第5話

 「次は何をするんじゃ??」

 ヴェストニアは、ウィルバルトの頭の上に寝ころびながら尋ねる。


 なんでこいつ頭から落ちないの??

 背中に吸盤でも付いてんじゃないか???


 ウィルバルトはそういった疑問を持ちながらも、その言葉を飲み込みヴェストニアに答えた。


 「次は魔力検査だな。」


 「そんなものはこれまでもやっているのではないのか??」

 チッ、チッ!! ウィルバルトヴェストニアに人差し指を左右に振りながら更に答える。


 「確かに竜騎士学園ナイトアカデミーでもこれまでに魔力検査はあったぞ? でもドラゴンと契約した場合は血を交換するだろ? その過程で魔力が変質するんだよ。」


 「ふむ・・、それは初耳だな。ドラゴンの魔力を使えるようになるだけではなかったのか。」

 

 「だから竜騎士ドラゴンナイトになる前にもう一度魔力を調べてどんな変化が起きているか調べるんだよ。」


 初めてこいつに勝った気がする・・!!!


 フムフム・・。ウィルバルトは自身の説明に頭の上で頷くヴェストニアの姿に初めて優越感を覚えるがそれを悟られないよう平静を装った。


 「・・・どうしたのだウィルバルト??」


 「い、いや、何でもない・・。ほらそれよりも闘技場が見えて来たぞ。」


 「おぉぉ! また中々良いところではないか!! 800年前に闘技場で魔物達が戦っていたところに乱入したことを思い出すのぉ!!」


 こいつ一体どんなことしてきてるんだ??

 あんまり深く聞くのはやめておいた方がいいな・・。


 「はぁ・・。じゃあ行くとしようか・・。」


 「うむ!! 楽しみだな!!!」


 ウィルバルトは大きく息を吸うと、ゆっくりと闘技場の中へと進んでいった。













 闘技場に到着したウィルバルトが中に入ると、既に何人もの卒業生が魔法検査を受けており、受付にも多くの人が並んでいる。


 「それじゃぁ次はここから君まで・・、おっ! ウィルバルトじゃないか!!」


 「先生! ここの担当だったんですね!」

 卒業生の列を何組かに分ける作業を行っていたアーセムがウィルバルトに気づき声をかける。


 「そうなんだよ。お前もここにいるってことは無事飛行試験は通ったようだな! どれ見せてみろ。」

 「お前も元気みたいだな!」


 「うむ! お主もな人間!!」

 ハハハハハ! アーセムはウィルバルトの頭の上にいるヴェストニアの答えに笑い声を上げると、ウィルバルトから受け取った書類に目を通すが、その内容にみるみる顔色が変化していった。


 「・・・えっ。飛行試験 結果SSSってなんだこれ??」

 「お前、そのドラゴン空飛べたのか???」


 「・・えっと、はい。俺もびっくりしたんですけどね。」


 「そ、そうか・・。ハ、ハハハ! これなら問題なく検査はパス出来るだろうな!! よ、よかったじゃないか!!」

 アーセムは何とか平静を装いウィルバルトに答えると、書類に魔法印を押し列へと誘導した。


 何の項目であれSSSの評価なんて聞いたことないぞ・・。

 飛行試験の教官は・・・、ルディアス教官か。

 ということはあの評価は恐らく正確だ・・。


 アーセムは振り返り、後ろのウィルバルトの頭の上にいるヴェストニアに視線を向ける。


 やはりあのドラゴン、俺が深層で垣間見たあの圧倒的な何かは気のせいじゃなかったってことか・・。

 一体あいつは何者なんだ・・・?


 アーセムはヴェストニアの正体に疑問を持ちつつも、自分の仕事に戻っていった。





 「それでは検査を開始する! 次の組は前へ!!」

 しばらくしてウィルバルトの組がようやく呼ばれ、数人の卒業生と共に前に進んだ。 


 「では最初に、お前達の魔力がどのように変質しているかを調べさせてもらう!」

 「まずはお前からだ!」


 「は、はい!!」

 担当の教官に呼ばれた女性は緊張した面持ちで前に進む。


 あれが鬼教官で有名なリーンベル・アスラ教官か・・・。

 なんだよあの体の大きさ、それに傷の数!! 何であんなに傷だらけで死なないんだ??


 ウィルバルトはリーンベルのその堂々たる体躯に息をのんだ。


 「では、ここに手を入れ魔力を込めるんだ。」


 「は、はい!!」

 女生徒はリーンベルの目の前に置かれている器に入れられている水に手を入れ魔力を込めると、器が赤く光を放ち始めた。


 「ふむ・・。お前は火属性のようだな・・。よし、もういいぞ! 次!!」


 「はい!!!」

 リーンベルは書類に属性を書き込み女生徒に手渡すと、後ろの生徒を自分の元に呼んだ。


 「お前は水属性か・・。よし、次!!」

 次の者が手を入れた水が青く光を放ったのを確認すると、リーンベルは更に次の生徒を呼んでいった。


 はぁ・・。緊張してきた・・・。

 俺の属性は一体何なんだろう・・。 


 「これで最後だな。 次の者、前へ!!」


 「は、はい!!!」

 ウィルバルトは緊張した面持ちでゆっくりとリーンベルの元まで進んでいく。


 「ではここに手を入れろ。」


 「はい・・。」

 チャポンッ・・、ヴゥゥゥゥゥン。 

 ウィルバルトが手を入れ魔力を流し込むと、水は黒く染まり、その中に白い渦が生まれていく。

 

 「こ、これは何だ・・・! まさか黒雷属性・・?!」

 「お前、どうしてこの属性を持っているんだ!!」

 リーンベルは手に持っていたペンを地面に落とすと、ウィルバルトの肩を掴んだ。

 

 「えっ!! いや知らないです!!! いや、もしかしたらこいつのせいかも・・。」

 ウィルバルトが頭の上でいびきをかくヴェストニアを指差すと、ヴェストニアはリーンベルの視線に気づき目を覚ます。


 「・・はぁぁぁ。ん?? 何じゃ人間。私に何か用か???」


 「お前は、ドラゴンなのか・・・???」


 「見ればわかるだろう。見よ、この背に生えた翼! この牙! そしてこの尻尾を!!」

 ヴェストニアが小さな尻尾を左右に振りながら答えると、リーンベルは呆気にとられたように口を開けたままその姿を見つめていた。


 「・・・す、すまない。お前のようなドラゴンは初めて見たのでな、少々驚いてしまった。」

 「しかし、お前は何か特別な能力スキルを持っているのかも知れんな。まぁそう言うことなら何も問題はないだろう。次に進んで構わんぞ。」

 リーンベルは気を取り直しペンを拾うと、書類に属性を書き込みウィルバルトに手渡す。


 「あ、ありがとうございます。」


 「よし、これでこの組は全員検査が終わったな!」

 「では最後にこれから魔力の実技検査を受けてもらう。皆私に付いてくるのだ!」


 リーンベルははそう言うと闘技場の奥へと進み、ウィルバルトを始めとする卒業生達も後に続いていった。












 「では一人ずつ、あそこにある的に向かい初級魔法 火弾ファイアーショットを撃ってもらう。」

 「上手く変化した属性を合わせれば、更に強力な魔法へと変貌するからな、それを見せてもらうぞ!」

 闘技場の奥、射撃場へ到着したウィルバルト達はリーンベルの言われるまま、各々が割り当てられた的の前に移動していく。


 「ではまずはお前からだ!!」


 「は、はい!」

 「・・・火弾ファイアーショット!!」

 ボシュッ!! 女生徒の右手から放たれた火弾ファイアーショットは彼女の火属性も加わり、更に巨大な火の玉になり的に衝突、爆発を起こした。


 「や、やった!!」


 「よし! お前は魔力操作が得意なようだな!! では次の者!!」


 「は、はい!!」

 リーンベルは喜ぶ女生徒に書類を手渡すと、次の生徒の元に向かう。


 「ふぅ・・。火弾ファイアーショット!!」

 ボシュッ!! その卒業生が放った火弾ファイアーショットの周りに、彼の属性である水が出現するが、魔力操作を誤り火弾ファイアーショットそのものを飲み込んでしまった。


 「・・・お前はもう少し自分の属性の扱い方を覚えた方が良さようだな。」


 「・・・はい。」

 リーンベルは何かを書き込んだ書類をその生徒に手渡すと、更に次の生徒の元に進み卒業生達の魔法を確認していくと、ついにウィルバルトの順番が回ってきた。


 「お前で最後だな。用意はいいな??」


 「は、はい!」

 大きく息を吸い右手を上げるウィルバルトに他の卒業生から小さな笑い声が上がる。


 「あれって確か、落ちこぼれのウィルバルトよね??」


 「・・ああ。なんであんな奴がここにいるんだよ。」


 「俺あいつと一緒の授業だったことあるけど、まともに火弾ファイアーショットも打てなかったやつだぜ?」

 クスクス・・。 ウィルバルトは後ろから聞こえてくる言葉など気にしないように目の前に集中した。


 ふぅ・・・。大丈夫だ。俺なら出来る。

 練習では火弾ファイアーショットだって発動したことがあるんだ!

 今回だってきっと・・!


 「・・・火弾ファイアーショット!!」

 バリバリバリッ!!! 


 ・・・・・え???

 

 ドォォォォン!!! ウィルバルトから放たれた火弾ファイアーショットは想像を遥かに上回る炎の塊であり、そこに黒い稲妻が渦巻くように合流し的に命中。周囲のの的をも巻き込む大爆発を引き起こしたのだった。


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