ぽつんと

――マサカダレガコンナトコロニワザワザ


衛星写真で見つけた、山奥にあるぽつんと一軒家。こんな山奥に誰か住んでいるんだろうか。

パソコンの画面に集中しすぎて目に激痛がはしる。いつの間にか日が落ちて暗がりになった室内にパソコンの光だけが浮かんでいた。部屋の電気をつけて、あいつに連絡をする。「日曜、空いてるか?」気乗りしない返事だったが、了承をもらった。


日曜日の午後。俺の寝坊で予定が大幅にずれ込んだ。

「また今日はどこへ行くんですか?」

「ここだよ」

おれはダッシュボードから印刷した衛星写真を手渡す。

「なんですかこれ」

「しるかよ」


付近に来ると、カーナビはいよいよ当てにならず、目に付く家の住人がどこかに居やしないかとあたりを探してみる。すると、ボロい一軒の平屋の前で、老いた男が一人立っている。路肩に車を停車させ、その家の敷地に二人で踏み込んだ。

「こんにちは」

声をかけるが男は無言で訝しげな顔をみせる。山奥の家についてなにか知らないかと、衛星写真を見せるがますます顔色を一変させた。

「あんたらそこになんのようじゃ?」

「用って用はありませんけど」

「ならそっとしとけ」

無愛想な態度に気分が悪いが、なにか知っている用でもある。相方がカメラで男の家を撮影する。

「おいお前。よけいなもん撮るな」

「すいません」

とりあえず道だけでも聞き出そうともう一度試みるが、男の気性がだんだん荒くなりそれ以上は諦めるしかなかった。仕方なくそこを後にする。バックミラーで男の姿を確認すると、こちらをいつまでも凝視していて不気味だった。


他にも見かけた人には片っ端から声をかけたが「よそもんがあんま深入りすな」「もうええやろ。帰れ」と皆、そこについて語りたがらない。ただ、どう考えてもそこに近づけさせまいとしていることがわかった。また、車を走らせると異様な光景が続く。どの家も農業を止めてしまったのか、畑が荒れ尽くしている。村人の誰も彼もが、道端や山の斜面に不気味に突っ立ってこちら睨んでいて、気色が悪い。

「あの、あれ」

ん、と見ると畑で案山子が赤く染まっていた。

「なんだあれ。不気味だな」

「この村なにかおかしくないですか?」

「おかし過ぎるよ」


山奥の一軒家を目指す。ますます興味を持った。

右を流れる川に沿って蛇行する道が延々と続く。しばらくして左の山側に、奥へと続く山道を見つけた。左にハンドルを切り車を突っ込ませる。数分走らせると道の舗装は途切れ、すれ違うことも困難な隘路へと変わった。左右どちらか常に崖が迫り一瞬の油断が命取りとなる。


出発するのが遅かったので一軒家到着したのは夜になった。闇の中にそれはひっそりと潜んでいた。その一軒家の敷地に無断で車を駐めさせてもらう。降りて、その一軒家に近づいてみるが、だれも居ないようだ。しばらく待ってみるが、家主が帰ってこない。


いったい何してんだろ、家主も俺たちも。


この一軒家の畑は作物がちゃんと実っていて、今でも暮らしているのがわかる。自給自足程度の範囲で耕しているので、住んでいるのは老人が一人二人だろうか。暗闇の中、家の照明がつく気配もないので、すでに寝たか、それとも今日は帰ってこないのか。まさか、電気が通ってないということも考えるが、電線はつながっているようだ。昔、自分が料金を滞納して電気を止められたことを思い出した。


仕方なく車で寝ることにする。

「道狭かったし明日、明るくなってから降りよう」


俺たちは車中で寝ることに決めた。

寝る用意も無かったので、二人ともシートを倒して運転席と助手席で寝た。夜中、風が強くなってくる。車を揺らしてちょうどいい具合に眠気を誘う。今にも雨が降り出しそうな湿気が肌に纏わり付く。

夢の中に村人の顔が浮かぶ。

昼間のオヤジ。

なんだよ。

なにか言ってる。

必死な顔で、なにか言ってる。

ただ、音が聞こえない。

ミュートにしたテレビドラマを見ているような。

上手いのか、下手なのか

大げさな演技でオヤジが俺に言う。































「逃げろぉ」










目を開ける。


気配に気づき右を振り向く。窓のすぐ外に車内を覗き込む顔があった。

息がかかるほど近いその男はなたを握っている。


俺は、助手席を見るがすでに









――町の駐在所。

歩道に面した掲示板には、指名手配犯の顔が並ぶ。

「これとかヤバいですよね」

「ああ・・・、それな」

本日付で着任した新人警官と先輩が番をしている。新人警官は連続殺人事件の被疑者の人相を頭にたたき込んだ。

「意外と戻ってるんじゃないですか」

「あ?」

「その廃村に」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る