第9話 知人と友人

「この骨の鑑定は、どちらで?」


「知人の研究所で、です。いつも鑑定をお願いしているところですが、今回ばかりは不明な点が多すぎると言っていました」


「知人ねぇ」


「あの、実は、この事件が明日にでもマスコミに公表されそうなんです」


「どうして、急に?」


「現場から逃げ去った男を、指名手配するためです」


「男? 目撃者がいたのですか?」


「近所の住民からの情報で、この二つの遺骨が見つかる前日に、見たこともない男が走り去るのを見たとのことです」


「で、貴女は、どうしてそんなに早く動いているんですか?」


東雲の表情が、一瞬強張る。それを見ないふりをして、西尾は続ける。


「だって、まだ警察が何もつかんでいない事件ですよ? どうして弁護士の貴女が勝手に動くんです?」


「それは、警察に友人がいて、相談を受けまして」


「警察に友人。まあ、良いでしょう。好奇心と責任感の強い弁護士がいても、害はありませんからね」


北原は、珍しく探偵のように振る舞う西尾に驚き、聞耳を立てていた。西尾は足を組み替えて、一つの事実を突きつけた。


「昨日、貴女が鑑定をお願いした研究所に行ってきました。研究所は、貴女からの依頼を知らないと言っていました」


「そんなはずは……」


「その知人は、一人でこっそり鑑定を行った。いや、行った振りをして、貴女に何も分からなかったと伝えたのではありませんか?」


「彼女に限って、そんなことはないと思います」


「でも、そうだとしたら、辻褄が合う。だって、現代の科学技術で何も出ないというのは、ちょっと考えられないからね。で、貴女は焦ったんじゃないですか?」


「え?」


顔を歪める東雲には、北原と会った時の余裕はなくなっていた。すっかり、顔が青ざめている。見ている方が東雲に同情してしまうくらいだ。


「貴女は心配したんでしょう? この遺骨が、差別を増大させるのでは? と。白と黒は対比的な色として、受け入れられやすいことを、貴女は知っている。白い骨は普通の骨だ。となれば、黒い骨は異常な骨となる。このことが社会的な意味を付与された時、現代に根強く残る差別を増大させると。だから、焦った貴女は、藁にもすがりたい気持ちで、ここを頼った。だから、犯人を捜してほしいなんて一言も言わず、黒い骨と白い骨の調査をここに依頼したんだ。最初から、骨にしか興味がなかったみたいだからね」


西尾は新聞のコピーを一枚ポケットから取り出した。そこにはまだ幼さが残る東雲と一緒に、多くの黒人の子供たちが映っていた。皆、白い歯を見せて笑っていた。その中で、一番幸せそうな笑顔を見せていたのは、東雲だった。




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