泥棒は嘘つきの終着駅か?

 帰宅するとミキちゃんが玄関の鍵を開けてくれた。


ミキ「おかえり~」


ぼく「ただいま」


ミキ「今日ね、テレビ見てたんだけど、すっ……ごく面白くてね。って聞いてる?」


ぼく「んー」


ミキ「それでね、テレビに出てたアイドルが、なんか見たことあるな~と思ったの。でっ!思い出したんだけどその人、幼なじみでね。でも、その子いじめっ子で、人殺しなんだよね」


ぼく「えっ?」


ミキ「やっと反応した。嘘だよー」


ぼく「えっ!?」


ミキ「だって全然、私の話聞いてないんだもん」


ぼく「だからってさ。どこから嘘だったの?」


ミキ「最初からだよ」


ぼく「……もう、なんだよ」


ミキ「だって……」


ぼく「だってじゃないよ。変な嘘やめてって、いつも言ってるよね?」


ミキ「え、私? 言われたことないよ? 誰と勘違いしてるの?」


ぼく「え、いつも言ってるよね?」


ミキ「ごめんごめん、いつも言ってるよね。ごめん。嘘だよー」


ぼく「それ。その変な嘘」


ミキ「うん、だからごめんって」


ぼく「最近、ミキちゃんの言うこと、何も信じられなくなってきたよ」


ミキ「……あのさ」


ぼく「なに?」


ミキ「私、美紀じゃなくて、真衣なんだよね、ほんとは」


ぼく「何言ってんの?」


真衣「嘘ついてたの。ごめんなさい」


ぼく「ミ、……え? 何言ってんの? 美紀でしょ?」


真衣「ほんとに真衣だよー」


ぼく「変な冗談やめてよ」


真衣「ほんとに真衣なの」


ぼく「それ、信じて良いの?」


真衣「うん。信じて」


ぼく「じゃあさ」


真衣「なに?」


ぼく「免許証見せてよ」


真衣「いま?」


ぼく「いまだよ」


真衣「いいよ。どうぞ、ご覧下さい」


ぼく「え!? 絵美って書いてるけど。誰!? え?え?」


絵美「ごめん。私、ほんとは絵美なの」


ぼく「ちょっといい?」


絵美「なに?」


ぼく「えーと、ミキちゃんじゃなくって、絵美さん。何歳だっけ?」


絵美「なによ今さら。22でしょ」


ぼく「27だよね?」


絵美「うん。そだね」


ぼく「おぉ……。なんで嘘つく?」


絵美「だって、コウくんのこと好きだもん」


ぼく「それも嘘でしょ」


絵美「違う!これはほんと!ほんとー!ほんとだもん!!」


ぼく「ほんとに?」


絵美「ほんとだよ」


ぼく「ほんとにほんと?」


絵美「ほんとのほんとよ」


ぼく「信じるよ?」


絵美「信じてよ。……ふふ」


 結婚を予定しているぼくたちは、来週、ミキちゃん……もとい、絵美さんの実家に挨拶に行く予定だ。

 彼女の父はロシアの元軍人で凄まじく厳しい人らしい。また母親は十年前に引退したが元舞台女優で、未だに最終公演の清掃員兼スパイ役が抜けていないと聞いている。いいだろう。望むところだ。百聞は一見にしかず。未来のことは誰にも分からないのだから。

 明日は本屋に寄って、ロシア語の入門書でも見てみよう。

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