第7話

ウィルバルトが無事、竜騎士ドラゴンナイトとなってから数日後。


 その胸に7級 竜騎士ドラゴンナイトの資格である青く光る紋章をつけたウィルバルトの姿は竜騎士学園ナイトアカデミー内にある竜騎士ドラゴンナイト支部の入り口の前にあった。




 ついにここまで来たんだ、ついに・・!!


 目の前の入り口を目にし、ウィルバルトの口元はみるみる内に緩んでいく。




 「なあ、ウィルバルト。」




 「な、なんだヴェストニア??」


 ウィルバルトは頭の上にいるヴェストニアの言葉で我に返ると、急いで表情を元に戻していく。




 「竜騎士ドラゴンナイトになったのはいいが、竜騎士ドラゴンナイトとは一体何をするのだ??」




 「うーん、そうだな。竜騎士ドラゴンナイトは王国からの依頼を受け、国防や魔族退治に至るまで様々な任務にあたるんだ。」


 「そしてその任務には点数が付けられていて、難易度の高いものは当然高得点が付いている。その点数の総合点で昇級が決まるんだよ。」




 「なるほどな。つまりは冒険者の上位種のようなものだな。」




 うーん、なにか違う気もするけどそれでいいか・・。


 実際、腕を磨くため冒険者組合ギルドからの依頼を受ける竜騎士ドラゴンナイトもいるくらいだしな。




 ウィルバルトはいつもように頭の上で納得したかのように何度も頷くヴェストニアを横目に目の前の扉に手をかけると、ゆっくりとその扉を開き中へと進んでいった。








 ガヤガヤッ・・。


 ウィルバルトが支部の中に足を踏み入れると、目の前には多くの竜騎士ドラゴンナイト達が既に任務を受けるため集まっていた。




 うぉぉ・・、全員見たことがある人達ばかりだ・・・。


 それに俺と違って皆・・、なんかデカい!!!




 ウィルバルトは見上げる程巨大な体躯の竜騎士ドラゴンナイト達の間をなんとか潜り抜けながら支部の中を進んでいき、ようやく受付へとたどり着く。




 「す、すみません。」




 「はいはーい! 依頼の受付ですね・・・、って、あれ! ウィルバルトさん!!」




 「・・・アリアさん!? 何でここに?!?!」


 ウィルバルトは目の前の女性がアリアだと気が付くと、驚きのあまり声が裏返る。




 な、な、何でここにいるんだ・・?


 アリアさんは管理課の受付で働いているんじゃ・・・・。




 固まったまま動かないウィルバルトの姿に、その心内を見透かしたかのようにアリアが口に手をあて笑みを浮かべた。




 「そんなに驚きました?? 実は今日からここで働くことになったんです! ウィルバルトさんも今日からですよね??」


 「会えるんじゃないかなーって思っていたんですけど本当に会えるなんて驚きです!!」




 ・・・・・可愛い。




 えへへへへ・・。 顔を赤らめながら笑みを浮かべるアリアの姿にウィルバルトの興奮は頂点に達っしていく。


 しかし頭の上から様子をうかがっていたヴェストニアはアリアの姿に違和感を覚えていた。




 こいつ、何か胡散臭いな・・。


 ウィルバルトの奴はすっかり骨抜きにされているようだが、私は騙されんぞ!! 


 ここは私がウィルバルトに代わりこのエルフの本性を暴くしかない!!




 (いくぞ! 必殺、心眼マインドアイ!!)


 キィィィィン・・。 しばらくすると、ヴェストニアの瞳はみるみる内に赤く染まっていく。




 説明しよう! 心眼マインドアイとは私の固有特殊能力スキルの一つであり、対象となる相手の心内を覗くことが出来るなんとも便利な能力なのである!


 ただし、それは人間やエルフなど人種のみに使用可能であり、ドラゴンと契約をしている竜騎士ドラゴンナイトには使用できないので注意しよう!!




 などと独り言を心の中で呟いたヴェストニアは目の前のアリアに視線を移していった。




 ・・・・あぁ、本当にウィルバルトさんはいつ見ても可愛い。




 しばらくするとヴェストニアの頭の中にアリアの心の声が流れ込み始める。




 本当はウィルバルトさんが竜騎士ドラゴンナイトになったって知ってからすぐに転属願いを出したんだけどね。


 上にも圧力をかけた甲斐もあってこうしてウィルバルトさんの晴れに姿を見ることが出来た・・。


 ふふふふっ・・。




 「・・・・いや、とんでもない奴じゃな!!」




 「うぉ!! 急に大きな声を出すなよ。」




 「す、すまん・・。」


 ヴェストニアはあまりの表の顔との差につい声を上げてしまうが、何とか気を取り直すと再びアリアの心の中に集中する。




 何急に大声出してるのよこのクソトカゲ!!


 大体ウィルバルトさんの頭の上にいるなんて図々しいにも程があるのよ!!


 私だって手に触れた事しかないのに・・!!




 ニコッ・・。 アリアは満面の笑みをヴェストニアに向けているが、心の中を知るヴェストニアにとってはそれすらも恐怖の対象となり、その身体が小刻みに震え始める。




 「それで何か初めてでも出来そうな依頼ってありますか?」


 アリアの本心を知る由もないウィルバルトは頭の上で震えるヴェストニアを横目に依頼の用紙に目を通していく。




 「んー・・、そうですね。ウィルバルトさんは7級 竜騎士ドラゴンナイトですから受けられるのはこの辺りですね。」


 ガサッ。 アリアはウィルバルトが目を通す用紙の中から数枚の用紙を取り出し目の前に並べていった。




 「大鷲の卵の採取。商団の警備。王族の護送・・・。どれも難しそうですね・・。」




 「そうですね。初めての任務にしてはどれも難しいかもしれません。」


 「・・・あっ! これなんかはいかがですか!?」




 アリアは何かを思い出しように更に用紙の束に中から一枚の用紙を取り出し、ウィルバルトの前に並べた。




 魔巨人トロールの討伐・・。褒章は金貨2枚か・・。


 それに得点もそれなりに高い。これならいけるかもしれないな・・!




 「魔巨人トロールは魔族の中でも低位の魔族ですし、それでこれだけの褒賞が出ているのはかなりおすすめな依頼ですよ!」




 「そうですよね・・。よし、ならこれに決めます!!」




 「はーい! ではこれで契約成立ですね!!」


 ドンッ! アリアがウィルバルトの言葉を聞き魔法印を依頼書に押すと、依頼書から炎が上がりそこから生じた煙がウィルバルトの腕の中に入り込んでいく。




 ヴゥゥゥゥン。 全ての煙がウィルバルトの腕に入り込むと、その腕には青く光を放つ文字が浮かび上がっていた。




 「これで契約成立です! 依頼が完了したときはまたここに来て下さいね! その文字を私が読み取り依頼完了の確認後、報酬をお渡ししますので!」




 なるほど、つまりこれは虚偽の報告をしないためのものなのか・・・。


 意外と信用されてないんだな・・・。




 「分かりました! 色々とありがとうございます! 俺頑張ってきますね!!!」


 アリアの説明を聞き終えたウィルバルトが満面の笑みを浮かべ答えると、その可愛さにアリアの表情に一瞬歪みが生じる。


 しかしすぐさまいつもの表情に戻ったため、ウィルバルトに気づかれることはなかった。




 「おい、ヴェス・・タ! 早速、魔巨人トロールの討伐に向かうぞ・・・ってなんで震えてるんだお前?」




 「・・・い、いや気にするな。ほら、それなら早く参ろう!!」


 ヴェストニアはウィルバルトの言葉に何とか気を取り直すと、ウィルバルトの髪を引っ張り外に出るように促し始める。




 「い、痛てててて! おいやめろよ!!」


 「まったく何なんだ・・。 あっ、それじゃあ行ってきますねアリアさん!!」




 「はい!! 成功を祈っています!!」


 アリアは笑みを浮かべると、支部を後にしていくウィルバルトの背中に視線を向け続けていた。


 それに気づいたヴェストニアは恐る恐る振り返り再びアリアに視線を向ける。




 「・・・・ひっ!!!」




 ギロッ! ヴェストニアがそこで目にしたものはまるで獲物を見るドラゴン、いやそれ以上の異様な眼差しをウィルバルトに向けるアリアの姿であり、ヴェストニアは恐怖のあまりウィルバルトそのことを伝えることが出来なかった。






























 バタンッ・・。


 支部を後にしたウィルバルトは腕に刻まれた文字に視線を向ける。




 「確か目的地はムストルの沼地だったよな・・。ここから西に60kmか・・。」


 ヴゥゥゥゥン。 ウィルバルトが文字に触れると、そこから地図が浮かび上がり目的地が赤く染まっていた。




 「それよりヴェストニア。お前さっきからどうしたんだよ。腹でも痛いのか??」




 「い、いやなんでもない・・。ただこの世界にもまだまだ恐ろしいものがあるということが分かっただけだ・・。」


 ブルッ・・。 ヴェストニアはアリアの真の顔を思い出し一度身震いすると、ようやく落ち着きを取り戻していった。




 「それでこれから向かうのはそのムストルの沼地というところなのだな?」




 「ああ。これから出発したとして、到着は明日になるな・・。」




 「何を言っているウィルバルト?!」


 ヴェストニアはあまりに的外れなウィルバルトの言葉につい声を荒げると、更に言葉を続けていく。




 「お前はもう竜騎士ドラゴンナイトなのだぞ? そんなもの飛んでいけば一時間もかからないではないか!!」




 あっ、そうか・・。




 はぁ・・。ヴェストニアは自分の言葉でようやく気付いた表情を浮かべたウィルバルトの姿に大きく息を吐くと、頭の上から背中に移動していった。




 「それでは早速参るぞ!!」




 「えっ、またあれやるんですか?!」




 「当たり前じゃ。いい加減慣れるんじゃ!!」




 「いや、いい加減も何もまだ一回しか飛んだこと・・・、あぁぁぁぁぁ!!」




 バサッ!! ヴェストニアは大きく翼を広げ、ウィルバルトの意思も関係なく一気に空高く舞い上がると、とてつもない速さで目的地であるムストルの沼地へに向かい移動を開始していった。

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