24時間チャリティー小説の完成度

ちびまるフォイ

小説家としてのプロの仕事

「さぁ、はじまりました。24時間チャリティ小説!

 この番組がはじまってから24時間放送する間にひとつの小説を完成させ

 そして、その小説のお金をチャリティとする心温まる企画です!」


スモークとともに小説家が現れた。


「そして、今回この無謀とも思えるチャレンジに挑戦するのが

 小説家で脚本家でハイパーメディアクリエイターで放送作家の

 港山権左衛門吉三郎さんです!」


「どうも。どうも。よろしくお願いします」


「権左衛門さん、24時間で小説できそうですか?」


「まあ、普段仕事柄ホテルとかに24時間カンヅメで書くこともありますから。

 テレビの前というなれない環境ではありますがいけるかと」


「それでは、小説スタートです!」


小説家は用意されている執筆セットについて書き進める。

執筆の様子こそモニターされているが内容はけして明かされない。


「権左衛門さん、快調なペースで執筆しているようです。

 すでに構想があるのでしょうか」


「まあ、私ほどの作家ともなれば、登場人物を置くだけであとは話が転がります。

 自分は執筆という名の指揮棒を振るだけですよ」


「……なんかそれっぽいことを言っています!

 視聴者の皆さんには画が持たないので、バラエティ番組をどうぞ!」


執筆から3時間後。


小説家の手が止まることはなかったが、

原稿には先程からまったく小説とは無関係のことが書かれていた。


---------------

やべぇぇぇぇぇ!!


まだ3時間しか経ってないのかよ!!


もうすでに完結待ったなしだよ!


残り21時間もなに書けばいいんだよ。寝るしか無いだろ。


いやしかし、そんな姿を晒してしまえば俺の炎上は確実だ。


どうする。どうやって引き伸ばす……。


しょうがない。回想を入れまくってごまかすしかない!!

---------------


さも、執筆を続けているように見せて原稿には誰にも言えない

カメラにも映せない小説家のリアルタイムな叫びが乗っていた。


それをバックスペースで消すと、作家は引き伸ばしの回想編を開始した。


主人公の出生の秘密だとか、地面に落ちている石ころのゆえんとか

もっている武器の作られた経緯とか、ヒロインの服装のルーツだとか。




執筆から10時間後。


作家の手はけして止まることはない。


---------------

どうしよう。


もう回想も使い尽くしちゃったよ。何も書くこと無いよ。


というか、回想書きすぎて主人公が明らかにラスボスより強いんですけど。


これだけ回想でがんじがらめのキャラが負けたら肩透かしもいいとこだよ。


しかしまだ11時間も残っている。どうしよう……。


ダメだ。もうこれ以上はごまかせない。戦わせるしか無い。



頭脳戦で!!

---------------


回想編であれだけ武器だの服だのと掘り下げたわりには

最終戦はまさかの頭脳で抵抗するという荒業に打って出た。


主人公は相手の次の行動を読み、次の次の行動を予想し、

冷蔵庫にジュースがあったかなかったかを考え、

自分がもし失敗したときのリスクを考えて、考え、考える。


その脳に伝達される信号すべてを文字化するかのごとくの大量の文。


もはや指一本動かすのに数ページ使うほどの驚異的な引き伸ばし技術を見せつけた。

のちにこれはノーベル引き伸ばし賞を獲得する。



執筆から24時間後。


「カウントダウン! 5、4、3、2、1……」



「しゅう~~りょーーー!!」


ついに24時間チャリティ小説企画が終了した。


「権左衛門さん、本当にお疲れ様でした。いかがでしたか?」


「いやぁ、さすがに疲れましたね。でも頑張りました」


後半の5時間位はもう頭脳戦でも書くことがなくなったので

本編レベルの超大ボリュームのあとがきを書く羽目になったことは誰にも話せない。


「番組終了後、今回で作成された小説は発売され

 それにより発生したお金は全世界の恵まれない富裕層へと寄付されます!」


番組は拍手と歌で締めくくられた。

小説家は自分の楽屋に戻って一息ついた。


「はぁ~~……危なかったぁ。もうさすがにネタが尽きたかとおもった」


トントン。


楽屋のノックでいつもの仕事スイッチを入れる。


「どうぞ(低音)」


「権左衛門先生、今よろしいですか。お話がありまして」


「プロデューサーさん。おや、その手に持っているものは?」


「ええ、番組終了後に発売予定の本です」


「ちょっと待ってください。その本は俺が書いたものではないですよ。

 俺が書いたのはこっちで……」


「ええ、ええ、わかっています。わかっていますとも。

 でも、先生よく考えてみてくださいよ」


プロデューサーは自分の手をもみもみしながら上目遣いに話を続ける。


「24時間もぶっ続けで小説を書いていいものができますか?

 できないでしょう? できたとしても、先生のいつものクォリティとは程遠い」


「……」


小説家は否定できなかった。

たしかにツギハギで作った部分もあり、なんなら意味不明の思考バトルまである。


「これを24時間小説として発表すれば先生の名前にも傷がつく。

 番組としてもそれはよくないんですよ。

 ですから、こちらを今回の小説として出版しようかと」


「つまり……最初から出版させる用の本を番組側で用意していたと?」


「料理番組でもあるでしょう。すでに寝かせた料理を用意してます、とか。

 そういうのと同じですよ」


「……」


「ああ、でも安心してください! もちろん先生の名義にしていますから。

 それに絶対にわからないように何度もチェックしています。

 ゴーストライターだとはけしてわからないです。確実完璧安心です」




「そういうことではない!!」


小説家はプロデューサーのもってきた本を払いのけた。


「私はこれでも小説家のはしくれだ!

 自分の書いてない小説で褒められることのほうがずっと恥だ!

 たとえ、面白くない小説だとしても、私はこれをチャリティ小説とする!!」


「せ、先生……」


「バカにしないでくれたまえ!!」


その男気にプロデューサーは拍手をしてしまった。


「すみません……そして、おみそれしました。

 私は番組作りの過程で大事なものを忘れていたようです。

 先生に思い出させてもらいました。作り手の情熱というものを」


「そうか……」


「これからも素晴らしい作品づくりをしてください!」

「無論だ」


プロデューサーは深く頭を下げ、本をもって楽屋をさろうとした。


「待ちたまえ。その本は置いてってくれないか?」


「え? でも、先生。チャリティ小説はご自分ので挑戦するんでしょう?」




「そっちの本は、チャリティじゃないほうで売ろうかと思って」



小説家の頭にハードカバーが突き刺さった。

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