20 まさか湯殿に乱入です!? その4
乾晶にいる間も、旅の間も、日中は青年の姿でも、夜、眠る時には少年の姿で寝ていた。
例外は、
明珠の問いに、龍翔が申し訳なさそうに顔をしかめる。
「お前に相談もせずに決めて申し訳ない。いくら責めてくれてもかまわん。同じ部屋だというのなら、今からでも隣の部屋から季白を追い出して……」
「ちょっ!? お待ちくださいっ! 季白さんを追い出すってそんな……っ! ものっすごく嫌な顔をされますよっ!?」
そんなこと、恐ろしくて、とても頼めたものじゃない。
よしんば、龍翔の命に季白が頷いたとしても後で絶対、明珠が季白に睨まれるに決まっている。
「だが……。移らぬのなら、わたしと一緒の部屋で眠ることになるのだぞ?」
「? 今までもそうだったではありませんか? それに、
堅盾族で眠りにくかったのは、衝立がなかったからだ。ここなら張宇が運び入れてくれた衝立で視界が遮られるので、何の問題もない。
きょと、と首をかしげると、龍翔が愛らしい顔を盛大にしかめた。
「まったく、お前は……」
ずいっと一歩踏み出した龍翔が、「龍玉を」と命じる。
「は、はい」
明珠は衣の上から守り袋を握りしめると、目を閉じた。
明珠の肩に片手を置いた龍翔が、背伸びする気配がする。
柔らかな唇が、明珠にふれ。
肩に置かれた手が、大きな手に変じる。
「少年の姿にならぬということは」
耳に心地よく響く深い声が、明珠の鼓膜を震わせる。
「元の姿のわたしと同じ部屋だということだぞ? それでもよいのか?」
「あ、あの……っ」
目を開けた途端、着物をはだけさせた青年姿の龍翔が視界に飛び込んで、明珠はあわててきゅっと目を閉じる。
「すまぬが、まだ足りぬ」
龍翔の手が顎にかかり、うつむいていた顔を上げさせられる。
ふたたび、今度は背の高い龍翔に、覆いかぶさるようにして唇をふさがれる。
「んぅ……」
反射的に押し返そうとした手が、なめらかな素肌にふれ、あわてて手を引っ込める。
顎から離れた龍翔の手が、ゆっくりと首筋を辿って下りていく。
「んっ……」
優しい指先がくすぐったくて、思わずくぐもった声がこぼれる。
洩れた呼気を逃さぬとばかりに、くちづけが深くなる。
首筋から頭の後ろへと手が回り、長い指先が髪を
これ以上は窒息する、と明珠が怖くなりかけたところで、ようやく龍翔の唇が離れた。
荒く息を吐きながらよろめいた身体を、力強い腕に抱きとめられる。
「
どこか挑むような口調で、龍翔が言う。
が、明珠はそれどころではない。
はだけた胸元にふれている頬が、燃えるように熱くなっているのがわかる。
「翻すなんてそんな……っ。それより、お放しくださいっ」
居心地悪く身動ぎすると、龍翔の手が緩んだ。
そそくさと一歩退き、ほっとしたのも束の間。
「のぼせていた時と変わらぬほど、顔が赤いぞ?」
悪戯っぽい表情の龍翔に顔をのぞきこまれ、うろたえる。
「そ、それは、龍翔様がびっくりさせるから……っ」
思わず睨むと、「すまんすまん」と、あやすように頭をぽふぽふと撫でられた。
「お前さえ、よいと言ってくれるなら、わたしとしては、そばにいてくれた方が、何かと安心だ」
秀麗な面輪に、からかうような笑みが浮かぶ。
「お前は、目を離すと何をしでかすか、本当にわからんからな?」
「っ!」
明珠は息を飲む。
乾晶でさんざん心配をかけ、「しっかり見ているから叱らないでやってくれ」と龍翔から季白にとりなしてもらったのは、ほんの半月ほど前のことだ。
別に、明珠としては、しようとして無茶をしたわけではない。
が、職務放棄と季白に叱責されるほどの迷惑をかけたのは確かだ。
「す、すみません……。玲泉様にお会いしてしまったせいで、また龍翔様のご迷惑をかけてしまっていますか……?」
龍翔の役に立ちたいのに、どうしてこうも上手くいかないのだろう。
しゅん、と肩を落としてしおれていると、龍翔のあわてた声が降ってきた。
「玲泉と会ったのは、運が悪かっただけだろう? 昼にも言った通り、お前の過ちでもないのに、
よしよし、とふたたび頭を撫でられる。
「だが……」
優しい手つきとは裏腹な固い声に、明珠ははじかれたように顔を上げた。
「禁呪のことを秘すためにも、お前の正体を玲泉に知られるわけにはいかぬ。そもそも、玲泉をお前に近づけさせる気などないが、お前も十分、警戒しておくのだぞ」
「は、はい!」
こくこくと何度も頷く。
が、龍翔は固い表情のままだ。
「お前は人が好いから心配だ。よいか? 優しげな見目だからと油断するなよ? 玲泉の手の早さは、宮中でもことに有名なのだからな」
「ええっ!? そんな暴力的な方には、まったく見えなかったんですけど……っ!?」
「……」
龍翔がますます渋面になる。
「人は見かけによらないってことですね! わかりました、気をつけます!」
「……うむ。気をつけるのならば、それでよい……」
明珠の言葉に、龍翔が吐息しながら、どこか疲れたように頷いた。
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