第8話
「はぁ、はぁ、はぁ・・・!」
ムストルの沼地。そこには王国でも有数の湿地地帯であり、数多くの魔族が生息している。
また希少な植物も多く自生していることから、人間の入植も進んでおり入植者と魔族との遭遇が増加。そのことは王国内でも徐々に問題になりつつあった。
そしてウィルバルトがそのムストルの沼地に向かい旅立ったその日、一人の少女が湿地の中を息を切らしながら走っていた。
な、なんでこんなに村の近くに
少女は走り続けながらも後方に視線を向けると、自分へと向かってくる
「逃げるな小娘!! 諦めて捕まれ。そして俺の飯になるんだ!!」
「ふ、ふざけるな!! そんなこと言われて止まる奴がいるわけないだろ!」
「きゃあっ!!」
ガサッ!!! しかし後ろに気を取られた少女は足元に倒れていた木に足を取られ地面に倒れこむ。
すぐに体を起こした少女だったが、その背後にはすぐそこまで
「もう逃がさんぞ・・。 うへへへ、人間の子供を食べるのは久しぶりだ。」
・・・助けて!!
・・・ん??
恐怖のあまり身動きが取れない少女に
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ドンッ!! 大きな衝撃と共にそれは
「ふぅ、どうじゃウィルバルト! 一瞬で到着したであろう??」
「そ、そうだけど早すぎる・・・。うっ、吐きそう・・。」
人影・・? でも何で空から人が???
少女がウィルバルトとヴェストニアに気を取られていると、
「グォォォォ! 何しやがる!!」
「何じゃ、
「なんだこの見るからに弱そうな奴は・・! お前など知らぬわ!!」
「な、何を!! おいウィルバルト!! この緑のバカ魔族に私達の恐ろしさを教えてやるのだ!!」
・・・・・・・。しかし背中から頭の上に移動したヴェストニアの声に、ウィルバルトは口を押えたまま何も言わなければ、ピクリとも動かない。
「ガハハハハハ!! お前の仲間は俺に恐れを抱いて何も言えんようだぞ!!」
「いいだろう。小娘の前にお前達から食ってやるわ!!」
「お、おいウィルバルト! どうしたのじゃ!! このままでは食われてしまうぞ!!」
「・・・・くそ、こうなったら私の変身を解いて・・・」
「うっ! もうダメだ!!!」
「うえぇぇぇぇぇ!!!」
ビチャビチャ!!! ヴェストニアが変化を解こうと頭から立ち上がった瞬間、ウィルバルトの口から今朝食べたものが噴き出すと、それは
「・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドンッ!! ウィルバルトが全てを吐き出しすっきりとした表情を浮かべると、
そしてウィルバルトを地面に放り投げると、鼻を押さえながら湿地帯の奥へと一目散に逃げ帰っていった。
「痛ててててて・・・。何なんだよ一体・・。」
「
「クククッ・・、少し可愛そうにも思えてきたわ・・。」
「・・・ゲ〇って言うな、ゲ〇って。」
なんて失礼な
それにヴェストニア! 大体俺が吐いたのも、もとはと言えばお前のせいでもあるんだからな!!
ウィルバルトは笑みを浮かべるヴェストニアに少しイラつきを覚えたが、その感情を何とか落ち着かせルと汚れた個所を叩きながら立ち上がると、後ろで腰を抜かしている少女の姿に気が付く。
「君、大丈夫??」
「・・・えっ! あ、はい!!」
「この度は助けて頂きありがとうご・・・」
少女はウィルバルトが差し出した手を掴み立ち上がた瞬間、その胸に光る紋章を目にするとすぐさまウィルバルトに頭を下げる。
「
「お願いします!! どうか村を助けてください!! どうか!!!」
「え、えっ!?!?」
「す、すみません話が見えなくて・・・。最初から説明してもらえますか??」
「・・・・はい。」
少女はその言葉で頭を上げると、ゆっくりと説明を始めるのだった。
「・・・・・ということなんです。」
ウィルバルト達は前を歩く少女 ミリの村に向かいながら、何が起きているのか説明を受けていた。
ミリの暮らす村、ヒラ村は希少な植物が発見される前からムストルの沼地の近くに入植している人々が作り上げた村らしい。
しかし最近では新しく入植してくる人が多くなってきたため、その人達を狙って魔族も急増。その代表格が
村でも既に何人もの人が犠牲になっているらしい・・。
「・・・なるほど。そう言うことだったのか。」
ウィルバルトが答えると、ミリは笑みを浮かべながら振り返る。
「でも
「い、いやぁ~、そんな事ないよ?? 俺なんてまだ
「何じゃウィルバルト、鼻の下が伸びて気持ち悪いな。」
ハハハハハハッ。 ヴェストニアの言葉でウィルバルトが顔を赤らめながら口元を隠す姿にミリが笑みを浮かべると、ようやく目の前にヒラ村が見えてきた。
「あ、
「私は先に村長に伝えてきますので、ここで失礼します!!」
少女は頭を下げると、村に向かい走り始める。
その後ろ姿にウィルバルトは笑みを浮かべると、その後に続き村に向かい歩いていった。
「ほう、なかなか良い村ではないか。」
「そうだな。でもどこか村人の顔には元気がないように見える・・。」
村に到着したウィルバルトは村の中を歩く村人たちの暗い表情に事態の深刻さに改めて気づかされた。
そう言えば村の周りには柵が作られていたし、見回りっている男性も槍を手に持っている。
「あ、
ウィルバルトが村の中を進んでいくと、ミリが白髪の男性を隣に連れこちらに手を振っているのを確認できた。
「これはこれは
「いえいえ。私は7
「ウィルバルト様ですな。」
「しかしこんなに早く来てくれるとは思いませんでした。見ての通り我らの村は裕福という訳ではありません。
確か
逆に
「それで、
「ああ、それならここに。」
ヒョコッ。 ウィルバルトが頭の上を指差すと、ヴェストニアがそこから姿を見せる。
「私が最強の
ガハハハハ! ヴェストニアは頭の上から地面に飛び降りると、大きく笑い声を上げる。
しかしヴェストニアの姿を見た村長は、周りに集まっていた村人達とウィルバルト達から少し離れ、聞こえないように小さな声で話始めた。
「お、おい。あんなのが
「で、ですが、彼の紋章の色。あれは7
「つまりそれなりに実力はあるということです・・。」
「そうですよ。それに今更冒険者に依頼する金もないですし、ここは彼に任せるしか・・。」
「うーむ、致し方ないか・・・。」
・・・・とか言われてるんだろうな。
だってこいつのこの姿どう見ても
かといって本当の姿を見せて正体がバレても面倒くさいことになるし・・・。
はぁ・・。ウィルバルトがため息をつきヴェストニアの姿を見つめていると、話を終えたそんな村長達がウィルバルトの元に戻ってくる。
「いやー、そうでしたか・・! 流石は7
うわぁー、嘘くせー・・・。
「ではウィルバルト様。
「いや、それは流石に危険では・・・?」
ハハハハハハ!! ウィルバルトの言葉に村長が大きく笑い声を上げると、隣のミリが口を開いた。
「大丈夫です! 先ほどは
「な、なるほど・・。」
「うむ! ミリとやら、よろしく頼むぞ!!!」
ハハハハハハ!! ウィルバルトは目の前で笑い合うミリとヴェストニアの姿に、いつものように大きく息を吐き渋々村長の提案に賛同するのだった。
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