125 珍しい組み合わせ


 手を取り合った初華と藍圭の後に続いて初華の私室を出、港へ向かう馬車が待つ王城の入り口へ向かおうとした明珠達が、廊下をいくばくも進まぬうちに行き会ったのは、珍しい組み合わせの二人だった。


「これはこれは、なんと凛々しい花婿はなむこ様と、お美しい花嫁様でございましょう。お二人が並んでらっしゃると、まばゆさに目もくらむ心地でございます。本日の『花降り婚』に参列するものは、己の幸運に感動の涙を滂沱ぼうだと流すに違いありませんね」


 歯の浮くような台詞をてらいもなく口にしたのは、龍華国の高官にふさわしい立派な衣装を纏った玲泉だ。


 目もくらむ心地と言っていたものの、立派な衣を纏い、端麗な美貌ににこやかな笑みを浮かべた玲泉自身も、十分にまばゆいほどだ。


 その玲泉の隣に立っているのは。


「いや~っ、玲泉サマの言にそのまま同意するのはしゃくっスけど、ほんとその通りっスねぇ~♪ 初華姫様も藍圭陛下も、美男美女でホントお似合いっス~♪ こりゃ、お守りするほうも気合いが入るってもんっスね♪」


 なぜか、晟藍国の水軍の鎧に身を包んだ安理だった。あらかじめ龍翔が喚んでいたのか、安理の額には《視蟲》がとまっている。


「安理。戻ってきていたのか」


 龍翔の言葉に、安理がにへら、と笑みをこぼす。


「いや〜。さすが藍圭陛下と初華姫様のご婚礼の儀っスね♪ こっちで予想していた以上の人出なんで、いちおー先にご報告しておこうと思いまして♪ ほんっとスゴいっスよ~! も〜、華揺河が船で埋まるんじゃないかと思うほど、みっしりっス! 晟藍国だと龍華国より操船技術が高いから可能なんでしょうね~。とゆー、ワケでどこに誰が潜んでいるか探るのは、オレの腕をもってしても、さすがに不可能っス!」


 悪びれずに告げた安理に、季白が目を怒らせる。


「不可能と言われて、はいそうですかと応じられるわけがないでしょう!?」


「いやでも季白サンも、実際に華揺河を見たらオレが言いたいコトがわかりますって! 船の出入りが規制されてる舞台周りを除いたら、芋洗いかと思うほど船がひしめいてるんスから! いちおー、オレもこれじゃマズいと思って、すぐおそばでお守りしようと、魏角将軍に水軍の鎧を借りてきたんスよ? これなら、藍圭陛下のお船に同乗させていただいて、舞台袖で待機できるっスからね♪」


 安理が晟藍国水軍の鎧を着ているのは、そういう理由らしい。安理の言に、玲泉が優雅に頷く。


「確かに、舞台の上ではわたしや龍翔殿下がいらっしゃるが、港から舞台まで船で移動する間は、藍圭陛下のおそばは浬角殿と魏角将軍、周康殿だけと、手薄になってしまうからね。護衛は多いほうがいいだろう」


「かといって、あんまり厳重にしすぎても、それはそれで怯懦きょうだだとか余計な文句をつけるめんどくさいやからもいるっスからねぇ」


 安理がはあぁっ、と芝居がかった様子でため息をつく。


 代々の晟藍国王族の婚姻の慣例に従って、花婿と花嫁は港の両側から船に乗って舞台へ行くことになっている。


 初華の乗る船には差し添え人である龍翔や玲泉、季白や張宇が乗るが、藍圭のほうに乗るのは浬角と魏角将軍だ。二人は術が使えないため、もし《蟲》で襲われた時のために、術師である周康が晟藍国の従者を装って一緒に乗りこむ手はずとなっている。


 《蟲》が見えない面々の額には、すでに龍翔が《視蟲》を喚んでいた。


「じゃ、雷炎殿下もすでに出発なさってますし、こちらもそろそろ行くっスか~?」


 来賓である雷炎は、大臣の瀁淀や高官とともに、一足早く王城をって舞台へ向かっている。


 安理が堂々と姿を現し、気安い口を叩いているのも、雷炎や瀁淀がすでにいないからだ。


僭越せんえつながら、藍圭陛下の馬車は、オレが御者を務めさせていただくっス~♪」


 飄々ひょうひょうとした口調とは裏腹に、見事な所作で一礼した安理が、先頭に立って歩き出す。


 ここから先は、しばらく藍圭と初華は別々だ。とはいえ、馬車が違うだけで、港までは同じ道行きなのだが。


「初華姫様。では、『花降り婚』の舞台で」


「ええ、藍圭様。楽しみにしておりますわ」


 いっときの別れを惜しむように、つないでいた指先にぎゅっと力を込めた藍圭に、初華があでやかな笑みを返す。


「はいっ!」


 大きく頷き、一歩踏み出した藍圭の後に従い、明珠達も歩を進めた。


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