第3話

「・・・・ん、朝か。」

 自分の家のベッドから起き上がったウィルバルトは、朝日に照らされ目を覚ますがしばらくしてあることを思い出す。


 「・・・あれ!? ヴェストニアは??? おい、ヴェストニア! どこ行ったんだ!!」

 ウィルバルトは部屋中をくまなく探すがヴェストニアはどこにも見つけることができない。


 もしかして全部夢だったのか???

 ・・・そうだよな。神殺しと言われるヴェストニアが俺なんかと血の契約を結ぶわけないもんな。


 「そうか夢か・・・。なんだ、心配して損した・・。」

 「朝飯でも食べるとするか・・。」


 ウィルバルトは笑みを浮かべると服を着替え部屋を後にすると、既に家族がいるであろう広間へと向かう。


 ん・・? なにやら騒がしいな・・・。

 広間が近づくにつれ、聞こえてくる声は更に大きくなっていく


 「朝から一体何を・・・、なっ!!!」


 「あらウィルバルト、今朝は早いのね。」


 「・・・ウィルバルト! お前が遅いのでな、先に頂いておるぞ??」

 そこでウィルバルトが目にしたものは、自身の母親、父親、祖父と共に食卓を囲むヴェストニアの姿だった。


 ・・・やっぱり夢じゃなかったー!!!

 

 ガクッ・・。 一気に現実へと引き戻されたウィルバルトは昨日の出来事を思い出し、肩を落とす。


 そうだよな・・、あんなことが夢なわけないよな。

 だって俺死ぬかと思ったもん・・。

 

 「さあ、何をしておる! さっさとお前も朝飯とやらを食べぬか!!」

 ヴェストニアはうなだれるウィルバルトに食卓につくよう促し、ウィルバルトも渋々それに従った。


 「いやしかしウィルバルトがブリドア山脈に行くと言った時はもう生きて会うことは無いと思っていたが、無事こうしてドラゴンとの契約に成功するとはな・・。」


 「本当ね! しかもこんな可愛いドラゴンなんて!!」

 母親は父親の言葉に同意すると、パンをかじるヴェストニアを勢いよく抱き上げた。


 おぉぉぉぉ・・! なんかモニュモニュされとる!!

 母さん、そいつ破壊竜だよ? 神殺しだよ???

 分かってるのか??


 「ハハハハハハ! 苦しゅうないぞ!! しかし母君の料理とやらは本当に美味だな! 生まれてこの方このように美味いものを始めて口にしたわ!!」

 ガハハハハハ!! ウィルバルトの心配をよそに、ヴェストニアは大きく笑いながら母親の腕の中でパンをかじり続けていた。


 「まぁまぁお上手ね!! それじゃあこれも食べてね! あ、これも! これも!!」


 「おぉ!! こんなにいいのか?? ではお言葉に甘えて・・。」

 ガブッ!! 気をよくした母親がテーブルの上に次々と並べた料理にヴェストニアが目を輝かせ、大きく口を開けると、部屋中に突風が吹き荒れ一瞬で皿の上に置かれていた全ての料理が消えてしまった。


 「ふぅ・・、満足じゃ。ゲプッ。」


 「ハハハハハ! 私の朝ごはんまで取られてしまったわ!! なんという食べっぷりだ!!」


 「そうねあなた。これはこれから料理の作り甲斐があるわね。」

 母親と父親は、お腹を大きくし机の上に横たわるヴェストニアを見ると大きく笑い声を上げる。


 はぁ・・、なんでこの人たちはこうも簡単に受け入れてるんだ。

 相変わらずそう言う所がゆるいんだよなぁ・・。


 はぁ・・。ウィルバルトは一度ため息をつきかろうじて残っていたパンを一つ咥えると、ヴェストニアを持ち上げ自分の頭の上に置いた。


 「何じゃ?? どこかに行くのか??」


 「ああ、管理課に行かないけないからな。結局昨日は受付終わってたし・・。」


 「そうかそうか!! そう言うことであればすぐに参ろう! お前の学び舎も見学したいからな!!」

 ヴェストニアはウィルバルトの言葉に笑みを浮かべながら答える。


 「それじゃあ行ってくるよ、母さん、父さん。」


 「気を付けてね! でもこれでとうとうウィルバルトも竜騎士ドラゴンナイトになるのね・・。」


 「そうだな・・。い、いかん感動で涙が・・。」

  

 全く勘弁してくれ・・・・。


 ウィルバルトは騒ぐ両親の姿に再び大きく息を吐くと、竜騎士学園ナイトアカデミーに向かい家を後にしていった。













 ウィルバルトが竜騎士学園ナイトアカデミーに到着し敷地内を歩いていると、その姿を見た他の生徒から次々と声が上がっていく。


 「おい、見ろよあれ! 落ちこぼれのウィルバルトだぞ。 ブリドア山脈から生きて帰ってきたって噂は本当だったんだな。」 


 「大方、ドラゴンから逃げ回ってたんだろうよ。全くあんな奴が同じ竜騎士ナイトアカデミーの一員だと思うと腹が立つぜ。」


 「いや、なんでもドラゴンとの契約に成功しったって噂よ? ほら頭の上に乗ってるあれ・・。」


 「あれがドラゴンだって?! プッ! 落ちこぼれにはお似合いの竜(ドラゴン)じゃないか。」


 ある者は聞こえないように、ある者はあえて聞こえるように大声でウィルバルトを蔑むが、慣れているのかウィルバルトは全く気にしていない様子だった。


 「・・なんじゃあいつらは。 ウィルバルトよ、お主はあれでよいのか??」


 「もう慣れてるからな。それに落ちこぼれってのは間違ってないし・・。」

 「ほら、それよりも管理課のある南棟のそろそろ到着するぞ。」


 「・・・うむ。」


 ヴェストニアはウィルバルトの言葉に少しの不満を抱きつつも、それ以上は何も言わなかった。





 南棟 管理課。

 ここには竜騎士ドラゴンナイト連盟に、契約したドラゴンを登録し竜騎士ドラゴンナイトとして認可を受けうるため、ウィルバルトと共にブリドア山脈に向かった卒業生の生き残り達が早くから集まっていた。


 「あー、やっぱりもう結構来てるな。」


 「ほう・・、ドラゴン共も来ておるのか・・。」


 「そりゃそうだろ。きちんと契約できたことを証明しないといけないんだから。」

 ウィルバルトはヴェストニアに答えると、空を舞うドラゴンへと視線を移す。


 やっぱりアーセム先生と同じ黒尾竜ブラックテイルドラゴンが一番多いな。

 その次は赤尾竜レッドテイルドラゴンってところか・・。


 ドンッ! ドラゴン達を眺めていたウィルバルトは突如背後からの衝撃に襲われ前方に倒れ込む。


 ・・・痛ぇぇぇ。何するんだ・・・、うわ、最悪だ・・。


 ウィルバルトが立ち上がり背後に振り返ると、そこには大柄な男が数人を引き連れ立っていた。


 「よぉウィルバルト。お前よく生きて帰ってこれたな。てっきりドラゴンに食われたのかと思ってたぜ!」

 ハハハハハ! 男の言葉に取り巻きの男達も大きく笑い声を上げる。


 「何じゃこいつらは。」

 「おい、お前!! 背後から蹴り飛ばすとは卑怯であろう!!」


 ドンッ!! 男を見てから動かなくなったウィルバルトを見かねてヴェストニアが頭の上から降り立ち突進するが、前蹴りを喰らい後方へ吹き飛ばされる。


 「むぎゅぅ・・。」


 「なんだこいつ。おいウィルバルト! まさかお前が契約したドラゴンってのはそいつじゃないだろうな!?」


 「おい、大丈夫か?! そ、そうだよ、悪いか?!」

 ハハハハハ!! ウィルバルトの言葉にこらえきれず男達から再び笑い声が上がった。


 「落ちこぼれとは思っていたが最底辺のドラゴン土竜ランドドラゴンとすら契約できないなんてな!!」


 ・・・くそ、俺は順番が最後だったんだ。

 そんな低レベルなドラゴンなんて俺も順番まで残ってるわけないだろ・・。


 ウィルバルトは地面に倒れるヴェストニアの元に駆け寄り拾い上げるが、その手は力が入り小刻みに震えている。


 「まぁせいぜい申請時の魔力検査で落ちないように気を付けるんだな!!」

 ハハハハハハ! 男達は大きく笑い声を上げながらウィルバルトの元から去っていった。


 「・・・・むむ! ここはどこ? 私は誰だ??」


 「何古典的なボケをしているんだ。」

 ムクッ・・。 ヴェストニアはその言葉に笑いながら目を覚ますと、いつものようにウィルバルトの頭の上に移動する。


 「しかしあの人間、今度会ったら容赦せん! 私が真の姿でなかったことを幸運に思うんだな!!」

 「・・・・それであいつは何者なのだ?」


 ふぅ・・・。その言葉にウィルバルトは小さく息を吐くとゆっくりと答え始める。


 「あいつはマルティオ・エステニーゼ。今回の卒業者の中では断トツの点数でトップだった。」

 「ほらあいつの上に飛んでるドラゴン、見てみろよ。」


 「あれは・・・・、火竜フレイムドラゴンか??」

 ヴェストニアはウィルバルトの言葉でマルティオの上を飛ぶドラゴンを見つめながら答えた。


 「そうだ。初めての契約で火竜フレイムドラゴンと契約できたのは100年ぶりらしい。多分あいつは竜騎士になっても10級からでなく8級辺りからになるんじゃないかな。」


 「・・・まぁ確かに人間からすれば火竜フレイムドラゴンは高位のドラゴンじゃからな・・。」

 うんうん・・。ヴェストニアは自分を蹴り飛ばした男を理解したのか何度も頷いた。

 

 それにあいつにはこの3年間いじめ続けられた・・・。

 全くいやな思い出だ・・。


 ウィルバルトはマルティオに行われてきた苛めの数々を思い出し拳に力が入る。



 「もう間もなく申請を受け付けます!! 申請書をまだ書いていない人は急ぎ受付まで取りに来てください!!」

 しばらくして管理課の受付をするエルフの女性が現れ声を上げると、集まっていた卒業生達は一斉に移動を開始する。


 「おっと、もうそんな時間か。それじゃあ俺達も行くとするか。」


 「そうじゃな! とうとう我らの力を世に知らしめる時が来たのだな。 フフフフ・・・。」


 お前もう本当に最初に会った時と変わり過ぎて俺にはついていけん・・。


 はぁ・・。ヴェストニアがウィルバルトの頭で立ち上がり受付の方角を指差すと、ウィルバルトはいつものように大きく息を吐きその方向へと進んでいった。


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