━ DRAGON KNIGHT ━ 落ちこぼれ竜騎士見習い、なりゆきできまぐれ最強竜と契約してしまう。

第1話

　ブォォォォォォ・・・・。

　竜の巣と呼ばれるここ、ブリドア山脈にはその名の通り無数の竜（ドラゴン）が生息しており、大小様々な竜（ドラゴン）が日々縄張り争いを繰り広げていた。

　空を飛び、空中より地上を焼き尽くす火竜（フレイムドラゴン）。水中より獲物を待ち受ける水竜（ウォータードラゴン）・・。

　人間界と隔絶されたこの地は人間にとっては過酷な地であり、気を抜けば一秒たりとも生き残ることが出来ない死の世界。

　しかしその世界にあえて踏み入れる者達がいる。

　竜騎士（ドラゴンナイト）。それは竜（ドラゴン）と血の契約を結び、竜（ドラゴン）を使役する者達。

　そこへ到達するにはあまりにも狭き門であり、竜騎士（ドラゴンナイト）見習いと呼ばれる竜騎士学園（ナイトアカデミー）卒業者の最終試験としてこのブリドア山脈にて竜（ドラゴン）と契約を結んで初めて竜騎士（ドラゴンナイト）の称号を得るしかない。

　しかしブリドア山脈は山頂へと進むほど竜（ドラゴン）のレベルが上がるが、成績の優秀な者から順にブリドア山脈に踏み入れる権利が与えられるため、成績の悪い者は麓の比較的おとなしい竜（ドラゴン）と契約を結ぶことが出来ず、山頂付近の高レベルの竜（ドラゴン）に出くわし命を落とすことが殆どである。

　そして今年も新たな卒業生達が竜騎士（ドラゴンナイト）になるべくブリドア山脈に足を踏み入れ、多くの者が命を落としていた。

　そして最後にブリドア山脈に踏み入れる権利を得た、学園始まって以来の落ちこぼれ　ウィルバルト・アストリアの目の前をひと際巨大な黒竜（ドラゴン）が行く手を阻んでいた。

　「・・・・・人間、なぜこのような所にいる？？？」

　「いや、えっと・・・。竜（ドラゴン）と契約を結びたいなと・・、思いまして・・。」

　「ほう・・、竜騎士（ドラゴンナイト）見習いか。」

　ズゥゥゥン・・。　黒竜は笑みを浮かべるとウィルバルトの目の前に体を下ろす。

　ど、ど、どうしたらいいんだ・・！

　麓からここまで既に契約され残っていないのか全く竜（ドラゴン）が見当たらず、そこら中に転がっている死体を見ないように走っていたら、いつの間にか山頂まで来てしまっていた。

　それどころか、まさかこんな化け物 竜（ドラゴン）に出くわしてしまうなんて・・！！

　ウィルバルトはあまりの出来事に額から汗が噴き出した。

　「まぁまぁ、そう怯えずともよい。私もここに住み着いてから３００年、誰とも会話をしていなかったのでな。少しゆっくりとしていけ。」

　「は、はい・・！！」

　黒竜は大気を震わすほどの笑い声を発すると、更に話を続けた。

　「しかし何故 竜騎士（ドラゴンナイト）見習いがこのような所まで来ておるのだ・・。使役する竜（ドラゴン）にするのはもっと低位の竜（ドラゴン）。奴らが生息する麓に行けばよいであろう・・。」

　「そ、それはですね・・。既に契約されたのか、麓には竜（ドラゴン）が全く見当たらなくて気がついたらこんなとこまで来てしまっていて・・。」

　「・・・・・ガハハハハハ！！！　そういうことか！！　つまりお前は最底辺の見習いというだな？！」

　「・・・・いや待てよ。そう言えばこの前、山の中腹にいた火竜（フレイムドラゴン）共をまとめて殺してしまっていたな。・・そうか、だからお前のような者がここまで来ることが出来たのだな。」

　うん、うん・・。　黒竜はウィルバルトの言葉に、何かを思いだし納得したかのように何度も頷く。

　あぁー、俺ここで死ぬのかなー・・。

　やっぱり俺なんかが竜騎士（ドラゴンナイト）になるなんて無理だったのかな。

　父さん、母さん、爺ちゃん、コロ！　ごめんよ！！

　ベッドの下に隠してあるエロ本はどうか破いて捨ててくれ！！

　笑うのをやめ、しばらく自分の姿を見つめる黒竜にウィルバルトは諦めたように目を閉じる。

　「・・・よし！　お前、名前は何という？？」

　「・・へ？？　名前ですか！？　えっと、名前はウィルバルトと言いますが・・。」

　想定外の黒竜の言葉にウィルバルトは目を開け、ゆっくりと答える。

　「ではウィルバルト。お前は使役する竜（ドラゴン）を探しておったのだな？？」

　「そ、そうですが・・・。」

　「ではその竜（ドラゴン）、私がなってやろうではないか！！！」

　「この破壊竜　ヴェストニアがな！！！」

　ヴェストニア・・？　どっかで聞いたような・・。

　破壊竜・・、神殺し・・？？

　はっ！！　ウィルバルトはその名前についてしばらく考えた後、何かを思い出した。

　「ヴェストニアってまさかあの神殺しのヴェストニアか？！」

　「ガハハハハハハ！　そう言えばそのようなこともあったな！！　忘れておったわ！！！」

　神殺しのヴェストニア・・。

　３００年前、天界に単身乗り込み当時の１２神の内、４神を殺したというあの破壊竜か・・！

　ウィルバルトは目の前の黒竜の正体に思わず息をのむ。

　「な、なんでそんな奴が使役竜になろうなんて思うだ・・。」

　「そうだな、ここに一人でいるのにもう飽きたのだ。だから人間界に行ってみるのも悪くないと思ってな。それになんだかお前のことが気の毒になったのだ。」

　「まぁただの気まぐれ、気にするな。」

　ウィルバルトの言葉にヴェストニアは大きく笑いながら答える。

　「いやいやいや！　分かってるのか？？　もし血の契約を結べば一生俺と離れることは出来なくなるんだぞ？？　俺の命令にも従わないといけないし・・。」

　「分かっておるわ、私を誰と思っている。　・・・ほらどうするのだ、契約するのかしないのか？？」

　ヴェストニアは前足の人差し指をウィルバルトに向ける。

　「ほ、本当にいいのか？？　そういうことなら本当に契約するぞ？？」

　「よいよい、私の気が変わらぬ内に早くせよ。」

　・・・あぁ、もう！！ この際破壊竜だろうが何だろうが関係ない！

　ウィルバルトはようやく決心したように腰の短剣を抜き自分の手のひらを切ると、ヴェストニアにも同様の切り傷を付けた。

　「ふぅ・・。それじゃあいくぞ・・。」

　「我、ウィルバルト・アストリアは破壊竜 ヴェストニアと血の契りを結ぶ。この契りは今後いかなる時も破棄することは出来ない。ヴェストニアに再度問う。我と血の契りを結ぶことを受け入れるか？？」

　「・・・受け入れよう。」

　「それではこれにて儀式は終了とする。最後に互いの血を混じらせることで血の契約は不変の契りとなろう。」

　ウィルバルトは契約の言葉を終え、自身の手のひらをヴェストニアの切り傷に重ねると、その部分が光を放ち始め二人の首には同様の紋章が浮かび上がった。

　「・・・これで契約は終了だ。」

　「ふむ・・。意外と呆気ないんだな。何も変わった気がしない。」

　ウィルバルトの言葉に、ヴェストニアは何やら不満そうに答えた。

　・・・俺からしたらもの凄く変わったんだけどな。

　それに契約によってヴェストニアの魔力が流れ込んできたが、その量が多すぎて気持ち悪い・・。

　うっ・・。ウィルバルトは口に手を当てるが何と胃から上がってきたものを飲み込んだ。

　「・・・それじゃあ、そろそろ学園に戻るとするか。ヴェストニアの事も連盟に登録しないといけないし・・・」

　しかしここでウィルバルトはある重大なことに気が付く。

　いや待て・・！　そもそもヴェストニアって人間界に連れて行ってもいいのか？？？

　神を殺すほどの魔力の持ち主だろ？？

　あれ、これ無理じゃね！？！？

　「あ、あの・・、ヴェストニアさん・・。」

　「何だ気持ち悪いな。呼び方はヴェストニアでよい。それでどうしたのだ？？」

　「じゃあヴェストニア。もしかしたらお前を人間界に連れて行くのは出来ないかもしれない・・。」

　「お前って、神殺しなんだろ・・・？」

　「・・・・あっ。」

　ヴェストニアはその言葉に人間のように前足を口に当てる。

　いや、どんなキャラだよ！！！

　でもしまったなー・・。既に契約は成立しちゃってるし・・。

　うーん・・。二人はしばらく考えた込んだ、突然ヴェストニアが手を叩き何かを思いついた。

　「そうだ！　私がヴェストニアとバレなければよいのだ！！」

　「それはそうだけど、お前みたいな竜（ドラゴン）他に見たことがないし、大人達ならすぐに気づくんじゃないか？？」

　「フフフフフ・・、それはな、こうすればいいのだ！！！」

　ブオォォォォォォ！！！

　ヴェストニアが翼を広げると、とてつもない突風が辺りに吹き荒れ、ヴェストニアの体は見る見るうちに小さくなっていった。

　「どうじゃ、これならバレまい！！」

　チョコンッ・・。　しばらくして風が止み、ウィルバルトがようやく目を開けるとそこには先ほどまでの巨大な黒竜の姿はなく、地面に５０センチほどの丸々とした二足歩行の小さな生き物が立っていた。

　「え、なにこれ可愛い・・。」

　「な、なにを！！　ウィルバルト、このヴェストニアに向かってそのような物言いは許さんぞ！！」

　ヴェストニアはウィルバルトの足元まで駆け寄ると、何度も前足でウィルバルトを殴るがすぐに息切れを起こし地面に座り込む。

　「だ、大丈夫か？？」

　「はぁ、はぁ・・。む、無論じゃ。」　

　「ただこの姿だとこの通りゴブリン以下の力しか出せないんじゃ。まぁこれで私がヴェストニアだとは誰も思うまい。」

　確かにそうだが・・・、これって俺 竜騎士（ドラゴンナイト）って認められないんじゃないか？？？

どう見たって乗れないだろこいつには！！

　「はぁ・・。まぁいいか、今後のことはこれから考えるとしよう。」

　「何をブツブツ申しておる！」

　「だがウィルバルト！　これからよろしく頼むぞ！！！」

　「・・・・ああ。」

　ガシッ。　ウィルバルト腰を下ろすと、ヴェストニアの小さな手を掴み握手に応えた。