第37話 断末魔の叫び

 アセディアの街の、ホムンクルス研究所にて。突如現れた侵入者に、ホムンクルスの衛兵も研究所の人間たちもなすすべなく吹き飛ばされた。ホムンクルス製造のための機材も研究成果の資料も全て破壊されて、リーダーは慌てて逃げる準備を始める。


「おい、ホムンクルス共! どうにかしてあの化け物を止めろ! お前らにはいくらでも代わりがいるんだ、何体死んでも構わないからなんとかしろ!」


 その叫びを聞いて、残ったホムンクルスたちも一斉に動き出した。しかし、すぐに彼らも侵入者の作り出した突風に弾かれて壁に叩きつけられる。震えるリーダーの前に現れたのは、見覚えのある青年だった。


「お前は、あのときの……!」


 リーダーはその男を睨みつけようとしたが、その背中に生える紫の蝶の羽根を見て言葉を失う。この世の全ての憎悪を込めたような眼差しに射抜かれて、リーダーは口をパクパクとさせることしかできなかった。


「二度とお前の顔など見たくなかったが、仕方がない」


 リーダーの顔を掴み、魔王は冷たく言い放つ。


「俺は神を憎んでいるんだ。神は我々を面白半分に創り、思い通りに支配して、軽率に使い捨てる。そんな神は罰を受けるべきだ。そうは思わないか?」


 明確な殺意に貫かれ、リーダーはぶんぶんと首を縦に振った。


「お前はどうしても黒髪に赤い瞳のホムンクルスしか作れないと嘆いていたね。理由を教えてやろう。人間が神の真似事をして生物を創り出すことを、神は許さないのだよ。それは禁忌とされ、生まれたものは全て禁忌の色に染まる。闇の黒、血の赤にね」


 ルトロスは男の顔を掴んだ手とは逆の手を高々と挙げる。彼はその手のひらに真っ赤な光を生み出した。その輝きに呼応するように、倒れていたホムンクルスたちがゆっくりと起き上がる。


「ひぃっ!?」


 彼らの瞳が赤く輝いているのを見て、思わずリーダーは悲鳴をあげた。その輝く眼差しは、一つ残らず彼を見つめていたのだ。


「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! やめてくれ……やめろ……!」


 ルトロスが手を離せば、リーダーは一目散に後ずさる。まるで幽鬼のようにゆっくりと、しかし確実にホムンクルスたちは創造主を追い詰めていった。研究所の自室の隅に追い込まれた男は叫ぶ。


「おい、あの化け物を攻撃しろ! なぜ言うことを聞かないんだ!? 俺が創ってやったんだぞ、言うことを聞け!」


 ホムンクルスたちの行動を無感情な瞳で見つめながら、魔王は誰にともなく告げた。


「禁忌を犯し、命を創って、利用し捨てる。俺が憎んだ神の所業と、お前たちの行いに違いがあるか? その罪の重さは変わらない。お前たちは罪を償うべきだ」


 今まさに始まろうとしている惨劇から背を向けて、魔王は妖しく微笑む。


「安心してくれ。お前たちが犯した罪は、あの子の剣の糧となって神を断罪する力になる。その生は無駄にはならないよ」


 一斉にホムンクルスたちが男に飛びかかった。断末魔の叫びは研究所に響き渡り、そしてあっという間に消えた。


「さあ、断罪のはじまりだ」


 その夜、アセディアの街はホムンクルスによって跡形もなく破壊された。

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