102 雷炎の出迎え その2
「龍華国の高官達も愚かではありませぬ。藍圭陛下が晟藍国の国王としてふさわしく、長く国を治められると判断したからこそ、大切な皇女を降嫁させる決定をしたのです。己の利を肥やすことしか眼目にない俗物では……。たとえ、親子で来ようと、『花降り婚』の要請は門前払いだったでしょうな」
「「っ!」」
強烈な酷評に、瀁淀と瀁汀がそろって顔色を失う。
追い打ちをかけるように初華が力強く頷いた。
「ええ、まったく! お兄様のおっしゃる通りですわ! わたくしは、藍圭陛下がお相手だからこそ、『花降り婚』を受諾したのです! 他の方に嫁ぐ事態になるのなら、そもそもお受けしておりませんっ!」
初華の痛烈な拒絶に、瀁淀親子がそろって顔を歪める。
憎々しげな表情からは、初華が『花降り婚』の要である龍華国の皇女でなければ、容赦なく
瀁淀と瀁汀の態度は、龍翔も思わず口を出してしまうほど無礼なのは確かだが、『花降り婚』が終われば龍華国へ帰る龍翔と異なり、今後、晟藍国の正妃としてやっていくにもかかわらず、対決を辞さないとは……。
初華に気の強さは、兄として心配になってしまう。
瀁淀達の怒りの
「そもそも、藍圭陛下が雷炎殿下を
安理が情報を持ってきた時点では、お忍びで晟都へ向かっているという話だったが、昨日、突然、「藍圭の婚礼を
もともと情報を得ていた龍翔達に動揺はなかったが。龍華国と並ぶ大国である震雷国の名に高官達はあわてふためき、誰が雷炎の応対をするのかと朝議の議題にも上がったのだが。
肝心の朝議に、瀁淀と瀁汀はともに姿を現さなかった。
藍圭が晟都へ戻ってきた当初は、瀁淀と瀁汀が高官達を
おそらく瀁淀は、朝議において雷炎の応対役が正式に藍圭に決まる事態を避けたかったのだろう。
雷炎を確保さえすれば、欠席を理由に決定を知らなかったと言い張り、強引に自分が応対役を務めるつもりだったに違いない。
「ど、どういう了見も何も……。わたしはこれまで、震雷国との友好関係を担ってきた大臣として、己の責務を果たそうと病をおして、お出迎えに参ったまででして……」
瀁淀が急に咳きこみ始める。
「あらあら。万が一、雷炎殿下にご病気をうつせば、それこそ一大事ですわね。どうぞ大臣は屋敷で療養くださいませ」
初華が愛らしい面輪をしかめ、表面上はさも心配そうな声音で告げる。
「あ……っ。船が来たようです!」
龍翔も視線を向ければ、王族用の船着き場に紅の地に、
瀁淀にかまうあまり、肝心の雷炎の出迎えがおろそかになってはいけない。
どちらも
瀁淀と瀁汀、そして供である
震雷国は大国だが、龍華国より格上というわけではない。むしろ、大陸一の座を争っている仲だ。丁重に接しはしても、膝を屈する事態などありえない。
龍翔達が見つめる中、船室の扉が開き、日に焼けた精悍な顔つきの大柄な青年が姿を現す。
が、その両脇にまとわりつく絹の薄物を纏った妓女達の姿を見た途端、龍翔は眉がきつく寄りそうになるのを意志の力で押し留めた。
「おう、
雷炎が両脇の妓女達にさばさばとした口調で告げる。
「まぁっ、もう港についてしまったなんて、残念ですわ」
「殿下のお呼びとあれば、何をおいても参りますわ。ぜひ、これからもご
蜜漬けの水菓子のように甘ったるい声で告げた妓女達が名残惜しげに、それでも素直に腕をほどき、しゃなりしゃなりと船室へ戻っていく。
妓女達の美貌や身のこなし、絹の衣から察するに、高級妓女達なのだろう。引き際も心得ているようだ。
が、晟藍国側の出迎えがあるとわかっていながら妓女とともに姿を現すとは。
単なるうつけか、それともよほど豪胆なのか。
龍翔は雷炎の人となりを見極めようと、鋭い視線を長身の偉丈夫に注いだ。
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