第三の希望 「のぞめ」
──結果、院長を捕まえる事は出来なかった。
野次馬に紛れたせいで、正解の道が紛れに紛れてわからなかった。
「で、結局、あんたと院長と、銃を持ったあの謎の男の関係性は何なの?」
「…銃持ちの男は全然分からねーけど、院長は、この火事の事件の犯人だ。」
「えっ!?」
まあ、そうなるはずだ。
「で、話を聞こうとして、銃持ちの男が現れて、で、お前が現れて、それからはお前が見た通りだ。」
「……」
少女が寄りかかってきた。それは突然の好意だとか、そういうのではなく、煙を吸ったせいだろう。意識が途切れたようだ。
そうだ。確かに、少女は火事の中、診察室に来た。つまり、一酸化炭素によるものだ。それでも長い間もっていたのだからすごいものだ。これも異常か?いや、少女には病気や怪我などの耐性は特にないと思われる。
「……くる……し………い……」
「!!おい…大丈夫か!?」
誰にも見えない所でそれは起きた。
煙により、意識を失ったのだ。だけど、……俺は、一酸化炭素の被害を喰らわなかったのだ。いや、効いていなかったというより、それよりも早く回復していたという事なのだろうか。
すぐに、野次馬の群れから離れ、それから暫く歩き、やがて人気のないスラム街的な所まで来た。
「おい、生きてるか?」
「うん。」
「!?」
数十分経っただけなのだが、既に起きていた。何の治療もなく。
「ふふん。驚いた顔をしているね。分かるよ分かる。時間はかかるけど、私も少しずつ回復していくみたいだね。」
「……ふーん、なら、俺も頭破裂させたりとかできんの?」
「分からないけど、でき……ないんじゃないかな?うん。」
ちょっと悩んでいたが、すぐに申し訳なさそうに否定した。
「私のBANGは、他人の心を大きく動かす事で発動するの。だから、それが苦手そうな君には、無理なんじゃないかな?」
「BA…BANG!?」
何故時々英語で言うのだろうか。
「というか動かせても撃てなさそうだし。」
「あ、そうすか。」
散々いうな、こいつ。
ともかくとして、
「とりあえず、お前が無事でよかったよ。」
「は?」
え?
急にどうした。
「私の好感度を上げて、堕とそうと?」
「い、いや、そんなことは……」
「上げて、堕とそうと?」
違うのに。しかも何故か、上手い事いった的な感じでその部分だけ繰り返してきたけど、そんなにうまくない。
「上げて、堕とそうと?」
まだ言うか。
「違うって!ただ単に心配しただけだから。」
「あの場からここまで連れてきたのにマイナス5ポイント。で、今の発言でマイナス2ポイント。だから、今のポイントはマイナス7ポイント。」
いつから出来た、そのポイント制度は。しかもマイナス。
「いや、でも、病院なんて、つまらないだろ?こっちの方が、まだ面白そうだし。どちらにしてもあの病院にとどまっている必要もねーだろ。燃えちまったし。あいつ逃げたし。」
「確かに、とどまる必要はないけど、此処の方が面白いといのには、反対。病院は面白い所でーす。少なくとも、私は。」
こいつとは、根本的に合わないのか。だから、異常も合わない。そういうことなのだろうか。
「そうかよ。で、これからどうするんだろうな。」
「えー。そんな事も決めてないの?駄目だなー。」
「そういうお前は決めてあるのか?」
煽るお前はどうなんだ。
「いや、私は勝手に連れてこられただけだから。あんたと一緒にしないでよねー。」
あ、そうか。こいつ連れて、ここまで来たの俺だった。決まってないのは無理ないか。
「うーん。ま、とりあえず、院長捕まえて、色々吐かせるのが先だろーね。」
「ふーん、私は別にそんな事しなくたっていいしー、それに私は目立ってもいいから、こんな所でこそこそしてなくてもいいんだけど。」
「なら、もうここでお別れってことで。」
「そうだね。」
意外にもあっさりと了承され、少女は颯爽と去って行った。挨拶もせずに、なんのためらいもなく、だ。
そういえば、少女の名前を聞いていなかった。今となってはもうどうでもいいことだが。
さて、俺の、正解の道を知る異常を使うと、その道が光って見える。屋内であれば、ある程度正解の道を絞る事が出来るが、屋外ではその効果を発揮しづらい。
ならどうするか。
此処で考えに考え、考えたが、答えは出てこない。
「君、ちょっといいかな?」
後ろから声を掛けられ、そこにいたのは、この廃れた地には似つかわしくないような、貴族みたいな老人だった。
「誰?」
「別に怪しい者じゃない。私はロべルネ・イーグライレンという者なんだがね。もちろん日本人じゃない。イタリア人だ。」
失礼だが、その時点で怪しいような気がするが。イタリア人とは言っているものの、そうとは思えない程の、違和感のない日本語だ。
「ふーん、イタリア人。そんな恰好でこんな場所で、こんな俺に何の用だい?」
「間違っていたらすまないが、君、人間超越性症候群だね?」
人間超越性症候群。その言葉に、当然驚いた。
「……そうだけど。あんた医者?」
「医者、か。そんな職に就いていたのは昔も昔、大昔さ。何十年も前の話。今、私は一応、投資家なのだが、それは関係ないからいいとして。」
「治す方法を知っている。か?」
「そう。正解だ。そうか、君は正解を知る方の症状か。」
方、とはつまり、あの指撃ちのタイプか、それとも俺の正答のタイプという事か。
「治す、っていっても、別に俺はこの病気に困ってはいないし、むしろこの病気にかかって嬉しいくらいだけど。」
ロべルネは被っていた帽子を取り、髪のない頭を晒す。
「なんだ?その傷……!?」
頭部には、痛々しい、無数の傷があった。
人外人間のぞむ @iceshark
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