背後で見ている人

……これまで生きてきた時間。呼吸の回数。心拍数。歩数。瞬き。屈伸運動。一目惚れ。経験人数。失恋に費やした日数。あなたが生まれてから、あなたに関するすべての数を、わたしはあなたの背後で数えていました。


「なんのために」


仕事なので理由はありません。


「……じゃあ、やめてくれる?」


すいません。それはできません。わたしはこれまで、35年と117日5時間20分16秒、あなたに関するあらゆる数を計測しています。今さら、止めるというのはちょっとできません。ていうか止めたくありません。


「なに?こわいよ。き、気持ち悪い」


あなたが亡くなるその時まで、計測を行いたいです。そして、私はあなたを数で記録し永久に保存します。意味はありません。


人生で信号待ちに費やした累計時間。

待ち合わせに遅刻した回数。

なかなか切り出せず、プロポーズを見送ったデートの回数。

生涯散髪に支払った合計金額。


すべてを残します。


「ほんとやめて」


すいません。できません。お許しください。それよりも、早く起きた方がいいですよ。また、寝坊回数が1回プラスされ……



――男はそこで目を覚ました。

あほな夢をみた。

鏡を覗きこむと寝癖で髪が3ヶ所跳ねている。急いで仕度する。1分28秒で歯を磨き、35秒で顔を洗う。21秒で食パンを1枚食べて、24秒でスーツに着替えて家を出た。


手櫛で寝癖を気にしながら交差点に差し掛か

る。いつもの赤信号がやけに長い。1台、2台、3台と車が視界を横切る。


信号が青に変わった。男は駆け足で仕事に向かった。




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