第2話
「はぁ、はぁ、はぁ・・。やっと帰ってこれた・・。」
ウィルバルトが山頂から2時間をかけようやくブリドア山脈の麓に到着した頃には辺りは既に暗くなり始めていた。
「いやぁ、すまんな。この姿ではお前を乗せて飛ぶことも出来んのだ。いや、全く残念だ!」
ウィルバルトの右肩に掴まるヴェストニアが笑みを浮かべながら答える。
くそ・・、こいつこうなるの分かってたな?
てかその顔止めろ、ほんと腹立つ顔だな!!
「まぁそう怒った顔をするな。それに
「現に、あれだけの距離を走ってきた割にはさほど疲れてはいないだろう。」
ヴェストニアはウィルバルトの顔を見ると更に笑みを浮かべた。
「そう言えばもう息も切れてないし、体も痛くないな・・。」
ウィルバルトはその言葉に片腕を回しながら体の変化を確かめる。
確かに体力も魔力も学園で最下位だった俺があれだけ走ってどこも痛めていないなんておかしい。
これが
おぉぉぉ・・。ウィルバルトはその日初めてヴェストニアと契約を結んだことを喜んだ。
「・・・・おい! ウィルバルトじゃないか!!」
バサッ、バサッ・・。 しばらくして聞こえたその声にウィルバルトが空を見上げると、一体の
「・・先生!!」
「良かった、無事だったんだなウィルバルト! もうダメかと思っていたぞ。」
その男性はウィルバルトに近寄ると、安堵した表情を浮かべた。
この人は俺のクラスの担任、3級
落ちこぼれで他の教師からも見放されている俺を唯一気にかけてくれている人物でもある。
「無事なのは良かったが、やはりだめだったか・・。まぁ今回は残念だったが、また機会はある。それまでじっくりと力を蓄えるんだ。」
アーセムは一人だけで麓にいたウィルバルトに笑みを浮かべると、左肩に優しく手を置く。
「あ、違うんです。実は俺も
「な、何だと?! それは本当か?! 何でそれを早く言わないんだ!!」
アーセムはウィルバルトの言葉に両肩を掴みながら答えると、急いで辺りを見渡していく。
「だが、その
「えっと・・、それならここに・・・。」
ウィルバルトが自身の右肩をゆっくりと指差すと、アーセムの手を掴みながらヴェストニアが姿を現した。
「やぁ、初めまして人間。」
「・・・・・・・、えっとこれが
ヴェストニアの姿を見たアーセムは驚きのあまり身動きを取ることが出来ない。
分かる、分かりますよ先生・・。
俺も最初はそうでしたから。
自分を心配そうに見つめるウィルバルトの視線に気づいたアーセムしばらくして首を左右に振り、作り笑いを浮かべ答える。
「・・・い、いや、でもよかった! これでお前も
「ようやく夢が敵ったじゃないか! いやぁー、よかった!!!」
アーセムは笑いながら何度もウィルバルトの両肩を叩く。
「あ、ありがとうございます! ・・・でも実際、こんな小さな
「・・・・・うーん、そうだな。」
ウィルバルトの言葉でようやく落ち着きを取り戻したアーセムは口に手を当て考え込んだ。
「・・・連盟の規定では
「それじゃあ・・!!!」
「ああ! 後日行われる検査さえ超えればお前は晴れて
「よっしゃぁぁぁぁ!!!」
ウィルバルトはその言葉に片手を天に伸ばし喜びを爆発させる。
ハハハハ、ウィルバルトは才能はないが人一倍努力はしてきていたからな・・・。
無事血の契約を結ぶことが出来てよかった。
だが・・・。
アーセムはウィルバルトの肩に掴まる
あんな
というよりあれは本当に
二足歩行の
(おい、お前の力少し借りるぞ。)
【別にいいが、どうしたんだ??】
しばらく考えた後、アーセムは後ろにいる
(いや、少し気になることがあるんだ。)
【まぁそう言うことなら止めはしないが・・。】
(ありがとう。恩に着るよ・・。)
・・・・・
キィィィィィン!!
アーセムは大きく息を吸った後目を開けると、そこにはそれまでと違い青い瞳が現れる。
これは
元はブリドア山脈内ではさほど高レベルでない
ブゥゥゥゥゥゥン・・・。
ど、どういうことだ・・!!
アーセムはしばらくヴェストニアに
「これは一体・・・、ッ!!!」
しかし更に深層を覗こうとした瞬間、アーセムはヴェストニアの中にとてつもない【何か】を感じ急ぎ
「はぁ、はぁ・・。さっきのは一体何だったんだ・・・。」
あれほどの威圧感・・、まさかあの伝説のヴェストニア???
いや、まさかな・・・。 そんなことはあるはずがない、破壊竜を使役する者なんているはずがないんだからな。
俺も疲れているのかもしれないな。
ふっ・・。アーセムは噴き出す汗をぬぐい息を整えると、未だはしゃぎ続けているウィルバルトに声をかげる。
「おいウィルバルト! そろそろ
「特別に
「えぇぇ! いいんですか?! それならお言葉に甘えて!!」
バサッ、バサッ!! ウィルバルトがアーセムの乗る
ここはカンサーレ王国にある唯一の
入学後一年目は
ウィルバルトは座学以外は壊滅的な点数であったことから、
しかしそのウィルバルトが災悪と恐れられる破壊竜ヴェストニアと血の契約を結んだことを誰も知る由もなかった。
バサッ、バサッ・・・・。
既に月上りが照らす
「先生、ありがとうございました!!」
「ああ、今日は早く休むんだぞ! それと早く管理課で
アーセムは笑みを浮かべながら答えると、再び空へと舞い上がっていった。
「それでこれからどうするんじゃ??」
ウィルバルトの右肩にヴェストニアが現れる。
「そうだな、まずはお前の登録をしないとな。」
「ほう、いろいろと面倒くさいんじゃな。
「・・・・ではことが済んだら起こしてくれ。私はしばらく眠ることにする。」
ヴェストニアは大きく欠伸をすると、ウィルバルトの頭の上に移動し体を丸め眠りについていった。
「はぁ・・。器用な奴だな・・・。」
「こんな無防備に寝るなんて、こいつ本当にあの破壊竜ヴェストニアなのか?? 俺にはもう信じられなくなってきたんだが・・。」
はぁ・・・・。ウィルバルト頭の上で眠るヴェストニアに更に大きくため息をつくと、管理課のある南棟へと歩き始めた。
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