第6話 嘘と正直な奇術師

「なーんだ。知ってるじゃん!」


「いや、当たってたんですか?」


どうやら、難しく考えなくても、高校の生物の知識があれば解けた問題らしい。人間はエネルギーを、脳神経系では電気エネルギーに変換し、体温には熱エネルギーにして供給している。能力者は、体の中にあるエネルギー変換率を効率的に行える者となる。エネルギーが熱エネルギーなら、炎系の能力が使える。一方電気エネルギーなら電気系の能力が使える。よって、体内エネルギーが枯渇すれば、能力は使えなくなる。しかし魔法使いは自分の体の外から力を持ちだせるため、能力者よりも大きなことが出来る。能力者は能力をエネルギー変換しやすい形でしか発現出来ないため、一人一つか二つくらいの能力しか持てない。しかし、魔法使いは体内エネルギーの制約がないため、異なる世界を認知し、そこに転移するという複雑なことも可能だと言うのだ。これが、はるか遠くの時代に実在し、現在では小説や漫画などのフィクションにのみ登場する、能力者と魔法使いの違いだ――と、西尾は言う。


「まあ、本来の魔法使いや魔女と呼ばれる人々は、人間社会の外にあるものを中に持ち込むことができる人々だったってこと。つまり、今で言う薬屋や占い師みたいな人々だったんだ。例えば森にある植物の知識を豊富に貯え、人々に薬として与えるのが薬屋。星の動きや風の動きなどを観測して人々に注意喚起するのが、占い師という具合。神話で伝わっている能力者や魔法使いなんて、いるわけないでしょ?」


「え? 体内エネルギーとか、制限とかの話は?」


「ん? 嘘に決まってるじゃん。ぜーんぶ、作り話。例えば、の話だよ」


「信じた俺が馬鹿でした」


「でも、まあ、その嘘を現実のモノとして、密告制度を設けた時代もあるよね」


へらへら笑う西尾に対して、北原は固い物を飲み込んだような顔になる。


「魔女狩り、ですか?」


「うん、そう。魔女狩りは女性だけのイメージがあるけど、男性もその対象。つまり、魔女狩りは魔法使い狩りでもあったんだよねー」


コーヒーを飲み干した西尾は、コーヒーカップを北原に差し出して、おかわりを要求した。そして、自分の爪を気にしながら、組んでいた足をバタバタさせた。どうやら、自分で話し始めておいて、もう退屈になってきているらしい。本当にものぐさな男だ。


「マジシャンって、いるじゃん?」


「はい、いますね」


「奇術師って呼ばれてたけど、彼らもその対象になるのが嫌で、自分のマジックのネタを書いて、奇術師は魔法使いではありませんって、証明した人もいるみたいだよ」


「それって、自分のマジックのタネ明かしをしたってことですか?」


「そうなるねー」


「もうマジシャンとしてはやっていけないですね」


「まあ、命には代えられなかったんでしょ」


二杯目のブラックコーヒーをすすりながら、歌うように西尾は言った。



「ねえ、ここまで言えば分かるよね?」


「え? 何がですか?」


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