第14話 思い出の扉
58 人のいない士官次室《ガンルーム》──
タカユキの他に、人のいない
舷窓に身を預ける様にして、窓外の
窓枠に
わたしは、ちょっと魅入ってしまう。
もっと幼かった、〝可愛らしい顔〟の頃から知っていて、何回この顔と喧嘩したかわからない。
でも、だいたいタカユキの方から謝るのが──それがわたしが悪かったとしても──、わたしたち二人の約束事だったような気がする。
でも、今回は許してはくれそうにないかな……。
わたしは気後れのする視線で、窓に映り込んだ彼の顔を見る。
ふと目が動いて、視線が逢ったように思う。
……反応してくれなかった。
タカユキは舷窓を離れ、そのまま
わたしの目の前を、タカユキは横切るように。
──仕方ない…… それでもやっぱり…… と想ってしまう……。
わたしは、俯いてタカユキの背を追う。
「タカユキ……」
イツキがやっとという感じに口を開いて言う。「──その……
そんなイツキを。タカユキは片手を上げただけで遮った。
わたしは、それで少し胸を撫で下ろす。
そんなわたしなんか見えてないように、タカユキは艦内通路を先へと急ぐ。
──ばん!
「くそ……っ」 イツキだった。「──なんで…あのとき……」
タカユキの消えた通路の壁面に拳を打ち付けたイツキを視界の片隅に見ながら、わたしは艦内通路を、タカユキの姿を求めて追いかける。
タカユキの姿が主幹エレベータの中に消えようというところで、わたしは何とか追い付いた。
わたしのことなんか気にするでもなく
さすがにつめ寄って文句を言ってやりたくなる。
でも、わたしは言葉を飲み込んで、
タカユキはちらりともこちらを見ない。扉横の
わたしは横からそっとタカユキの顔を見上げる。
こっちを向くことはないけれど、それでも、その横顔を
「覚えてる?」
思い出し笑いをしてしまう。
タカユキ
* * *
──あれは中学3年の春のことだったよ……。
病気で1年間病院にいたわたしが学校に戻った
ずっと一緒で、側に居てくれるのが普通だと思い込んでた。
始業式の日、中学最後のクラス分けでタカちゃんとは別々になったのを知ったとき、わたしは思い切ってタカちゃんを体育館の裏手に呼び出した。
わたしには結構自信があったから、タカちゃんがやるような〝直球勝負〟をしてみた──。
それで、困ったような、煮え切らない
「ごめん……」
タカちゃんはこう言って視線を外したんだ。「だって、ほら……、コトミは年上だし……」
「そ……っか……」
何とかそれだけ言って、その場を逃げ
──ズルいよ…… もうそれって、どんなに努力したって、どうにもできないことだよね……
そのときのタカちゃんの
わたし、どんな顔してたっけ……?
その年の夏──、航宙軍の士官だった父が任務から帰ってこなかった……。
父の乗った巡航艦〈ウネビ〉は、哨戒任務の途中で消息を絶った。
詳細は
突然のことに涙に暮れるだけの母とわたしに、航宙軍と父の元同僚は『軍機』という二文字で、誰も何も納得できる説明をしてくれなかった。
葬儀の日、斎場へと向かうわたしの傍らにずっと付いていてくれたね──。ほんとは手を握っていて欲しかったんだよ。……でも、ずっと隣に居てくれて、ありがと。
母子家庭となってこれから先の学費のことを考え、わたしは私立高校への進学を取りやめて航宙軍高等予科学校へ進むことにした。そしたら入学式の日にタカちゃんの姿が
──お父さんのいないタカユキにとって、航宙軍の軍人で
けれど……、ずっと訊けないでいたけれど……、それだけが理由じゃなかったんだよね?
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