第6話

 シュゥゥゥゥゥ・・・・。

 しばらくしてようやくウィルバルトから放たれた火弾ファイアーショットの炎が消えると、身を隠していた卒業生とリーンベルが物影から立ち上がった。


 おいおいおいおい!!

 なんだよこの威力・・。ヤバすぎだろ!!


 「フフフフッ!! どうだ見たか! 私の魔力を使えば低位魔法でもこのように高威力の魔法に早変わりするのだ!!」

 ガハハハハハ! 驚きで声が出ないウィルバルトの頭の上でヴェストニアが大きき笑い声を上げていた。


 「・・・おい! お前火弾ファイアーショットを使えと言っただろう!!」

 「これは炎弾プロミネンスショットではないか!!」


 「えっ!! いやちょっと待ってください!!」

 ウィルバルトは詰め寄るリーンベルの圧力に後方へと後ずさりしながら答える。


 「よく考えてください! 炎魔法プロミネンスショットなんて習ってないですし、先生だって俺の噂は知っているでしょう??」


 「・・・確か竜騎士学園ナイトアカデミー始まって以来の落ちこぼれ、だったな。それにお前の言った通り炎弾プロミネンスショットは教えていないが・・。」

 ウィルバルトの言葉で落ち着きを取り戻したリーンベルは口に手を当て考え込む。


 そりゃ、あれだけ高威力なら疑うよな・・。

 出した俺でさえまだよく分かんないもん。


 「・・分かった。確かにお前の言う通りだ。」

 「だがどうしても一つだけ聞きたいことがある・・。お前にな。」


 「ん? 私か???」

 リーンベルに指を差されたヴェストニアは突然のことに珍しく狼狽える。


 「あれが炎弾プロミネンスショットでないとしたら、考えられる原因は一つ。ドラゴンの影響だ。」

 「お前は一体何者なんだ?? まずお前のようなドラゴンが何故今まで誰にも知られていないのだ!」


 ま、まずい・・! これは下手をすれば先生にヴェストニアの正体がバレる・・。 


 しかし次の瞬間、ウィルバルトはヴェストニアの言葉に耳を疑った。 


 「私か?? 私の名はヴェストニアだが・・。」


 ・・・え?????

 こいつ今ヴェストニアって言った?? 言ったよね???

 

 ガシッ!! ウィルバルトは目にも止まらぬ速さで頭の上のヴェストニアを掴むと、リーンベルから離れヴェストニアの頬を両手でつかんだ。


 「なぁ? お前正体がバレたらまずいって言ったよね?? 君は馬鹿なのかな?? いや、馬鹿ですよね??」


 「む、むぎゅ・・。ウィ、ウィルバルト、悪かった。つい口が滑っただけなんじゃ。 頼むから手を離してぇぇ・・。」

 

 むぎゅ、むぎゅっ・・。ウィルバルトはヴェストニアの謝罪の言葉など関係ないように更に頬を何度も押していく。


 こいつ本当にないわ・・。

 まぁ、俺もちゃんと言ってなかったかもしれないけどさ・・!!

 はっ!!!


 トントンッ・・。 ウィルバルトは突然背後から肩を叩かれると、そのはずみでヴェストニアを地面に落としてしまい、ヴェストニアは顔面を強打し、痛みのあまり地面を転げまわっていく。


 「な、何でしょうかリーンベル先生・・・。」


 「そいつ今ヴェストニアと言わなかったか? いや確かにそう言ったな??」


 「それはあれです! その、あの・・」

 ハハハハハハ! ウィルバルトが竜騎士ドラゴンナイトになる道を閉ざされたと思い絶望した瞬間、リーンベルが大きく笑い声を上げる。


 「そうかそうか! つまりヴェストニアの子孫ということであろう??」 

 

 ・・・・へ??


 「ヴェストニアを使役できる訳がないからな。恐らく破壊竜の力を多少受け継いだドラゴンなのであろう。それであればこれだけの威力が出せたのも納得だ。」


 「そ、そうなんです! こいつあのヴェストニアの子供の子供の子供で・・・。そうだよな、ヴェス・・、タ!」


 「そ、そうじゃ!! うっかり名前を間違えてしまったんじゃ!! 私の名はヴェスタじゃ!!!」

 納得したように何度も頷くリーンベルに、ウィルバルトとヴェストニアは取り繕うように作り笑いを浮かべ何度も答えていく。


 よ、よかった。何とかなったー!!!!


 「・・・おいウィルバルト。こいつもしかしてアホなんじゃないか??」


 「ちょっ・・! 聞こえたらどうすんだよ!!!」


 「大丈夫じゃ。ほら前を見てみろ。」

 ヴェストニアの言葉でウィルバルトがリーンベルに視線を移すと、既に何かを書類に書き込んでいた。


 「・・・これで検査は全て終わりだ。これを持って最初に来た受付に行け。そこで問題がなければ竜騎士ナイトドラゴン協会に登録されるはずだ。」


 ガサッ。 リーンベルは笑みを浮かべると、書類をウィルバルトに手渡した。


 「全く、お前はよいドラゴンと契約できたな! これでもう誰もお前のことを落ちこぼれとは言わないだろう。あれを見てみろ。」

 リーンベルは親指を立て後ろを指差すと、そこにはウィルバルトの陰口を言っていた卒業生達が怯えたようにこちらを見ている姿があった。


 おぉぉぉぉ・・・。 何か化け物でも見たような目をしてるじゃないか・・。

 まぁ、分からないでもないが・・。


 「お前もこいつと契約してくれたこと、礼を言うぞ!」


 「うむ! 人間、お主良い奴だったのだな!! 私はてっきりムカつく奴だと思っていたぞ!!!」

 ガハハハハ!!! リーンベルはウィルバルトの頭の上に座るヴェストニアの言葉に大きく笑い声を上げた。


 「よく誤解されるのだが、私はただ才能の無い奴が嫌いなだけだ。だがお前の様な奴は好きだぞ!?」


 「うむうむ!! 私もお主が気に入ったぞ! 特別に部下にしてやろうではないか!!!」


 ガハハハハハハハ!! さらに大きくなった二人の笑い声は、しばらくの間今にも崩れそうな射撃場の中に響き渡っていた。













 「それでは卒業生の皆さんは集まってくださーい!!」

 日も傾きかけてきたころ、アリアが受付の前に現れると、卒業生達がその前へと集まってくる。


 「ふぅ・・。なんか緊張してきたな・・。」


 「そうか?? 私は何も思わんがな・・。」

 ヴェストニアは相変わらずウィルバルトの頭の上で鼻に指を入れながら答える。


 くそ、そりゃお前は興味ないかも知れないけど、俺にとっては幼少期からの夢なんだ!!

 緊張して当然だろ・・。


 手を合わせて祈るウィルバルトの周りにいる卒業生達はいつものように陰口を話し始めるが、その言葉はこれまでとは全く違う内容のものだった。


 「おい。聞いたか?? ウィルバルトのやつ、あのリーンベル先生が驚くくらいの結果だったらしいぞ。」


 「俺は飛行訓練で最高評価だったって聞いたけど・・。」


 「私、同じ組だったけど見たことも無いような魔法だったわ!」


 しかし陰口の内容が変わろうと、ウィルバルトはいつものように全く気にしていないという様子で手を合わせながら、結果発表を今か今かと待っていた。


 「卒業生の諸君!! 本日はご苦労であった!!! 私はこの竜騎士学園ナイトアカデミー学園長 オースティン・アリスターである!!!」

 ザワザワッ!! しばらく時間が経過した後現れた大男に、卒業生達からは驚きの声が上がっていく。


 「何じゃ? あいつ何かすごい奴なのか??」


 「ああ! あれは1級|竜騎士(ドラゴンナイト)、オースティン学園長だ・・。 1級竜騎士ドラゴンナイトは王国にも10人しかいない、まさに選ばれた竜騎士(ドラゴンナイト)だよ!!」


 「そ、そうなのか・・。」

 ウィルバルトのあまりの興奮ぶりにヴェストニアは若干の温度差を感じながらも目の前のオースティンに視線を移していく。


 「今回の卒業生21名の内、新たに竜騎士ドラゴンナイトとなったのは21名! つまり全員だ!!」

 おぉぉぉぉぉぉ!!! オースティンが両手を広げると、卒業生達の興奮は絶頂に達っしていった。

 それはオースティンの次の言葉でさらに爆発する。


 「しかし!! 本来なら10級からとなる竜騎士ドラゴンナイトだが、今回はそうでない者がいる!」

 「マルティオ・エステニーゼ! 前へ!!」


 おぉぉぉぉぉぉ!!! 名前を呼ばれたマルティオは卒業生達の声を浴びながら両手を上げ前に進んでいく。


 「彼は本当に素晴らしいことに、8級竜騎士ドラゴンナイトからの出発となる! これは100年ぶりの事だ!!」


 「お褒めにあずかり光栄です学園長。」

 パチパチッ!! マルティオが頭を下げると、卒業生達かあらは割れんばかりの拍手が送られた。


 「・・しかし!! 今回は更に上、7級竜騎士ドラゴンナイトの任命された者がいる!!」


 「・・・なにっ!!」

 オースティンの言葉に、隣にいるマルティオからは驚きのあまり声が漏れる。


 「・・・・ウィルバルト・アストリア! 前へ!!」


 「は、はい!!」


  ザワザワッ・・。ウィルバルトが呼ばれると、先ほどとは打って変わり卒業生達からは騒めきが巻き起こった。


 「な、なんでこいつが俺よりも上なんですか!! 納得いきません!!!」


 「何を言うか。彼は全ての検査項目で学園の最高記録を全て塗り替えた。本当は6級からでもよかったのだが規定上7級という形になったのだ。」


 「そ、そんな・・・。」

 マルティオはオースティンの言葉に納得がいかないのか前に進んでくるウィルバルトを睨みつけるが、ウィルバルトは気にせずオースティンの前に進み出た。


 「君の様な生徒がいるとは知らなかった。これからさらに上に進むことを願っているぞ!」


 「あ、ありがとうございます!!!」

 

 オースティンがウィルバルトの肩に手を置いた後拍手を送ると、卒業生達からも拍手が起き始め、ついにはマルティオ以外のすべての人達が拍手を送っていった。

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