遠浅でなお遠く

綿引つぐみ

遠浅でなお遠く


それぞれののっぴきならない理由を抱えて

誰もがここへ逃げてきた

船にのるものだけ集めて

この国は出来上がった


列島に吹きだまるやさしさ

太平洋に飛ばし浮きを投げ入れる

太平洋にブラクリを落し込む

おれ あるいは誰かがそんなことをしているあいだにも


夕暮なるみというのは

かつてのクラスメートで海へ抜けるこの道で免許を取ったその日に事故死した

だから釣りの日に彼女はつきものだ

さえない彼女のおんちな中島みゆきの耳鳴りに耳は鳴り

裸足のゆびの踏みしめるゆびの生々しいゆび白いゆび、ゆび(湿ってる


おれ(あるいは誰か はこの故里に遠浅の海しかないことをうらんでいる

うらみは深く

魚を釣れば虫食まれ

鮃は黒い染みをつけ


ふねはどこだ


吹きだまるやさしさ

黙り込むそのやさしさの掌に冷たく

ゆっくりと暮れた永い夜のうちに

列島には若者が棲みつき

愚かで

些細なことを繕うのに必死になり

だが誰もその純粋さを言い咎めない理由を身に覚えながら

太平洋に夏が来るのを見ている


(鎖国シタイ)

吹きだまるやさしさを海のむこうの未来に捧げるのではなくフラットな水面に溺れそうになりながら

おれ(あるいは誰か

を鎖の内に護り戦わず死なず生きず育たず産まず変わらず育まず

(遠過ギル)

むこうのむこうまで見通せる時間なら端へ端へと身を寄せ渦を巻く

違う場所へ抜ける

そんな何かがあるなどと


海に誰か が浮いている

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