第33話 倒れた理由 3
優斗が成仏する手立て。そんなものがあると聞いて、藍は驚きを隠せなかった。
「あるの?そんな方法……」
「ああ。さっきも言った通り、多分だけどな」
「それ、いつから気づいてたの?」
「……少し前に、色々考えてこうじゃないかと思った。確証がある訳じゃないから、言い出せなかったけどな」
そうは言ったが、啓太自身なぜ今まで黙っていたかはうまく説明できなかった。
当初から、早く成仏した方がいいといっていたにも関わらす、いざその方法に見当がついてもなかなか言い出せなかった。もしこれで本当に優斗が成仏してしまったら、当然二度と会えなくなる。一瞬そんな考えが頭をよぎって苦笑する。
自分にとって優斗は、元々がいけ好かない恋敵だと言うのに、どうしてこんな事を思うのだろう。
とにかく今は、自分の考えを二人に伝えよう。だがその前に、聞いておかなければいけない事があった。
「先輩を成仏させる。それで本当にいいんだな?」
「それは……」
その言葉を聞いて、躊躇いの声を漏らしたのは藍だった。いや、本当はわざわざこんな確認をとる前から、どこかで躊躇いは感じていた。
成仏すると言う事は、今度こそ二度と会えないと言う事だ。もちろん、優斗が悪霊になる危険を考えると、このままでいいとは思わない。だがそれでも、永遠の別れを受け入れられるかと言うと、それはまた話が違う。
「私は……」
戸惑いながら口を開く。だがそれに続く言葉が出てこない。本当に優斗をこのまま成仏させていいのか、答えなんてすぐには出せなかった。
だが────
「ああ、いいよ」
躊躇う藍の隣で、優斗はハッキリと答えた。
「このままだと、俺はいずれ悪霊になるんだろ。それなら、答えは一つしかないじゃないか」
「ユウくん……」
自分の事だと言うのに、優斗は感情を押し殺したように淡々と語っている。
藍は、できる事なら、その言葉に反論したかった。まだ他に方法があるんじゃないかと言ってやりたかった。
だがそれが無理だと言うのはよく分かっている。これしかない。だからこそ啓太もこの方法を提案し、優斗もそれに頷いた。
ふと優斗の手に目をやると、微かに震えているのが分かった。それを見て悟る。
優斗も、決してすんなりとこの結論を出したわけじゃ無い。本当は、迷いや躊躇いもあるのだろう。
だけどそれではダメだから、このままこの世に留まるわけにはいかないと分かっているから、だからどんなに辛くても、こうするしかなかったのだと。
なら、自分が言うべき言葉も一つしかない。
「……そうだね」
胸の痛くなるのを振り切って、ようやく一言絞り出す。本当は、成仏なんてしないでと言いたかった。ずっとそばにいてほしいと叫びたかった。だけど、そんな言葉も感情も、今は全てしまい込み、蓋をする。他ならぬ優斗がこの決断をしたのなら、ここでワガママを言って困らせたくはなかった。
「ねえ三島。成仏できるって、良い事なんだよね?」
「ああ。この世に留まるより、ずっとな」
啓太からの答を聞き、再び優斗と向き合う。
「なら、ちゃんと成仏させないとね」
目の奥が熱くなるが、それでも決して涙は流さない。一番つらいのは優斗のはずだから、ここで泣いたら絶対に困らせると分かっているから、だからどんなに悲しくても、決して泣くわけにはいかなかった。
「――ごめんな」
「どうしてユウくんが謝るの?」
大丈夫と伝えるために、とぼけたように首をかしげて聞き返す。きっと、これが強がりなんて分かっているだろう。
それでもいい。全部受け入れると言う、その意思さえ伝わるのなら。
大丈夫。心の中でそう呟き、大きく息を吸い込む。そうして、弱い心を閉じ込めた。
そして、今度は啓太を見る。
「藤崎……」
そんな藍の様子を見て、啓太は何か言かけて、だがそこからあえて口を閉じた。今ここで余計な事を言って、せっかくの決意に水を差すような事はしたくなかった。
「それで、成仏する方法って何なの?」
「ああ……」
藍に促され、啓太はようやく、少しずつ語り始める。彼の考える、優斗が成仏する方法を。
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