44 主砲、発射用意‼ 砲雷長 ──主砲操艦せよ
登場人物
・タカユキ・ツナミ:HMSカシハラ勅任艦長、22歳、男
・トウコ・クリハラ:同砲雷長、22歳、女、通称『氷姫』
・コトミ・シンジョウ:同船務科主管制士、23歳、女、ツナミの幼馴染み
・マサミ・コウサカ:同航宙科操舵士、22歳、男
・アーディ・アルセ:帝国宇宙軍装甲艦アスグラム艦長、大佐、39歳、男
・マッティア:同第一副長/航行管制、中佐、36歳、男
・ネイ:アスグラム第二副長/戦闘情報管制、少佐、31歳、女
・ラウラ・セーデルバリ:同機関長、機関中佐、35歳、女
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カルタヒヤ星系内──。
シング=ポラスからの跳躍点付近の空域に息を潜めていた〝
6月12日 0422時
【H.M.S.カシハラ /
「やった! 熱源発生──〝エコー1〟と呼称──
ツナミ艦長はCICの自席でジュンヤ・タカハシ宙尉のその声を聞いた。
「熱紋照合──
「──〝エコー1〟、加速開始!」
再びタカハシ宙尉が声を上げ、敵艦の動向を報告すると、ツナミは艦橋を呼び出した。
「艦橋CIC──機関始動! 主砲射線上に敵装甲艦を捉える。砲雷長操艦」
『──艦橋了解。CIC指示のもと、艦首を敵艦に指向する』 副長のミシマの声が応じる。
それからツナミは、CICの主役である砲雷長を向いた。
「主砲、発射用意‼ 砲雷長 ──主砲操艦せよ」
「砲雷長、操艦頂きました──」
砲雷長のトウコ・クリハラ宙尉は復唱し、自席の
6月12日 0425時
【H.M.S.カシハラ /艦橋】
主砲の射線が艦首進行方向であるため、操艦する操舵士が砲の向きを決めることになる。
『──z
航宙長のイツキ・ハヤミ宙尉よりも冷静だが、声質が高く、ややもすると機械的に聴こえる
正面──直上0時に対し2時方向に漂う敵艦に艦首を向けるべく、艦の
主砲の管制は
カシハラの艦首が敵艦へと向くまでの〝じりじり〟とした時間の中で、舵輪を預かるコウサカ宙尉は、心の中で叫んでいる。
──回れ……回れっ! 回れ~~~っ‼
艦橋の面々だけでなく、CIC、機関制御室、──艦内の各処で戦況を見つめる全ての人間が──エリン・エストリスセン皇女殿下も例外なく──焦燥のなかで固唾を飲んでいる。
やがて──実際にはそれ程に時間は掛かっていなかったが──カシハラは〝回り〟始めた。コウサカ宙尉は、その時にはもう〝当て舵〟を当て始めている。
6月12日 0425時
【H.M.S.カシハラ /
砲雷長の指示のもと回頭を始めたカシハラが、その艦首に敵艦を捉えようとしていた──。
艦首に固定装備された主砲の広くない射界の中に、ようやく敵影が入ってきた。
砲雷長席でそれを視界に留めつつ、実はクリハラ宙尉は心の
実際に主砲を〝撃つ〟のは初めてだった。
じつはこの作戦に先立って、艦長──直近まで戦術長補だったツナミ──から、射手を替わるかと訊ねられていた。その時には『砲雷長は自分だから』と断ったけれど、テルマセクでパルスレーザを照射──帝国の機動機を撃墜──したときの、あの〝気持ちの悪さ〟が甦る。
「──砲雷長! 〝いま〟だ‼ 撃て!」
「は、はい!」
出し抜けに耳に飛び込んできたツナミの声に、クリハラは反射的に
──まだ早い……!
カシハラの艦首から禍々しい火線が伸びたのを見た──荷電粒子の
──タイミングは敵装甲艦の
半瞬か一瞬して、その火線の先で〝火球〟が弾けた様に思えた。
──当たった⁉
CICが反応できない中、
『着弾らしき発光を確認!』
「やったか?」
艦長席からツナミが確認を促す。主管制卓のコトミが先ず応えた。
「──熱紋に変化ありません!」
「長距離射撃です……光学情報を解析しなければ詳細は──」
射撃管制・解析の制御卓からシンイチ・ユウキ宙尉が声を上げると、ツナミはそれを遮って次弾発射の指示を飛ばした。
「──次発充填! 急げ!」
「主砲、第二射、用意──」
砲雷長のクリハラは主砲の第二射の発射
6月12日 0426時
【
対エネルギー防御スクリーンから変換器を介して流れ込んだ熱量に蓄熱系が
直撃の衝撃とそれに続く推進軸の偏向──左舷側の推力が失われたことによる影響──による
「機関長──」
アルセ艦長は、機関制御室で事態に対処するセーデルバリ機関中佐を、メインスクリーンの小窓の中に見た。彼女は被害対処の手を緩めずに、艦長に向け首を小さく〝横に振って〟返した。それでアルセは決断することになったのだった。
左舷の推力の復旧の見込みはない──。片舷の推進力を失った航宙艦に、もはや戦闘艦としての機能は期待できなかった。
「機関出力を最小運転に──」
機関長は今度は首を縦に振って返した。アルセは次いで通信士に指示する。
「停戦信号を送れ! 急げ!」
スクリーンの中に二人の副長が
「──戦闘を断念する。すまんな」
『艦長──』 第一副長マッティア中佐が口を開く。『私は艦長の判断を支持します』
『私も、同様に支持いたします』 隣に映る第二艦橋のネイ少佐も、同じ表情で敬礼した。
〝
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