先輩の影

第10話 叶先輩 1

 ※今回から再び本編となります。





 休み明けのテストが終わると、すぐさま学校全体が次の行事に向かって動き出す。9月後半に行われる、体育祭だ。


 テストが終わり、そして藍の誕生日があった次の日、学校の体育館には全校生徒が集まっていた。

 この学校では体育祭の練習期間に入ると、まず始めにチーム分けと結成式が行われる。チームの分け方は、各学年の一組と二組が赤団、三組と四組が青団といった具合だ。チームは全部で四つある。


 ちなみに藍達のクラスは二組なので赤団になる。今はそれぞれのチームに分かれるよう、クラス単位で移動している最中だ。


「体育祭自体が嫌なわけじゃないけど、もう少し涼しくなってからでもいいのにね」

 藍の隣で、真由子が愚痴るように言った。確かに、9月と言えばまだまだ暑さも厳しく、ちょっと油断するとすぐに肌が黒くなってしまう。

 幸い日焼け止めを塗るのは認められているので、これからしばらくは必需品になりそうだ。


 そんな事を話しながら、既に他のクラスが集まっている赤団の陣地へと移動する。

 一度集合してしまうと、後は体育祭の準備や練習ではクラスも学年も関係なくなり、赤団と言うくくりで動く事になる。これにより、どの競技に誰が出るか、準備の担当はどうするかと言った役割分担が、学年の垣根を越えてかなり自由度が高く決められる。


 とは言え今は、ほとんどの生徒が元のクラスのまま固まっている。いきなりクラスや学年の枠が取り払われたと言っても、すぐには順応しにくいのだろう。

 だが一部では、仲の良い友人や、部活の先輩後輩で集まるグループもあった。そして、藍に声をかけてくる人物もいた。


「やあ、藤崎さん。同じチームだね」

「あっ、叶先輩。こんにちは」


 彼の名前は叶壮介かのうそうすけ。三年生で、藍にとっては先輩にあたる。

 本来藍との接点などほとんど無いはずの彼だが、一学期の頃に、ちょっとしたきっかけで知り合いになっていた。


「聞いたよ。昨日、誕生日だったんだよね。1日遅れだけどおめでとう。言ってくれれば、俺もみんなと一緒にお祝いしたのに」

「いえ、そんな……そう言ってくれるだけで嬉しいです。ありがとうございます」


 先輩と言う事もあり、多少恐縮しながらお礼を言う藍。


「藤崎さんは運動とか得意な方?」

「そんなに得意ってわけじゃ……でも、体育祭はちょっと楽しみです。競技じゃなくて、途中休憩の時にある、部活パフォーマンスがですけど」


 お昼の休憩中、事前に申請した部活動は決められた場所でパフォーマンスをできるようになっていた。過去には演劇部の寸劇や、科学部の実験などがあったと言う。それぞれの割り当てられる時間は10分程度なので大したことはできないが、これを文化祭の宣伝に使おうとする部活は少なくない。もちろん藍達の軽音部もそうだった。


「ああ、やっぱり軽音部も出るんだ。藤崎さんの演奏、楽しみにしてるよ。自分じゃやらないけど、音楽は好きだから」

「ありがとうございます」


 にこやかに話をする藍と壮介。一方真由子は、少し離れた場所からそんな二人を見ている啓太に気付き、そっと近づいて行った。


「ねえ三島、あの先輩なんなの?」

「音楽好きの先輩だよ。前に藤崎の演奏を聞いて気に入ったんだってさ」


 興味なさそうに答えてはいるが、その表情は明らかにムスッとしている。内心面白くないのだろう。


「いいの、このままじゃ藍を取られるんじゃない?」

「まあ音楽好きどうし、話が合うんだろ」

「あんた、本気でそう思ってるの?」

「……いや」


 壮介は音楽が好きで、自身で楽器をやる事はないが、藍達軽音部のことを応援してくれている。少なくとも藍はそう思っている。

 だが啓太から見ると、壮介の藍に対する接し方は、音楽に対する興味からとは思えなかった。彼が興味があるのは、音楽ではなく……


「あの人、どう見ても藤崎が目当てだよな」

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