をお許しください熾天使(してんし)様』と言ってくれたらいいですよ〜」

天使さんは甚だしいほど上から目線で言ってきた。

うざいなこの天使。ていうかさっきのことそんなに気にしてたのか。まあ、俺にプライドなんてとうの昔に捨てちまったしと思った俺はゆっくりと左足から膝をつけ、正座になり、頭を下げ、

「先ほどの無礼をお許しください熾天使(してんし)様」

俺は棒読みで言ってやったので天使の反応が気になり上を向く。天使はとても朗らかな笑顔していて、その表情でこう言った。

「でも嫌です☆」

「てめえ!」

その瞬間全てが白に染まった。

それから異世界に行くまでの記憶は覚えていない。

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