第10話

「俺達をまとめて相手にするだと・・?? 随分と舐められたものだな。」


 ガハハハハハハッ!! ウィルバルト達の姿を見た上位魔巨人ハイ・トロールが大きく笑い声を上げると、周りの魔巨人トロール達も続けて笑い声を上げていく。




 おぉ・・! あれが上位魔巨人トロールか!!


 確かに他の魔巨人トロールよりも体が大きい・・。それに他の魔巨人トロールがどこか奴に怯えているように見える。




 ウィルバルトが周りを取り囲む魔巨人トロールを見渡しながら考えていると、ヴェストニアが頭の上から飛び降り、上位魔巨人ハイ・トロールを指差した。




 「ガハハハハ!! 舐めているのはお前の方だ!!」


 「たかが魔巨人トロールの分際で私達に歯向かうなど100年、いや1000年は早いというもの。」




 「な、なんだと!? いや、それよりさっきからなんだお前は?!?!」


 「見るところ後ろの人間は竜騎士ドラゴンナイトの様だが、まさかこいつがお前のドラゴンか??」




 「・・・そうだけど。」




 ・・・・・・ガハハハハハ!!!


 胸を張るヴェストニアとその姿を冷めた目で見つめるウィルバルトを交互に視線を移した上位魔巨人ハイ・トロールは、この日一番の笑い声を上げた。




 「お、お前がドラゴンだと?? ハハハハハ、こんなドラゴンがいるのか!!!」




 「な、何じゃ!! 失礼な奴だな!!」




 「ひぃ、ひぃ・・。わ、分かった、もういい。」


 「お前達、そいつらは好きにしていいぞ。俺は食事の続きをする。」




 上位魔巨人ハイ・トロールは涙を拭いながら再び地面に腰を下ろすと、隣に置かれている檻の中から捕まっている人間の1人を掴んだ。


 上位魔巨人ハイ・トロールの言葉を聞いた周りの魔巨人トロール達はウィルバルト達に笑みを浮かべながら徐々に近づいていく。




 「ゲヘへへへ・・。人間の方は俺のもんだ! お前達にはそのチビのドラゴンをくれてやる。」




 「おい! 人間は俺のもんだぞ!! お前こそあっちのドラゴンにしろ!!」




 ぎゃぁ、ぎゃぁ・・!! 魔巨人トロール達は誰がウィルバルトを食べるかで争いだすと、その内の一体が他を出し抜きウィルバルトの体を掴み上げると、急いで口に運んでいく。




 うわぁ・・、口の中汚いな・・。


 こんなところに入るくらいなら死んだ方がマシかもしれない。




 ウィルバルトは迫ってくる魔巨人トロールの口の中を覗くと、その汚さに顔を歪ませる。


 その光景を見つめていた周りの魔巨人トロールは、気を取り直すとウィルバルトを奪おうと一斉にウィルバルトを食べようとしている魔巨人トロールの元に駆け寄っていった。




 でもこれはいい機会かも知れない。ヴェストニアの魔力の影響で、俺が今どの程度の力を持っているのか確かめるには絶好の相手だろう。


 魔巨人トロールが20体、そうそうお目にかかれない数の魔族だからな。




 バチンッ!!!!


 しかしウィルバルトは笑みを浮かべ、いとも簡単に自身の体を掴む魔巨人トロールの手の中から抜け出し強烈なデコピンをその魔巨人トロールに喰らわせると、洞窟内に鈍い音が響き渡り、魔巨人トロールは額を陥没させ気を失った。


 そのあまりに一瞬の出来事に、こちらに駆け寄ってきていた魔巨人トロール達はもちろん、食事を再開しようとした上位魔巨人ハイ・トロールさえも言葉を失い、ウィルバルトから目が離せない。




 「・・・・まじか。」




 しかし一番驚いていたのは何を隠そう、ウィルバルト本人だった。


 ウィルバルトは魔力検査の際に放った火弾ファイアーショットを思い出し、出来るだけ弱い攻撃をしたつもりだが、痛がる程度と考えていたただのデコピンが魔巨人トロールを気絶させるほどの威力だとは思ってもいなかったのだ。




 「ほう、やるではないかウィルバルト!! 流石は私の相棒だな!!!」




 「・・・・いやいやいや!! さっきの見てた?? ただのデコピンだよ? ただのデコピンが魔巨人トロールを気絶させるっておかしくない?!」


 ウィルバルトは地面に降り立つと、いつものように頭の上に飛び乗ってきたヴェストニアの顔を掴み、力いっぱい握りしめながら声を荒げる。




 「ぐ、ぐるじい・・。」




 「・・・あっ、ごめん。」




 はぁ、はぁ・・。我に返ったウィルバルトが手を離すと、ヴェストニアはなんとか息を整えていく。




 「・・ふぅ。しかしお前が驚くのも分かるぞ! 私もここまで魔力量が向上するとはおもっていなかったからな。」




 「そ、そうなのか?? じゃぁ何でこんなに力が強くなっているんだ??」




 「・・・・そうだな。」 


 ヴェストニアは再びウィルバルトの頭の上に移動すると、いつものように腕を組み考えた後答え始めた。




 「恐らくだが、私がこの姿なのが原因かもしれん。」




 「どういうことだ??」




 「私はこの姿だと力も魔力も大きく制限されるからな。魔力を使うと言えばお前を掴み空を飛ぶ時くらいだ。」


 「そうなると、有り余った私の魔力が必要以上にお前の中に流れ込んでしまうのかもしれん。まぁ、元々ウィルバルトは魔力が極端に少なかった。それらが重なり、これまで魔力に晒されてこなかった体がかなり強化されてしまっているのだろう。」




 そ、そうだったのか・・・。


 確かに以前の俺には魔力が殆ど無かった。他人に言われるのは少し癪だけどな・・・。




 ウィルバルトとヴェストニアが同じように何度も頷いていると、ようやく気を取り直した上位魔巨人ハイ・トロールが声を上げる。




 「・・・き、貴様!! 一体何をしたのだ!!!」




 「えっ?? いやなにって、デコピン・・・」




 「そんなわけがないだろう!! たかがその程度の攻撃で我らがやられるなど・・!!」


 ガシャンッ!! 上位魔巨人ハイ・トロールは湧き上がってくる怒りに、隣に置いてある人間が入れられている檻を勢いよく蹴り上げる。


 その衝撃で、その中に入れられていた人間達は悲鳴を上げながら次々と気絶していく。




 な、なんてことを・・!!


 早く手当てしないと・・!!!




 「お前達! もう手加減なんてするんじゃねぇぞ!! 一斉にこいつらに襲い掛かり、俺達に歯向かったことを後悔させてやれ!!」




 グァァァァァァァ!!!


 上位魔巨人ハイ・トロールの言葉で、ウィルバルトの周りを取り囲む魔巨人トロール達は武器を手に取り雄たけびを上げると、一斉にウィルバルト達に襲い掛かった。




 「ウィルバルト!! 後ろじゃ!!!」




 「ああ、分かってる、よっ!!!」


 バキッ!!! ウィルバルトは空中に飛びあがり背後からの攻撃を避けると、洞窟の天井を勢いよく蹴り、魔巨人トロールの頭部目掛けて右足を振り下ろす。


 その攻撃を受けた魔巨人トロールは、一瞬で頭部を破壊され、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。




 「・・ッ!!!!!」


 ウィルバルトの人間離れした動きを目にした魔巨人トロール達は、足を止めると攻撃を行うことを躊躇し始める。




 よし・・! こいつらビビり始めてるな。


 流石に数も多いからな、これ以上戦うのは正直疲れる・・。




 ウィルバルトは、小さく息を吸うと、周りの魔巨人トロール達にある提案をした。


 「お前達! ここから立ち去り、二度と人間に危害を加えないというなら、俺はこれ以上お前らに手は出さない。」


 「どうだ、悪い話じゃないだろう??」




 ザワザワッ・・・。ウィルバルトの思いがけない提案にお互いの顔を見合わせ声を上げ始めるが、背後でその話を聞いていた上位魔巨人ハイ・トロールが声を上げると、一瞬でその場は静まり返った。




 「人間風情が、俺達魔巨人トロールを見逃してやるだと?? お前達はただ俺達に食われていればいいのだ!!」


 「お前達!! これ以上舐めた真似をさせるな!! 避ける隙間がないほど同時に攻撃を加えろ!!!」




 ・・・・グォォォォォォ!!!


 その言葉に魔巨人トロール達も覚悟を決めると、雄たけびを上げ、再びウィルバルト達に攻撃を開始した。




 「・・・ちっ。やっぱりだめか。」




 俺としては、上位魔巨人ハイ・トロールさえ倒せればそれでよかったんだけどな・・。 




 ウィルバルトが迫ってくる魔巨人トロールに備え攻撃の準備をしようとすると、ヴェストニアが頭の上から地面に降り立った。




 「ふぅ・・。おいウィルバルト! 確か私の正体は人間にバレたらマズいんじゃったな??」 




 「・・あ、ああ。でもここにも捕えられている人達が・・」




 あっ、全員気絶してるのか・・。


 てか、もしかしてあいつ・・!!




 「では後は私が引き受けてやろう・・。」


 「光栄に思うがよい魔巨人トロール。お前達は死ぬ前に偉大な相手と戦えたのだ・・・。」


 「・・・この破壊竜 ヴェストニア様にな!!」




 ブォォォォォォォ!!!


 ウィルバルトがヴェストニアの考えていることに気づいた瞬間、辺りに突風が吹き荒れると、先ほどまでの可愛らしい風貌ではない、神殺しと恐れられた破壊竜ヴェストニアが姿を現した。


 その身体はこの大洞窟の高い天井まで到達しそうなほどの巨体であり、その姿を目にした魔巨人トロール達はみるみる表情が曇っていく。




 「ま、ま、まさか・・!! いや、あり得ない!! なんでこんなところにあのヴェストニアがいるんだ!!!」




 「ガハハハハハハ!! その通り、私の名はヴェストニアだ。」


 「・・・どうした? 先ほどまでの威勢はどこにいったのだ??」


 ゴクリッ・・・。 自身の目の前まで顔を下ろしたヴェストニアの姿に、上位魔巨人ハイ・トロールは息をのむと、その額からは大量の汗が吹き出ていく。




 な、なんでこんな化け物がここにいるんだ・・!!


 くそっ!! こんなことなら人里なんかに降りてくるんじゃなかった・・・、はっ!!。




 上位魔巨人ハイ・トロールはここまで行ってきた自身の言動を思い出し、恐る恐るヴェストニアに口を開いた。




 「・・お、俺が悪かった。もう二度と人間には手を出さない。だからどうか・・・」




 「・・・私に謝っても仕方ないであろう。それにお前は人間を殺し過ぎだ・・。最早許される域を超えておる。」


 「今度生まれ変わった時に、悔い改めるのだな。」


 「・・・竜の息吹(ドラゴン・ブレス)。」




 グァァァァァァァ!!!!


 ヴェストニアが話し終え、震える上位魔巨人ハイ・トロールを始めとする魔巨人トロール達に自身の息を吹きかけると、その息を浴びた魔巨人トロール達の身体から次々と炎が上がり、一瞬で魔巨人トロール達は燃え尽きていった。




 「・・・これで少しは食われた人間達もうかばれるであろう。」




 ヒュゥゥゥゥゥ・・。


 ヴェストニアは魔巨人トロール達が死んだのを確認すると、再び辺りを包み込む風と共にいつもの小さな姿に変化し、ウィルバルトの頭の上に飛び乗る。




 「・・・お前、本当はいい奴なんだな。」




 「う、うるさいぞ!! ほら、手加減してやったからな、捕らわれている人間達は無事だ。彼らを連れて早く戻るんじゃ!!」




 破壊竜ヴェストニアか・・。


 もしかしたら、そう言われる原因になった神殺し。それも何か理由があったのかもしれないな・・。




 ハハハハハハッ!! ウィルバルトは頭の上で顔を赤らめるヴェストニアに笑い声を上げると、気絶している人達の元へと足を進めていった。


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━ DRAGON KNIGHT ━ 落ちこぼれ竜騎士見習い、なりゆきできまぐれ最強竜と契約してしまう。 @peroronpe

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