第4話

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「それでは次の方どうぞ!」

 受付の女性の言葉でウィルバルトは受付まで進み記載した紙を提出した。

 

 「あら、ウィルバルトさん! 無事、ドラゴンとの契約が出来たんですね!!」

 「私、心配してたんですよ??」

 

 「あ、ありがとうございますアリアさん。何とか無事に帰ってこれました!」

 ウィルバルトはアリアの言葉に笑みを浮かべながら答えた。


 「・・・それで契約したドラゴンはどこです??」


 「えっ?? それならここにいますけど・・・。」

 

 「へっ・・・!」

 ウィルバルトが頭の上にいるヴェストニアを指差すと、その姿を確認したアリアは開いた口が閉まらない。


 「何じゃ、間抜けな顔じゃな! そんなに私の姿に見とれておるのか??」


 「・・・あっ、すみません! えっと、これどうしたらいいのかな・・。」

 「ウィルバルトさん、これはドラゴン・・、でいいんですよね??」

 ヴェストニアの言葉でアリアは気を取り直すと、困ったようにウィルバルトに尋ねた。


 アリアさん、分かりますよその気持ち・・。

 こいつ、どう見てもドラゴンに見えないですもんね・・。


 「・・はい、その通りです。」


 「なんじゃ、お主私がドラゴンに見えないのか!? それならいいだろう、証拠をみせてやる!!」

 ウィルバルトがアリアに申し訳なさそうに答えると、ヴェストニアの口が開きその内部が光始める。


 お、おい! まさかお前炎を吐くつもりじゃないだろうな・・。

 こんなとこで炎なんか吐いたらただじゃすまないぞ・・!!


 「お、おい待てヴェスト・・」


 ボウッ!! ウィルバルトが止めようと口を開いた瞬間、ヴェストニアの口から高温の炎が放たれた・・・、が拳大のその炎はゆらゆらと空中を漂った後、アリアの目の前で消えていった。


 「ゲフッ・・。どうじゃ私の竜炎ドラゴンブレスは。」


 「・・・・す、すごーい! さ、流石はドラゴン、見事な炎でした!!」 


 「そうであろう、そうであろう!!!」

 ガハハハハハ!! ヴェストニアが大きく笑い声を上げると、アリアは急いで書類に記入し、魔法印を押した。


 おいヴェストニア・・、お前気を使われてるんだぞ??

 まぁ、機嫌もいいみたいだし、今は黙っておくとしよう・・。


 「それじゃあウィルバルトさん、こちらを持って次の飛行場へと向かってくれますか??」


 「分かりました! 何か色々とすみませんでした・・。」


 「いえいえ! どうか頑張ってくださいね!! 次の方どうぞ!!」

 アリアは笑みを浮かべウィルバルトに答えると、ウィルバルトの後ろに並ぶ卒業生を受付に呼んでいった。


 「・・えっと、次は飛行場で飛行診断か。」

 受付を離れたウィルバルトは飛行場に向かい、南棟の廊下を進んでいく。


 「何じゃそれは??」


 「きちんとドラゴンと心を通わせないとドラゴンの背に乗ることは出来ない。竜騎士ドラゴンナイトには必須の能力スキルだからな、その判断をするんだろうな。」

 ウィルバルトは書類を見つめながら頭の上のヴェストニアに答える。


 「なるほどな・・。それよりもウィルバルト! 先ほどのエルフとはどういう関係なんじゃ??」


 ズルッ!! ヴェストニアの突然の言葉に、ウィルバルトは目の前の段差から右足を滑らせた。


 「な、何でもないよ! ただ、よく相談に乗ってもらってただけだ。エルフは魔法に長けているからな。」


 「ほーう・・。てっきり私は好き合っておるのかと思ったがな。あのエルフのお前を見る目、他の者を見るときとは明らかに違っておった。」


 バタンッ! ヴェストニアの言葉に、ウィルバルトは更に足を滑らせ柵に腹部を強打する。


 「痛ててて・・。おいヴェストニア! それは本当か?!?!」


 「私の目に間違いはない・・、はずだがお前が気づいていないとすれば私の勘違いかも知れんな。」

 ガハハハハハ!! ヴェストニアはウィルバルトの頭の上で胡坐をくみ大きく笑いながら答える。


 なんだよそれ・・。つい喜んでしまったじゃないか・・!

 でもそうだよな、アリアさんは可愛いし、おっぱいもでか・・、いやこれはいいか。

 まぁ、竜騎士学園ナイトアカデミー一の人気者、俺なんかに好意を抱くわけないよな・・。


 はぁ・・。大きくため息をつくウィルバルトにヴェストニアは笑みを浮かべると、更に大きく笑い声を上げた。


 「そんなに笑うなよな・・・。ほら飛行場が見えて来たぞ。」


 「ハハハハハ・・・・・、お、そうか! どれどれ・・・、むむ、あの既にドラゴン共が多くいる場所だな?!」


 「ああ。ほら俺達も急ぐぞ!」

 ウィルバルトはヴェストニアが立ち上がった瞬間に勢いよく走り出すと、その反動でヴェストニアは頭の上から転げ落ちる。


 「ぐふっ!! ま、待つのだウィルバルト! 私を置いていくな!!」


 「さっき俺を笑った仕返しだ! そこからは自分で付いてくるんだな!!」


 「ウィルバルトー!」

 

 ウィルバルトは声を上げるヴェストニアに振り返り笑いながら答えると更に先へと走り出し、ヴェストニアは小さな足でその後を懸命に追いかけていった。












 「はい次の者!!」

 飛行場では竜騎士学園ナイトアカデミーの教師、3級 竜騎士ドラゴンナイトのルディアス・ミルリアが卒業生達の前に立ち、その飛行状況を書類に書き込んでいた。


 「・・・それだけ飛べれば問題ないだろう。合格だ!」


 「あ、ありがとうございます!! やったわね、赤尾竜レッドテイルドラゴン《!!」

 ガァァァァァ!! 卒業生の言葉で、彼女が乗っている赤尾竜レッドテイルドラゴンが声を上げた。


 今年の卒業生達は中々優秀な者が多いな。

 ここまで飛行できなかった者が一人もいない・・。

 それどころか少し前に来たマルティオは既に10級 竜騎士ドラゴンナイトの域を超えていた。

 流石は竜騎士学園ナイトアカデミー始まって以来の天才だ。


 「では次の者、前へ!!」

 ルディアスは目の前に並ぶ卒業生に向かい声を上げると、手に持つ書類に目を向ける。


 さて、次の者は・・・・。


 「ウィルバルト・アストリアです! お願いします!!」


 ・・・・こいつか! 確か座学以外はいつも最下位だったマルティオとは逆の竜騎士学園ナイトアカデミー始まって以来の落ちこぼれ・・。

 血の契約を結んだという話は聞いていたが、本当だったとは・・。


 ゴホッ・・。ルディアスは気を取り直し咳ばらいをすると、目の前のウィルバルトに視線を向けた。


 「ではウィルバルト! 早速、お前の契約したドラゴンを呼ぶのだ。」


 「わ、分かりました! おい、ヴェスト・・、あれ? あいつどこ行った???」


 「ウィ、ウィルバルト・・。待ってくれ・・・・。」

 ドサッ・・。しばらくすると、ウィルバルトの元にヴェストニアが息を切らしながら現れその足元へと倒れ込んだ。


 「・・・・それがお前の契約したドラゴンなのか??」


 「そ、そうですが・・・。」

 二人の話を聞いていたヴェストニアは何とか息を整えると立ち上がりルディアスに詰め寄る。


 「はぁ、はぁ・・。何じゃ人間! この私がドラゴンに見えぬと申すのか!?」


 ・・・ハハハハハハハ!!!

 ヴェストニアの言葉を聞いた卒業生達は、大きく笑い声を上げる。


 「まじかよ、あれがドラゴン?! ありえないだろ!!!」


 「あんなドラゴン見たことないわ!! スライムの方が少しはマシなんじゃない??」


 笑い声を上げる卒業生をよそに、ルディアスはため息をつきながらウィルバルトに尋ねる。


 「・・・いいだろう。だがここは飛行診断の場だぞ? そいつはお前を乗せて空を飛べるのか? どう見ても無理そうだが・・。」


 「何を!? こんな小僧位簡単だ!! おいウィルバルト、早く私の背に乗れ!!」

 ヴェストニアはルディアスの言葉に顔を紅潮さながら声を上げた。


 「・・・・いいのか? 流石にそれは無理なんじゃ・・」


 「いいから乗れい!!」


 本当に大丈夫なのか・・・?

 ウィルバルトはヴェストニアの言葉に不安を感じながらもその背に跨った。


 「むぎゅう・・・。」

 

 ・・・・やっぱり無理じゃないか!!!

 ハハハハハハ!! ウィルバルトが跨り、身動きが取れず足をバタバタさせる姿に、周りの卒業生達は更に笑い声を上げた。


 「はぁ・・・。もういいぞ。」

 「次の者!!」


 ルディアスは頭を押さえ呆れながら書類に何かを書き込もうとした。


 「ま、待て! 飛行と言うのはどういう形であれ空を飛べばいいのか??」

 ウィルバルトの下から抜け出したヴェストニアがルディアスに尋ねる。


 「・・・ああ、それならいいだろう。」


 「よし! それなら手はある。ウィルバルト、行くぞ!!」

 ガシッ! ヴェストニアは急ぎウィルバルトの元に駆け寄りその背にしがみつくと、背中の小さな翼を元の大きさまで巨大化させた。


 「・・・えっ?!?!」


 「行くぞ、ウィルバルト!!!」


 「いや、ちょっと待って・・、あぁぁぁぁ!!!!」

 ブォォォォ!! ウィルバルトの言葉を待たずにヴェストニアは一気に空へと舞い上がる。


 ひぃぃぃぃぃ!!!

 ・・・・あれ?? これ、慣れれば案外悪くないな・・。

 いや、てかこれどうなってるんだ???


 「おい、ヴェストニア! 空を飛べるんなら最初から教えろよな!」


 「ハハハハハ! すまんな! こうして一部だけ巨大化させるだけなら何とかこの姿を保っていられるのだ。まぁ、確証はなかったが、上手くいってよかったわ!!」

 

 いや、よかったじゃねーよ!!

 一言位言ってから飛ぶもんだろ?? 死ぬかと思ったわ!!

 

ウィルバルトの背中にしがみつくヴェストニアはしばらく空を舞った後、ルディアスがいる飛行場へと戻っていった。


 シュゥゥゥゥ・・。地上に到着すると、ヴェストニアは翼を戻し、再びウィルバルトの頭の上に上る。

 並みのドラゴンでは出せないほどの高速で空を飛行したウィルバルト達に、先ほどまで笑い声を上げていた卒業生達は開いた口が塞がらない。

 それはウィルバルトの目の前にいるルディアスも同様だった。


 「どうでした、先生?!」


 「・・・・あぁ。これなら、も、申し分ない。いや、それ以上だ・・・。」

 ガザッ・・。気を取り直したルディアスは手元の書類に何かを記載するとそれをウィルバルトに手渡した。


 「次は魔法診断だ。闘技場へと向かうがいい。」


 「はい! では失礼します!!!」


 ルディアスと卒業生達は、笑みを浮かべながら軽い足取りでその場から去るウィルバルトの後姿から、しばらくの間目を離すことが出来なかった。

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