#08「華やかなりし魔法都市ライマ」
――後日の取り調べで、ヴィネ達はあっさりと犯行を認めた。
彼らは旅芸人を隠れ蓑にした暗殺者であり、今回は顔も名前も知らぬ相手から多額の前金を受け取り、ドメニコスを狙ったのだという。
ドメニコスが呼んでいた娼婦は、ヴィネ達に「宿へは行かないように」と金を積まれ、別の店で豪遊していたそうだ。
「しくじったと思っていたら、なんだか知らないけどあの爺さん死んでるんだもん。びっくりしたわよ。全く、運が良いのか悪いのか」とは、ヴィネの談である。
彼女も、仕留めそこなったはずのドメニコスが死んでいるのを知った時は、何が起こったのか理解できなかったという。
「暗殺に失敗したのに、何故すぐに逃げなかったのか?」とファンが問うと、意外な答えが返ってきた。
「そりゃね、あたし達もすぐに逃げようとしたさ。爺さんがすぐ逆襲に来るかも知れないし。一階の見張りくらい強引に張っ倒して、そのままトンズラすりゃいいんだからね。――でもね、アショエルが戻ってきた後、二人で部屋を出ようとしたら……邪魔者がいたのさ。隣の部屋の金髪の色男がね、扉を軽く開けて、廊下の様子をずぅっと窺ってやがったのさ!
……あたしも相当に修羅場潜ってきたけど、ありゃ勝てない。不審者を見付けたら、有無を言わさず一撃で仕留める。そんな冷たい目をしてたねぇ。それでいて、あたしと目があったら、ニッコリと信じられないくらい綺麗な笑顔を向けてきやがった! ありゃ、何者だい?」
金髪の色男と言うのは、アーシュの連れのホワイトのことだろう。
ファンも後で知ったことだったが、アーシュはアルカマック王国のれっきとした宮廷魔術師であり、内密の特使としてこの街へやってきたらしい。ホワイトともう一人の少女は、アーシュの護衛に違いないだろう。それも、凄腕の。
ホワイトが主を守る為に警戒していてくれたお蔭で、犯人に逃げられずに済んだ。そう考えると礼の一つでも言いたいところだったが、その後、彼らと顔を合わす機会は訪れなかった――。
――結局、ドメニコスの暗殺を指示した黒幕については、何も分からなかった。
ロドリゴによれば「恐らくは政敵の誰かだろう。もっとも、我々の手が届く相手では無いと思うがね」だそうだ。つまり、十二導師かそれに準ずる権力者の誰かの差し金だ、と。
警備隊の実質上の長は、十二導師そのものだ。「疑いがある」程度では、彼らを捜査することは出来ない。
――ファン達では、ドメニコスの無念を晴らすことは出来ないのだ。
「華やかなりし魔法都市ライマ……か」
詰め所の屋上から、中央地区にそびえる街のシンボル「知恵の塔」を遠目に眺めながら、ファンは自嘲めいた呟きを漏らすのだった。
(了)
魔法都市殺人事件~誰が魔術師を殺したのか?(ショート版) 澤田慎梧 @sumigoro
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