学校のお隣さん

いっつも憂鬱に存在が消されそうになるほど気分が悪い月曜だが、今は別にそうでもない


早く家から出たい




6:27




早起きし過ぎた…


まだ隣に寝ている彼女はぐっすりと熟睡だ




俺の苦痛一つ知らない顔をしている、なんなんだこいつ


でも、どう見ても一般的な女子高生だ




確認のため、頬を人差し指でつついた。やわらかくて、優しい




背中から伝わる体温は、どうやっても人の物だ、ロボットだなんてありえるはずが…




俺は額のアレを確認した


これはなんなんだよ、USBジャックに差したら喘ぎ始めるし




「はぁ…早いけど行くか…」




もう俺の体は、脱獄囚のごとき逃走欲求がほとばしっている


制服に素早く着替え、鞄を背負った




「じゃあ、行ってきまーす」




そう小声の独り言を玄関で放ち、熟睡している母さんと玲奈を後に学校へ…




「啓、ひさしぶり」




その冷酷な態度の女、会いたくなかった、とは言い過ぎだが、好き好んでは会わなかっただろう


面倒だ、まぁ大学あるし泊まったりはしないだろ


久しぶり、本当に久しぶりだ




「えっ…今?だって今六時半だぞ、どんだけ暇だったんだよ」


「…鍵は…開いてるわね」




中学生から体の成長止まってる癖に偉そうだな




「もう俺行くから…」


「…いって…らっしゃい」




何で照れ臭そうなんだ、姉弟だろ




我川 文




俺の五つ上の姉だ


今は大学生で、多分彼氏もいる…いないな


姉ちゃんの素直とはとても言えない性格と、眼鏡をかけた鋭い目では多分出来てないだろう




さっきも見たけど、本当に中学生から体が成長していない、ロリコンに狙われないだろうか


目ばかりで150…いや140ぐらいしかないのか?




いつも姉は生徒会ポジションで、容姿端麗、頭脳明晰という感じだ


そんな姉が居る俺は、頭が悪かった




カエルの子はカエルなんて嘘だ




中学からはそんな姉を、羨望し、妬むようになり、小さいころから軽蔑されていたのかと誤解もしていた




大学生になってからは独り暮らしをしていたはずだが…








そんな事より、もしあの眼鏡ロリツンデレ姉に家に住み着かれたら




あの家には大きな部屋は4つ程度しかなく、キッチンとリビング、両親の寝室と、俺と姉ちゃんの部屋




要するに、家に住み着かれたら俺の部屋が三人でぎゅうぎゅうになること間違いないわけだ


あんな面倒くさいのが三人に増えたらそれこそ耐えられなくなる




まぁそんなリスクはミリ単位しかない、絶対ないだろう




っと見積もって何回外しただろうか




そう考え事をしていると、既に校門まで着いていた


校門はしまっていたが、多分奥で部活かなんかやってるのだろう




って、あの男女、誰かに似ている気がする


…よく見たらパソコンか?頭おかしいのか、校庭でPC開いている




パソコンを触っているのは男だ


タイピングを止めた男の方が何か言っている






「多分、また今度…」






最後の所は、ノイズがかかったように聞こえてよく聞こえなかった




女の方が






「これって、…」






またノイズだ






ギィィィィィィィィン






「ああああああああっ!」


頭が割れそうだ、電気椅子に座ったらこんな感じになるのだろうか


そんな事を思ってしまった


目を紡錘ってしまうほどの激痛に、膝から崩れ落ちた








「おい、どうした?世界の歪みを感じるか?」


「はっ!」




もう校門には風紀委員と教師が立っている


俺はずっと気絶してたのか




「いいや、大丈夫だ」


「…行くぞっ、悪の蠢く巣窟へ」


「うっせぇ、中二病」








やっと、やっと教室についた


俺は椅子を引き、机に着いて鞄をかけた


この喧騒が俺に安心をくれた


…さっきのはなんだったんだよ




「お…おはよう!ががが我川くん!」




そのおどおどした態度の彼女の顔を見て、俺はあることを思い出した




木陰 美紗




中学からの付き合いで、俺に好意を抱いている、多分


容姿は整っていて、成績も割と上位なのだが、他の同級生からはいい印象を持たれていない


何故か、それは…






2年前






「…」




1人で、淡々と自分の卒業文集を書いていた


自分の夢と言われても、漠然としすぎていて何も思い付かない


でも、教室は1人ではなく、2人居た、いつもいつもクラスの端で、休み時間もずっと端で座ってて孤立してる




「…書けないのか?」




俺はその女子の机の方へ行き、なにとなく話し掛けてあげよう、そう思った




「あっ…うん」




こくりと少し頷くその仕草がとても可愛らしかった


長く黒い髪の毛が揺れ、白い肌とコントラストを作った




でも、紙には一通り書いてあった


その内容は




「ウエディングドレスを着る…」




一見幼稚に見えるそのテーマに、中学生とは思えない表現や、文章、そして深いテーマが織り混ぜられている


作文として評価されれば間違いなく表彰物だろう




「何で残ってる?もう書けたじゃん」


「だって…叶わない…よ」


「えっ…」




どういう事だ?




「私、あと2年で…」


「何が…」


「…死んじゃうんだよ」




えっ、どういう事だ


要するに、病気って事なのか




だからこんな夢なんだ、こんな夢しか見れないんだ、普通なら就職とかのプロセスの話なのに、こんな現実を中学生という小さな器に無理やり押し付けてるから




「私なんて死んでもみんな悲しまないから、だから死んでもいいと思うんだ」


「はっ…?待て、唐突すぎるだろ」


「私、今日睡眠薬飲んで死ぬんだ、自分に嘘ついて、死んでるのと同じなのに生きるのが辛いの」




そう言って彼女は泣きながら微笑んだ




そういうことか、なるほど、ふざけんな




「はっ!バカじゃね!?」


「えっ…」


「本当にバカだ!」


「…」


「勝手に決めつけてんじゃねぇよ!自分の感情がないのか?こんな夢書いといて!それでいて死にたいとかよ!」


「…」


「誰も悲しむ奴が居ないとか!なんでそんなのお前に分かるんだよ!お前、最初から嘘つきまくってる癖に何が嘘つきたくないだよ!」


「…私も…叶うなら…誰かに愛されたい、結ばれたいよ…」




そう、俺は入学から木陰の事が気になってたんだ


自分に似てると思って、ずっと気になってた、周りに合わせて、本当の気持ちの上に仮初めの仮面を被って隠してるんだ




それが辛くて、辛くて、死にたくなってくるんだ




「…でも、自分では人を愛せないけど、愛されたいのか、随分都合がいいんだな」


「…じゃあ、我川君…」


「…なんだ」






その言葉は擦り切れそうで、あっさり消えちゃいそうで、でも、思いがこもっていた






「……あと2年だけだけど、よろしくね」


「…分かった」




彼女は泣いていた、泣き声も立てず、静かに、穏やかに


でもその涙は悲しみでも、痛みでもない、ただただ“嬉しさ”を感じた




こんな熱弁降るって、俺、柄に合わないことしてたな


しかもあんま話したことないやつに




…思い出すと頭が痛い…








その後、病気も奇跡的に治ったらしい、治った理由は未だに分かってないが、彼女は、我川君のおかげ、とか言っていたらしい




んな訳で、彼氏彼女のような関係を今現在まで続けている


もう俺が付き合う義理はない、でも、また彼女は誰かと居ないとふらふら1人で消えていってしまう気がする




だから俺は美紗とのカップル関係を続けている


理由はそれだけじゃなくて、俺も少し美紗の事が好きだ




んで、この隣の席の中二病に睨まれているわけだが


昨日の玲奈とのやつもこいつに見られたんだっけか


あっ




「お前、二股してるよな」




その声は完全なる怒りのみで形成されていた




「見損なったぞ!このクズが!」


「誤解だっ!」


「一足先に大人のステアケイス登りやがって!」




俺は童貞だぞ


必死に誤解を解くための口実を考えたが、全部効かないだろう


だが誤解は誤解だ




キーンコーン カーンコーン




ホームルームだ


さっきまで立っていた生徒たちは全員座り、教師がガラガラと音を立てて扉を開き、出席ファイルを教卓に投げるようにして置いた




「じゃあ、転校生の紹介だ」




えっ、入学からまだ1ヶ月も行ってないぞ


いじめにでもあったのだろうか




周りにも転校生の噂は流れていなかったため、困惑した状況だった


多分大多数の男子は女子の転校生に期待しているだろう


俺は別にそんなんじゃないが




「ほら、入ってこい」




開いた扉から入ってきたのは




「あっ!俺くーん!」


「はっ?」


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機械仕掛けのお隣さん @reki1007

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