59 エレベータの扉が開いた──。
エレベータの扉が開いた──。
行き先は、わたしにはもうわかっている気がする。
タカユキは大股で通路を行く。わたしは少し小走りになって追いかける。
あるときから、その大きな歩幅に合わせるのはいつもわたしで、たいていタカユキの大きな背中を追いかける羽目になる……。
中学のときにもう見上げていたけれど、高等予科学校に
やっぱり……。
タカユキは左舷の通路を真っ直ぐに、船外作業準備室へと向かっている。
わたしは
もう何を言っても届きそうにないその背中に、わたしは何とか言おうとして、結局、口の中だけで呟いていた。
──最後まで……〝気持ち〟は、諦めたくないんだね…… 昔からそうだったもんね……。
* * *
初めて会ったのは、小学校に
艦隊勤務の父の任地がタカちゃんの住んでた街になって、わたしたち家族が移ってきた日、はじめて公園であいさつした子供が、1歳年下のタカちゃんだった。
ガキ大将を地で行くタカちゃんは父の〝お気に入り〟で、お互いの家を行ったり来たりするようになって、一人っ子だったわたしにいきなり〝弟〟ができて、大好きだった父をとられてしまったようで複雑だったっけ……。
そんなタカちゃんの〝強情さ〟に初めて気付かされたのは、わたしが飼っていた仔犬のコマリが居なくなっちゃったときのことだ。
お友だちみんなと近所の河川敷で遊んでいたときコマリの姿が見えなくなって、みんなで捜し始めて──。
わたしは小さなコマリが心配で、でもそんな小さなコマリから目を離してしまった自分を責めて泣くばかりだったけど、タカちゃんはみんなの先頭に立ってコマリを捜してくれた。
陽が暮れてきて、お友だちが一人、また一人と帰ってしまう中、タカちゃんだけが最後まで残って一緒に捜してくれた。
帰りが晩いのを心配した両親が迎えに来ても、タカちゃんは「──コマリ、きっと心細くて震えてるよ!」「あと少し捜せば、見つかるかもしれないじゃないか!」と食い下がってくれたけど、その日、コマリを見つけることはできなくて、二人で泣きながら帰ったよね……。
結局コマリは、次の日に中洲で震えているのを近所の人に見つけてもらえて、わたしのもとに戻ってきた。
そしてわたしは……
──このときに隣に一緒に居てくれた男の子に、はじめて〝好意〟を持ったんだよ。
* * *
タカユキは船外作業準備室の扉へと入って行く。
わたしは一瞬、逡巡する。
同じ通路の先でトコちゃんが、タカユキが準備室に消えるのを見て〝慌てたように〟手近の壁面の艦内通話機に取り付くのが見えた。
その隙に、仕方なくわたしは準備室の扉へと飛び込んだ。
暗い室内で、タカユキの背中を捜す──。
その間にも、わたしの追憶は続いている……。
* * *
コマリが見つかってから、〝いっこ〟上の『お姉ちゃん』としての4年の月日があって、わたしが病気になると〝最初の〟4年生の1年間を病院で過ごすことになって、〝二度目の〟4年生をやり直すために小学校に戻ってみたら、タカちゃんは同じクラスの男子になっていた。
前のクラスの友達は〝上級生〟となっていて、心細かったし、なんだか落ちこぼれてしまったようで悔しかった。
長期の療養ですっかり痩せっぽちになっちゃってて、車椅子が必要だった身体も恥ずかしくて、すっかり委縮してしまっていたわたし。
教室に知っている顔はタカちゃんだけで、そのタカちゃんもこの1年ですっかり雰囲気が変わっていたっけ……。
──なんだか少し、可愛くなくなってた。
けど、やっぱりタカちゃんはタカちゃんだったね──。
最初の
放課後のうさぎ小屋の世話は、相方の男子の『いきものがかり』だったミトムラが、塾に行くからと先に帰ってしまって、初日からわたしは途方に暮れたのだった……。
うさぎ小屋の前、車椅子で雨に濡れてたわたしを見つけたタカちゃんは、小屋の中まで押して行ってくれて、そしてそのままうさぎの世話もしてくれたんだよね。
……いまでも思うんだけど、何で〝黙ったまま〟だったのかな? ──あのときわたしは、タカちゃん何で怒ってるのかな? って思ったりして、ちょっとこわかったんだよ。
次の日の始業前の朝のSHRの前に、タカちゃんはミトムラに言ったんだっけ──。
「──お前さ、塾とか勉強とか、それはそれでいいけどさ ……そんな無責任なコトじゃ、いきものがかりにゃ向いてねェよ。俺が替わるわ」
それから車椅子が必要なくなるまでの前学期の間、一緒に『いきものがかり』したね。
怒ったような
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