第9話
ヒラ村を出発したウィルバルトは、村の少女ミリの案内でムストルの沼地にある大洞窟へと向かい森の中を進んでいた。
「それにしてもこの辺りは本当に色んな生き物がいるんだね。」
「そうなんです! ムストルの沼地一体は王国の中でも有数の生き物の宝庫。私達も村の周りで採れる薬草や動物の肉、毛皮を売って暮らしているんです。」
「でも
そうだったのか・・。
どうりで村人達に元気がなかったわけだ。
ウィルバルトはそれでも目の前を行きかう多くの動物達に視線を向けながらミリの話に耳を傾けていた。
少なくなったとはいえ、これだけ多くの動物が生息しているこの森は、ヒラ村にとっては切っても切れない場所なのだろう。
「・・・だが、以前からも
ミリの話を聞いていたヴェストニアが口を開くと、ミリはこちらに振り返らずに話を続けた。
「確かに
「それはこの湿地帯には餌となる他の動物がたくさんいたので、人間を襲う必要がなかったからです。」
「ではどうしてこのような事態になっているのだ??」
「それは大洞窟に住み着いた
奴らは総じて通常の魔族よりも知能も魔力も優れているってアーセム先生が言ってたっけ。
ウィルバルトは
そして、これから初めて目にするであろう上位種に少しの興奮を覚えるのだった。
「ふむ。
「へぇ、お前よく知ってるんだな。いつものお前からはそんな真面目な言葉が出てくる何て想像できないぞ。」
「な、何を!! ウィルバルト、私を誰だと思っているんじゃ!! あまりバカにするとどうなっても知らんぞ??」
「そうなるって言うんだ??」
「・・・・それはな、こうなるんじゃ!!」
ポカポカッ!! ヴェストニアは立ち上がると、ウィルバルトの頭をその小さな腕で何度もたたき始める。
しかしウィルバルトには少しのダメージも与えられず、ヴェストニアは次第に息を切らし、最後には大きく息を乱しながら頭の上に仰向けに倒れるのだった。
「フフフフッ・・。お二人は本当に仲が良いですね! 私、
「仲良いのかな・・・。でも、
ミリは笑みを浮かべながらウィルバルト達を見つめていたが、その質問に途端に表情が暗くなった。
あれ、俺何かまずいことでも言ったかな??
「実は、以前にも
「だから、ここまで事態が深刻になるまで村の人達も
ミリはウィルバルトのを見つめると、少し申し訳なさそうに笑みを浮かべながら答える。
それはたぶん
「でもウィルバルト様もヴェスタ様もお優しい方だったのですごく安心しました!」
「そうであろう! 私は
神殺しが何言ってんだか・・・。
ウィルバルトはミリの言葉に満面の笑顔で答えるヴェストニアにいつものように大きく息を吐くと、森の中をさらに進んでいった。
「・・・
「見てください、あそこが大洞窟です。」
しばらく進み森が開けると、ウィルバルトの前にムストルの沼地が現れ、そのすぐそばに大きく口をあける洞窟が目に入った。
ウィルバルトがさらに目を凝らすと、その中へと多くの
あそこが大洞窟か・・。確かにかなりの
10、いや20はいるか?? どっちにしろ大洞窟の入り口を見張る2体の
「ミリ、大洞窟の入り口はあそこだけかい?」
「はい。あの大洞窟は奥に巨大な空間が広がっているのですが、そこで行き止まり。入り口も今見えるあそこだけです。」
ウィルバルトはミリの言葉を聞き考え込むと、肩に移動していたヴェストニアに視線を向けた。
「ここは正面突破しかないか・・。」
「うむ。お前の考えている通りそれしか手がないだろうな。洞窟内を燃やせば簡単かもしれぬが、あの中には捕えられている人間がおるかもしれん。」
「それにいくら他よりも知能があるといっても所詮は
おぉ・・、なんか今日はこいつまともな事ばっかり言ってるな。
ハハハハハハ! ウィルバルトは笑い声を上げるヴェストニアに小さく笑みを浮かべると、隣にいるミリに視線を移した。
「それじゃあ俺達はあの大洞窟に向かうよ。君は危険だからここで身を隠していてくれ。夜になっても俺たちが戻ってこなかったときはすぐに村に戻るんだ。分かった?」
「・・・・・分かりました。」
「
ウィルバルトはミリに笑みを浮かべると、身を隠しながらさらに大洞窟へと近づいていった。
「あぁー、俺も中で飯を食いたいなぁー・・。」
「ああ、俺もだ。早く他の奴らに交代してもらいたいぜ・・。」
おぉぉ。
さっきは気分が悪すぎてちゃんと見てなかったもんな。
洞窟の近くまで到着したウィルバルトは、目の前の2体の
ウィルバルト自身は気づいてないが彼はもともと少し抜けたところがあり、屈強な兵士でさえ逃げ出すと言われる
「・・・ヴェストニア。ここまで来たのはいいけどこれからどうする?」
「どうするも何も、正面から堂々と入ればいいだろう。」
「・・・・それもそうか。」
ウィルバルトとヴェストニアはお互いの顔を見合うと同時に笑みを浮かべ、ゆっくりと大洞窟へと進み始めた。
当然2人の姿に気づいた見張りの
「何だお前は!! どっから来やがったんだ!!!」
「いや、それよりも人間の子供だ。少しデカいがまだまだ肉は柔らかいはずだぞ。」
ゲヘへへへ・・・。 2体の
うわぁ、気持ち悪っ!!
「ウィルバルト。さっさと片付けてしまえ。」
「そ、そうだな。えっと、確か
「・・・
ボシュッ!!!
ウィルバルトから放たれた
「・・・・・・なぁ、これ絶対洞窟の中の奴らにも気づかれたよな?」
「うむ。そうだろうな。」
「お前が
いやいやいや!! 俺が知ってる魔法の中じゃ最弱の火魔法なんですけど!?
お前の魔力のせいでこんな高威力魔法になってるんだろ??
シュゥゥゥゥゥゥゥ・・・・。
はぁ・・。 ウィルバルトは小さくため息を付くと、
「た、助け・・・」
ブシュゥゥゥ!! 大洞窟内では、捕えた人間や動物を
その中でも中央に座るひと際大きな個体が口を開く。
「・・・・ところでさっきの音は何だったんだ???」
「それなら見張りの奴らが暴れてるんじゃ・・、ギャァァァァ!!!」
ドンッ!! 隣で食事を続けながら答える
「お前らは本当にバカなのか!? さっきのは魔法の攻撃音だ!!」
「・・・・とっとと見に行かねぇか!!」
『へ、へい!!』
しかし、
「なんだお前らは!! 見張りの奴らは何をしてるんだ!!」
「ハハハハハ!! たくさんおるの!!!」
「全員まとめて私達が蹴散らしてくれるわ!! なぁ、ウィルバルト!!」
「・・・そ、そうですね。」
ウィルバルトはヴェストニアの興奮度合いに若干気持ち悪さを感じるも、狼狽える
こうしてウィルバルトの初任務である
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