21 黒曜宮にはいられません!? その2
黒曜宮に戻った龍翔を出迎えたのは、明珠と梅宇達、そして張宇と周康だった。
「季白と安理は?」
私室へと歩きながら問うと、張宇がすぐさま答える。
「初華姫とのお約束がございますので、季白はまもなく帰ってくるかと。安理は……。申し訳ございません。帰りがいつになるのか、わかりかねます」
「そうか……」
安理にあれこれと調査を命じたのは龍翔なので、安理が黒曜宮にいないのは予想がついていた。が。
「どうかなさったのですか?」
二人で私室に入り、着替えを手伝う張宇が、龍翔の髪から冠を外しながら、気づかわしげに問う。
「初華に昼食に誘われたのだが、その場に玲泉も居合わせてな。午後から、わたしやお前達が黒曜宮を不在にすると知られてしまった。わたしが不在の間に、ここへ押しかけてくる可能性が高い」
不機嫌を隠さずに告げると、「それは……」と張宇が困り顔になった。
「ですが、不在と知っていて、本当に来られるでしょうか?」
遠慮がちに問う張宇に、
「来る。必ず来る」
顔をしかめて断言する。
「玲泉の奴め、わざわざ初華の前で挑発をしかけてきた……。完全に、明珠に目をつけられたな」
今は張宇しかいないので、遠慮なく舌打ちする。
なぜ、よりによって玲泉なのか。
明珠は、玲泉がふだん遊び相手にしている官吏見習いや、侍従の少年とは違うのだと。
そもそも、少年ですらないと、あの澄ました顔の襟首をつかんで、怒鳴りつけてやりたい。
――叶うはずのない望みだが。
「玲泉が来ると分かっていて、明珠を宮においておくわけにはいかぬ」
梅宇がいくら、「主は不在です」と追い返そうとしても、大臣の息子である玲泉に、
「では、待たせてもらおうか。どうしてもお会いしたくてね」
と言われたら、むげに断ることはできない。
明珠に部屋から出ぬよう、厳命すればいいかもしれないが、自分がいない黒曜宮で、明珠を玲泉のそばに置いておくことさえ、嫌だ。
玲泉がどんな強引な手を使うか、知れたものではない。
「初華はお前と季白も招いていたが……。すまぬ。張宇、わたしが戻るまでの間、明順を宮から連れ出してもらえるか?」
周康も選択肢としてあるが、龍翔としてはやはり、張宇の方が安心だ。
張宇が見る者を安心させるような、穏やかな笑みを浮かべる。
「龍翔様のお望みとあれば、なんでもいたしましょう。ですが……。宮を出るとしても、どちらへ行くのが安全でしょう?」
張宇の問いに、「そうだな……」と
間違っても、人目が多いところに連れ出すわけにはいかない。
龍翔の片翼である張宇は、それなりに顔を知られているし、長身なので人目を引きやすい。
これ以上、明珠に興味を持つ
となると……。
「……第三書庫はどうだ? あそこなら、ふだんから人が少ないだろう。口うるさい堅物の司書殿もいるしな」
龍翔は、立派なひげをたたえた渋面の老人を思い浮かべる。
彼ならば、書庫の静寂を乱す者は、たとえ蛟家の玲泉であろうとも許さむだろう。
「確かに、第三書庫はよいでしょうね」
「頼む。……すまんな、張宇。初華がお前のためにと用意した菓子は、ちゃんと持って帰ってくるゆえ……」
頭を下げようとすると笑った張宇に押しとどめられた。
「何をおっしゃいます。龍翔様のお役に立てることがあるのでしたら、喜び以外の何物でもありません。どうぞ、初華姫によろしくお伝えください」
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