第二の希望 「のぞみ」

「さっき、俺と同じくらいの女の子が、俺の頭を何度も潰しました。」

「潰した?」

「でも、しかし、その度に俺は回復して、で、痛みもなくて。」

「なるほど。それが、君の人外要素というわけだな。」

──治す手立ては。いや、これは本当に治したい、治すべきものなのか?


そして。

この病院は、誰かの手によって、燃え盛った。逃げ惑い、燃え、叫び、悶える者達を尻目に、俺はただ、そこに立っていた。痛さも、暑さも、怖さも、何もない。無感情?

そうだ、あの院長室へ。

「院長?」

まだ燃えていない院長室に、走って向かう。道中に、倒れる患者や看護師の姿が幾つもあった。

いない。いつもいる黒い椅子に彼の姿はなく、静まり返っている。それは、そうか。でも、この部屋の奥にまだ一つ、部屋がある。そもそも何で俺は院長を探している?──それは。

とにかく、扉の奥へと入る。これも、正解の扉とでもいうのだろうか。

「やあやあ、のぞむ君。急にどうしたんだい。」

「そ、そりゃ、当然。この病院が火事で全然消防車も来ねーってことですよ。」

「……君は、傍観者効果というものを知っているよね?」

「…はい、知っていますが。」

誰かが通報しているだろう。見ている全員がそう思い、誰も通報していないという人間の心理。だけど、俺が何故知っているのか。やはり異常だからだろうか。

「多分、病院の外には大勢の人間が、この病院の燃える姿をただ見ているだけだろう。通報もされていない。」

「──じゃあ、なんであんたは通報しないんですか!!」

それを知っている院長が通報しなければ、この火は、炎は、病院を燃やし尽くすまで燃え尽きないだろう。

「んーー?だって、そりゃあ………私が、犯人だから。」

「……あんたが、か。逃げずに通報せずに呑気にここにいるんだから、そりゃあそうか。」

あまり動揺はしていない。それどころか、その情報は、生まれた時から存在していたような、そんな不思議な感覚に襲われる。

「さて、問題です。僕は、犯人なのになぜここで優雅に寛いでいるのでしょうか。」

小っちゃいホワイトボードを机の引き出しから取り出し、選択肢を書いていく。口頭で言えばいいものを。

① ここは火を通さない特別な部屋だから。

② 最期くらいは優雅に過ごしたいから。

③ 病院内の人間を皆殺しにしたかったから。

④ 君を殺したかったから。

「どーれだ?」

「五番、証拠を燃やし尽くす為。」

どこにも書かれていない回答。でも。

「せいかーい!!」

それは正解だった。当然、当たるべくして当たったのだ。

だけど、何故その五番を書かなかったのか?そういった事が分かる能力はない。だけど多分、俺を試す為、もしくは、

───誰かに見られないように、するためか。

それなら、遠くにいる誰かが双眼鏡か何かで見ている可能性もある。

「証拠、とは?」

「君にも教えられない何かさ。」

院長の顔には、僅かに動揺がみられた。

「それより、君はそろそろここを出なさい。さっき言っただろう?ホワイトボードの一番。火を通さない特別な部屋。ここはそんなんじゃあない。」

「俺は、痛みを感じません。熱さも。苦痛になるものを感じないんです。」

「そうかい。そういえば、さっき、君と同じ人間超越性症候群の子私のもとに来たんだよ。」

俺と、同じ?──病気の?

「名前は、なんだったかな…訊いてないけど、症状自体は君とは正反対。異常な程の力を手に入れ、苦痛になるものは、常人通りに苦痛で、だけど、友情とか、愛情とか、優しさとか、そういったものを殆ど感じない子なんだ。」

「……──その子は。」

「そう、その子は、さっき君は私に話してくれた子と同一人物。本人だ。」

あの子が。

──だけど、何故俺の頭を何度も潰した(それも謎の力で)?そこまでされるような覚えはないが。

「材斬院長。」

その声は当然院長のものではなく、そして俺のものでもなく、それ以外。第三者によるものだった。扉が一気に開かれ、ヘルメットで顔を隠した男(?)が銃をこちらに向けてきた。

「おっと。じゃあ、のぞむ君。バイバイ。また会う日まで。」

と。そして、押し倒され診察室から無理やり出される。

院長は、自分を犯人といっていたから、あの男は警察か何かだろう。そして俺を危険に晒されないように追い出した。

だけど、果たしてそれは本当に正しい決断といえるのだろうか。無理やりにでも残っていたほうがよかったのだろうか。そもそも、俺は痛みを感じない。当然、銃だって、意味を成さないだろう。だから、俺が庇う事ができたのなら、そうするのがいいのだろうか。それとも、今、行くのが良いのだろうか。

俺の決断は────。


バタン。

「お、おいおい、のぞむ君。何でっ⁉」

「貴方には、もっと話を聞かなくちゃならない。だから、守るんです。」

「何だ?お前は。まずお前を先に殺してやろうか?」

俺に銃口を向ける。動揺は、しない。痛みを感じない。傷もすぐ治る。そして多分、死なない。

────なら、戦うしかない。

ズダダダダダッッ!!

銃弾は容赦なくのぞむの体内にめりこみ、血を噴出させる。

やはり痛みは感じない。だから、奴との距離を狭める。

「ッ…!何だこいつ⁉まさか、例の…」

銃身を掴んだ。銃弾はずっと放たれたままで、体内にめり込んでいく。だが、次々と体が再生していき、銃弾が押し出されて、床に落ちていく。

ただ、ここで。

────どうやって、攻撃する?どうやって、こいつを倒す?

俺の答えは。

「撃てよ。」

そういった。

銃を持ったこの男ではなく────

「!」

────後ろの、謎の力を持った少女に、だ。

「俺がここに戻った時からお前はそこにいたんだろ?いいからこいつを撃てよ。」

「どうして……⁉」

「いいから。なんなら今ここでこの銃を離すが、それだと君にも銃弾が当たる可能性がある。君には回復能力はないんだろう?院長から聞いたよ。」

「………分かった。丁度この男も、発動条件は満たしたので。」

バン。

俺は初めて、その少女が力を発動した一部始終を見た。

男は死んだ。先ほどまでの憎たらしい顔はもう一切見れない。見るつもりなどないが。

三人の服にその血が飛び散った。

「……ふう。助かった……じゃあ、二人とも。これで。」

手を振り奥の部屋に入っていった。

「お、おい」

訊きたい事は山ほどある。ここで逃げられてしまっては困る、から、当然追いかける。

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