1ページ きっかけ


今の季節は春。

桜の花びらが降りしきる満点の桜がその季節を知らせ、うぐいすがその知らせを祝福している。

春とは、基本的にあらゆる文学作品において明るい描写で描かれることが多い。

まあ当然だろう。新しい門出を祝う季節であり、新しい出会いをするような季節だ。そう、このように門出や出会いといった『始まり』を意味する言葉が多いのだ。

例えば、春は季節の変わり目。寒い季節から暖かい日と寒い日を繰り返す(これを三寒四温という)季節。そうなってくると、恒温動物である人は、身体の調子を整えようとその温度に合わせるように上がったり下がったりを繰り返し、自然と人の身体は不安定に乱れるようになる。

結果、ストレスが溜まりやすい上に季節の変わり目という自律神経の乱れでリラックスすることが出来ないダブルパンチが襲い掛かる。

そのようにして年間自殺率が最も多い、という結果が導かれる。


え、お前さっきから何が言いたいだって?

んじゃ、単刀直入に言うと・・・


満点の桜が並び、新しい制服を着た若人たちが通るような道を、俺のような黒の綿製のズボンに灰色のパーカーを着て、そのパーカーのポケットに手を突っ込んでいる闇の住人が通っても何も問題がないということだ。


いや、だって、さっきの闇の部分も春の風物詩っていうなら俺だってそうだ。受験に失敗してこの世界に愛想が尽きたから他の世界に転生しようとしている人間。


うん、問題ない問題ない、全然問題ない。


あれ、でもなぜだろう。周りからの視線が妙にするな。特に若人たちからの目線がゴミを見る目なんですが。

あ、ヒソヒソ話をしているやつもいるな。おい、指をさすな、指を!

まあ、こんな屁理屈を心の中でつぶやいても、周りの人間が納得するわけではないことぐらいわかっているが、俺はをこんな屁理屈を言いながらこの道を通らないと気が持たない。俺だって好きでこんな場違いな場所を歩いているわけじゃない。ここを通らないと目的である10階建てマンションに行けないんだ。

ネットで書いてあった異世界に行く方法にはそのマンションがどうしても必要なんだ。


え、なんでささっと死なないんだって?


お前ら、勘違いするなよ。俺は別に死にたいわけじゃない。異世界に行きたいんだ。確かに死ねば、この世界から居なくなることはできる。しかし、異世界に行けるかどうかわからない。もし俺が自殺して神とやらが「異世界? そんなもんないよ」って言ったらどうする? もう絶対に天国か地獄に行かなければならないではないか。

そんなのは絶対に嫌だ! 俺は異世界に行って美少女と異世界ライフを過ごすんだああああああああ!!!!!!

そんなことを考えているうちに上鍛治かみかじ ぎんは目的地に着いていた。



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