43 窮鼠が猫を噛む
登場人物
・アーディ・アルセ:帝国宇宙軍装甲艦アスグラム艦長、大佐、39歳、男
・マッティア:同第一副長/航行管制、中佐、36歳、男
・ネイ:アスグラム第二副長/戦闘情報管制、少佐、31歳、女
・ラウラ・セーデルバリ:同機関長、機関中佐、35歳、女
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カルタヒヤは〝自由回廊〟の南側の要衝シング=ポラスと北側諸邦とを結ぶ跳躍点を持つこと以外なんら価値を持たない星系で、居住惑星はおろか大型航宙船舶の着岸が可能な居住施設すら存在しない辺境中の辺境の地である。
6月12日 0410時
【
「
管制士の声を耳に、アスグラム艦長アーディ・アルセ大佐は各部署からの報告を待つ。程なくして各部署の責任者から報告が上がってきた。
『機関制御室、異常ありません』『応急、異常なし』『航行管制、異常なし』『兵装管制、異常なし』
「──全艦、異常なし。輻射管制を維持」
アルセは頷くとスクリーン上に映る第三艦橋の小窓映像に目を向けた。第三艦橋を預かる第一副長のマッティア中佐が応える。
『周辺空域に障害、ありません』
アルセはもう一度頷くと、マッティアに指示する。
「輻射管制を維持──
航行管制の責任者は了解の意で敬礼し、スクリーンから消えた。
「しばらくは我慢比べが続くか……」
6月12日 0425時 【
──15分の後……。
アスグラムは艦に搭載されている
推進剤の反応が観測されないため、
「どう思う?」 観測の統括もするマッティアが機関長に意見を訊いた。
『──なんとも言えません……』
スクリーンの中でセーデルバリ機関中佐は、送られてきたデータを確認しながら慎重な回答を返した。
『──モガミ型の〝低輻射時〟の状態によく似た反応だけれど── 艦首をこちらに向けてるの? 機関状態が全く〝見えない〟のでは、機関士官としては……』 言って肩を竦めて見せる。
なんとも煮え切らない言葉ではあったが、その機関長の示唆はアスグラムの副長であるマッティアにとって重大な意味を持つ──。
──であれば〝
一方で輻射管制を実施しているのは
マッティアは第一艦橋のアルセ大佐と第二艦橋のネイ少佐を呼び出した。
「艦長── 進路上に慣性航行中と思われる〝物体〟があります」
『モガミ型か? ……距離は?』
「特定はできませんが恐らく…… 距離、光学解析の推定で1万1千キロ──どうもこちらに艦首を向けているようです」
アルセは目でアルセを向き訊いてきた。
『仕掛けてくると?』
マッティアが肯いて返すと、次いでネイを見た。ネイもまた肯きながら言った。
『──候補生らの反撃の意図を、積極的に排除する理由はないと考えます』
『だがまだ本艦が探知された形跡はない……?』
アルセは慎重な物言いでマッティアを向いた。マッティアの方も慎重になって返す。
「いまのところ照準・測距は受けてません……」
マッティアがそう答えた時であった──。
「
第一艦橋の管制士が
「──
アルセの対応は早かった。
「輻射管制解除! ──機関、最大加速!」 画面越しの二人の副長に矢継ぎ早に指示を下していく。「──〝チャフ〟〝
アスグラムは加速方向を欺瞞するための〝フレア〟が焚かれる中、最大推力をもって加速を始めた。回頭はしない。
このとき既にアスグラムは、跳躍前の運動系で保存された慣性運動の進行軸に対して90度の角度──進行方向が艦の左舷となるよう航行していた。
独行任務における航宙艦の追跡では、
その不利を少しでも補うため、航宙艦は跳躍に先立ち、予め艦の推進軸に想定進路からの最大変位を得られるよう〝角度〟を付けておくのだ。探知されてから回頭しているのでは間に合わない。
「防御スクリーン、展開急げ! 変換効率は対レーザー、出力を可能な限りまわせ!」
アルセは指示を飛ばしているとき、候補生らを〝甘く見過ぎた〟かもしれないと心の中で思っていた。
〝──窮鼠が猫を噛む、の例えもある……〟
跳躍の前後のこの〝ズレ〟を利用して砲戦に持ち込むのは常套である。──
だがアルセは、本当の意味で〝彼ら〟を見くびっていたことを知る──。
「……艦長!」 輻射管制が解除された艦橋に
──なんだとっ……!
「照準照射が来ます!」 別の
──‼
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